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童話集  作者: 清ピン
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ルルとちきゅうのこころ — 戦(いくさ)の夜をこえて —

テーマ:「民主の国・社会の国・共産の国・資本の国が、それぞれの“正しさ”を主張し戦争になる。しかし、武力ではなく“お互いを認め合う心”こそが平和をつくる」

主人公は再び少女ルル。地球の声をきける少女が、もう一度世界をつなぎます。

戦争を直接的に描くのではなく、子どもにも読める童話調で、寓話として表現しています。

1.青い星のゆらぎ

 青い星「ちきゅう」が、かすかに震えていました。

 夜空を見あげると、星の光は前よりもずっと弱くなっていました。

「……ルル……」

 森の奥から、あのやさしい声が聞こえました。

「ちきゅうさん?」

「ごめんなさい……わたし、いま、とても苦しいの」

 ルルは胸をおさえました。

 風がざわざわと鳴り、鳥たちは空を飛び立ち、川の水はにごっていました。

「何が起きてるの?」

「国と国が、たがいに怒鳴り合い、にらみ合い、とうとう……いくさをはじめたの」

 ルルの顔が青ざめました。

「そんな……!」

 空のむこう――

 “みんしゅの国”

 “しゃかいの国”

 “きょうさんの国”

 “しほんの国”

 それぞれが「わたしたちが正しい!」と叫びながら、戦いの準備をはじめていたのです。

2.四つの声

 ちきゅうは、かすかにため息をつきました。

「ルル、きいてごらん。いま、世界にはこんな声がひびいているの」

 まず、南の風がささやきました。

「わたしたちは“自由”を守るのだ!」

 それは“みんしゅの国”の声。

「話し合いが大事だといっても、力を持たなければ押しつぶされてしまう!」

 つぎに、北から冷たい風が吹きました。

「みんなで分け合う世界を、力でつくる!」

 それは“しゃかいの国”の声。

「不公平をなくすためには、強くあらねばならぬ!」

 東からは赤い炎のような風が吹きました。

「世界をひとつにまとめる!すべてを平等に!」

 それは“きょうさんの国”の声。

「そのために戦うことも正義なのだ!」

 そして西から、金属の音をまじえた風がとどきました。

「富と力こそが平和をつくる!」

 それは“しほんの国”の声。

「武器もお金も持つ者が、世界を守るんだ!」

 ルルは耳をふさぎました。

 四つの声がぶつかり合い、夜空に黒いひびが走っていました。

 そのひびは、まるで星が割れてしまう前ぶれのように――。

3.ちきゅうの涙

「ルル……このままでは、森も、海も、空も、すべてがこわれてしまう」

 ちきゅうの声は、かすかにふるえていました。

いくさは、人と人だけのことじゃない。森が焼け、海がにごり、空がくすみ、風が泣く」

「どうしたらいいの?」

「きっと、だれもが“じぶんの正しさ”を信じすぎて、耳をふさいでいる。

 武器ではなく、“きく耳”を取りもどさなければ……」

 ルルは深く息を吸いこみました。

「わたし、行くよ。もう一度、世界を歩いて……ちきゅうの声を伝える」

 ちきゅうのひかりが、ルルの胸にすっととけこみました。

 ――それは、ルルが世界をつなぐ“橋”になる合図でした。

4.みんしゅの国の夜

 最初にルルがたどりついたのは、みんしゅの国でした。

 町の広場では、人びとが大きな旗をふり、「自由をまもれ!」と叫んでいました。

 夜空には戦う飛行機の影がうつり、子どもたちの目はこわばっていました。

 ルルは広場の真ん中に立ち、大きな声で言いました。

「ねえ、空を見て!」

 人びとが一瞬ふりむきました。

 夜空には、ひびの入った月が浮かんでいました。

「自由は、とても大切なもの。でも……その自由を守るために、ほかの誰かを傷つけるの?」

 一人の兵士が言いました。

「でも、あっちが攻めてきたら、守らなきゃ!」

 ルルは首を横にふりました。

「戦えば、みんながけがをする。自由も、空も、森も、ぜんぶなくなるよ」

 風が広場をふきぬけました。

 人びとの心に、ほんの少し、迷いのひかりがともりました。

5.しゃかいの国の行進

 つぎにルルは、しゃかいの国へ行きました。

 そこでは、兵士も市民もいっしょに、同じ歌を歌いながら行進していました。

「みんなでたたかい、みんなで守る!」

「強くなければ、平等はつくれない!」

 ルルは行進の先頭に立ち、声をはりました。

「ねえ、本当の平等って、戦って手に入れるもの?」

 兵士たちの足が、一瞬とまりました。

「みんなで分けあう心はすてき。でも、その心を守るために、だれかをこわすの?」

 風が赤い旗をふるわせました。

 一人の少年兵が旗をおろし、小さくつぶやきました。

「……戦わなくても、平等をつくる方法があるのかな」

 ルルはうなずきました。

「うん、話しあうこと、きくこと、認めあうこと。力じゃなく、心で」

6.きょうさんの国の炎

 東の空は、赤い炎のように光っていました。

 ルルがきょうさんの国に着くと、大きな塔の上で、リーダーが声をはりあげていました。

「この世界に、バラバラはいらない! 一つにまとまれば、戦いは終わる!」

 ルルは塔の下から叫びました。

「“一つ”になるために、みんなを倒すの?」

 リーダーがルルを見おろしました。

「子どもよ、知らぬだろう。理想の世界をつくるには犠牲がいる!」

 ルルは静かに言いました。

「犠牲の上にたつ世界は、ほんとうの平和じゃない。

 一つになることと、みんなをおなじにすることはちがうよ。

 ちがいを認めあうこと、それがほんとうの“ひとつ”」

 その言葉は、塔に反響しました。

 兵士たちの手から、旗が一枚、二枚とおちていきました。

7.しほんの国のビルの上

 さいごにルルは、しほんの国にやってきました。

 そこでは高いビルの屋上で、お金持ちたちが戦争の地図をながめていました。

「このいくさは、ビジネスになる」

「武器を売ればもうかる。力こそ正義だ」

 ルルは屋上にかけあがりました。

「ねえ!お金がいくらあっても、森がなくなったら、空気は吸えないよ!」

 男のひとりが冷たく笑いました。

「理想だけじゃ、世界はまもれないんだよ」

 ルルはまっすぐその目を見つめました。

「でも、お金じゃ“いのち”は買えない」

 風がビルの上を吹きぬけ、書類を空にまきあげました。

 それはまるで、しほんの国が胸の奥にかくしていた“ほんとうの声”を、ひきはがすようでした。

 ひとりの若い商人が、拳をおろしました。

「……守るべきは、金じゃなくて、この星なのかもしれない」

8.黒い空の下で

 四つの国をまわったあと、ルルは丘の上に立ちました。

 空は真っ黒でした。

 戦争はもう、はじまっていたのです。

 空には鉄の鳥がとび、地面には戦車の足音がひびきました。

 森は焼け、川はにごり、風は泣いていました。

 ルルは胸に手をあて、叫びました。

「ちきゅうさん!」

「……ルル……あなたの声は、もうみんなの心に届いている。でも、人はすぐには変われないの」

「でも、何とかしたい! こんな星、いやだ!」

 ルルの胸から青い光があふれました。

 その光は空へとのぼり、夜空に大きなひびを照らしました。

 ――青い光は、世界じゅうの空にひろがりました。

9.声がひとつになる夜

 戦場のあちこちで、ふしぎなことが起こりました。

 兵士の耳に、森のささやきが聞こえたのです。

「たたかわないで……」

 空をとぶ飛行機のパイロットが、涙をこぼしました。

「この空は、ぼくらだけのものじゃない」

 工場の中で武器をつくっていた人が、手をとめました。

「この鉄は、森の血だ……」

 各国の人々が、いっせいに空を見あげました。

 そこには、ルルの青い光がやさしくかがやいていました。

10.四人のリーダー

 四つの国のリーダーたちが、戦場のまんなかで顔を合わせました。

「自由を守るために戦った」

「平等をつくるために戦った」

「理想を実現するために戦った」

「富と力で世界を守るために戦った」

 それぞれが、胸に手をあてました。

 しかし、その手には――血と、涙がしみこんでいました。

 リーダーの一人が、空を見あげました。

「……われわれは、“正しさ”のために戦ってきた」

 別のリーダーがつぶやきました。

「でも、戦えば、正しさはみんな傷つく」

 ルルが歩みよって言いました。

「ちがっていい。みんな、ちがう国、ちがう考え。でも、それを認めあうことが、ほんとうの強さ」

 風が四人のまわりをめぐり、青い光がやさしく包みこみました。

11.ちきゅうの声

 その瞬間、夜空のひびがすこしずつ閉じていきました。

 空の星が、ふたたび明るくかがやきはじめました。

「ルル……よくやったね」

 ちきゅうの声が、あたたかくひびきました。

いくさは、武器で止めることはできない。

 でも、“心”で止めることはできる。

 そのことを、あなたたちが思い出してくれた」

 四つの国は、戦争をやめました。

 兵士たちは武器を置き、農場や学校に帰っていきました。

 空は澄み、海はひかり、森はまた歌いはじめました。

12.新しい約束

 四人のリーダーは、丘の上に集まりました。

 ルルが見守る中、それぞれが言いました。

「自由を、戦わずに守る方法を考えよう」

「平等を、武力ではなく話し合いでつくろう」

「理想を、犠牲の上ではなく、共生の上に」

「富を、星といのちと分けあおう」

 それは“地球条約”とよばれました。

 戦争ではなく、認めあうための約束です。

 ルルはそっと笑いました。

「ねえ、ちきゅうさん、聞こえる?」

「ええ、ルル。あなたたちの声が、わたしの心をあたためてくれている」

13.風が歌う朝

 戦争の夜があけ、朝の光が丘を包みました。

 鳥がさえずり、風が歌いました。

 ルルは草の上に寝ころびました。

「ねえ、風さん、もう戦争はこない?」

 風がルルの髪をなでました。

「わからないよ、ルル。でもね……人は、もう一度、思い出したんだ。

 武器よりも強いもの――“認めあう心”を」

 ルルは空を見あげ、にっこりと笑いました。

 その笑顔は、空いっぱいにひろがり、世界中のこどもたちの胸に届きました。

14.ルルのこころ

 その日から、世界の地図は変わりませんでした。

 国は国のまま、思想も思想のまま。

 でも、人々の“こころ”は、少しずつ変わっていきました。

 戦争の代わりに、話しあいの広場が生まれました。

 旗の代わりに、花がかざられました。

 憎しみの声の代わりに、歌がうまれました。

 ルルは、森の丘で風とあそびながら、ふと思いました。

「ねえ、ちきゅうさん。人間って、すごいね」

「ええ、ルル。傷ついても、立ちあがって、また“やさしさ”を取りもどせる。

 だから、わたしはこの星が大好きなんだ」

 ルルは目をとじ、青い空の下で深呼吸しました。

 風が、森が、海が、空が――いっせいに笑いました。

…… おわり


物語のメッセージ

この童話は、

民主・社会・共産・資本という「ちがう正しさ」を持つ国が、

互いを否定しあうことで戦争に突入し、

最後に「正しさではなく、お互いを認め合う心」で平和を取り戻す

という寓話です。

「ちがっていい」という前提に立てば、武力ではなく対話と信頼で世界は変えられる。

それが、ルルと地球が伝えた「ほんとうの力」でした。

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