表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童話集  作者: 清ピン
2/7

雪の妖精と盲目の少女

この物語は、**「奇跡の優しさ」と「見えないものを信じる心」**をテーマにした童話です。

描写を細かくし、登場人物の心情と街の情景をゆっくりと描いてます。

――雪が静かに舞い落ちる夜でした。

 空からひらり、ひらりと、白い羽根のような雪の結晶が地上を包みこみ、世界をまるで夢の中のように変えていきます。

 北の森の奥深く、雪の木々が並ぶ小さな泉のそばに、一人の妖精がいました。

 その名は「ユキノ」。冬の夜にしか姿を現さない、雪の妖精です。透きとおるような白い髪に、淡い青の瞳。背中には、氷の羽がキラキラと光っていました。

 ユキノには、冬の妖精だけが持つ特別な力がありました。

 それは、「妖精のしずく」と呼ばれる、たった一滴でどんな傷も癒すことができる奇跡のしずくを持つことです。

 ただし、雫は一生に一度しか使えません。そして使えば、ユキノは二度と雪の世界に帰れず、人間の世界の雪として溶けてしまう――。

 だから、ユキノはその雫をずっと大切に胸にしまい、誰にも渡したことがありませんでした。

盲目の少女との出会い

 そんなある晩、ユキノは森の外れでふしぎな歌声を耳にしました。

 雪が舞う中、小さな橋のたもとに一人の少女が立っていました。

 少女の名前は「ミナ」。

 薄いコートを羽織り、白い杖を手にしていました。

 ユキノは空から舞いおり、ミナのそばにそっと立ちました。

「ねぇ……あなたは、だれ?」

 ミナはユキノの姿を見ていないはずなのに、まるで気づいているようでした。

「わたしはユキノ。雪の妖精よ」

「妖精……? ふふ、そんなの本当にいるの?」

「いるわ。あなたの声があまりにきれいだったから、降りてきたの」

 ミナは小さく笑いました。

 そして空に顔を向け、目を閉じたまま、雪の音を聞いていました。

「……わたしね、目が見えないの。でも雪の音は、聴こえるの。

 しんとした音の中に、きらきらした光があるような気がするんだ」

 ユキノはその言葉に胸がきゅっと締めつけられました。

 ミナの瞳は曇ったように閉じられ、ずっと暗闇の世界の中で生きているのでした。

「あなたの目を……治せたらいいのに」

 ユキノは思わずそう呟いていました。

 胸の奥には、たった一滴の「妖精の雫」。

 それを使えば、ミナの目は光を取り戻すでしょう。

 でも、使えば自分はもう、妖精ではいられなくなる。

 ――どうすればいいの……?

妖精の決意

 その夜、ユキノは雪の森に戻り、泉のほとりで月を見上げました。

 ミナの笑顔が頭から離れません。

「一滴だけの雫……それを使えば、あの子は光を取り戻せる。でも、わたしは……」

 泉に映る自分の姿が、少し震えました。

「でも……あの子の世界に、雪の光を見せてあげたい」

 ユキノは静かに決意しました。

 雫を使うことを――。

 あとはミナの家に行き、雫を届けるだけです。

 ところが、ユキノには一つだけ大きな問題がありました。

 ――ミナの家が、どこにあるのかわからない。

雪だるまになる

 冬の夜、人間の世界を自由に歩くのは妖精にとって難しいことでした。

 そこでユキノは、魔法を使い自分の姿を「雪だるま」に変えることにしました。

 ふわふわの雪で作られた丸い体。黒いボタンと赤いマフラー。

 ちょこんと頭には赤い帽子。

「これなら……人間の街を歩いても、気づかれないはず!」

 ユキノは、コロコロと雪だるまの姿で坂を転がり、人間の街へと出発しました。

クリスマスイブの街

 街はきらびやかなイルミネーションで輝いていました。

 大きなツリー、鐘の音、プレゼントを抱えた人々。

 子どもたちの笑い声が響き、どこからかジングルベルの音楽が流れてきます。

 ――今日はクリスマスイブ。

 街は一年でいちばん輝く夜を迎えていました。

 けれど、雪だるまのユキノは少し困っていました。

(あの子の家……どこにあるの……?)

 人々の足元を見上げながら、ユキノは一歩一歩進みます。

 子どもたちが「雪だるまだ! 動いてる!」と歓声を上げました。

 ユキノは慌てて帽子を押さえながら、よろよろと逃げました。

報道陣との遭遇

 そのときでした。

「カメラ! カメラまわして!」

「信じられない、雪だるまが歩いてるぞ!」

 記者やカメラマンたちが一斉にユキノを取り囲みました。

 ライトがパッと灯り、テレビの中継車までやってきます。

「みなさん、これが奇跡の“歩く雪だるま”です!」

「クリスマスイブの夜に突然現れ、街を歩いているこの雪だるま――」

 ユキノはまさかのテレビ生中継に映ってしまいました。

(ど、どうしよう……! 目立っちゃった!)

 逃げようとしたユキノでしたが、子どもたちも大人たちも「こっち!」「かわいい!」と道をあけてくれました。

 記者たちは、「雪だるまはどこへ向かうのか」と実況を続けながら、ユキノの後をついてきます。

 ――その放送を、ある家で見ている人がいました。

 それは、ミナの母親でした。

 テレビの前で、思わずつぶやきます。

「ミナ……あの雪だるま、なんだかあなたがよく話していた“雪の妖精”みたいじゃない?」

 そしてテレビの画面の下に表示される「雪だるまを見かけた通りの情報」。

 ミナの母は、それが自分たちの家の近くであることに気づきました。

たどり着いた家

 夜も更け、ユキノの体は少しずつ小さくなっていました。

 雪でできた体は、人間の世界では長くもたないのです。

(はやく……ミナのところへ……!)

 カメラと人々が見守る中、ユキノは小さな坂道をのぼりました。

 クリスマスの星が空に輝いています。

 ――そのとき。

「ユキノ……!」

 あの優しい声がしました。

 白い杖を持ったミナが、家の前で待っていたのです。

 彼女はテレビの音を聞きながら、胸の鼓動を頼りに外へ出てきたのでした。

「やっぱり……あなたなんだね」

 ユキノは雪の体を揺らして、うなずきました。

 胸の奥の小瓶の中には、妖精の雫が光っています。

「ミナ……これで、あなたに光を――」

奇跡の雫

 ユキノは帽子をそっと外し、小瓶を取り出しました。

 透きとおる雫が、クリスマスの星明かりを受けて虹色にきらめきます。

「これは、妖精が一生に一度しか使えない雫なの」

「……使ったら、ユキノは?」

 ミナの声は震えていました。

「わたしは……雪になる。でも、いいの。

 あなたに、雪の光を見てほしいから」

 ミナはぎゅっと拳を握りました。

「……だめ。そんなの、だめ。あなたがいなくなるなんて……!」

 ユキノはそっとミナの手に触れました。雪なのに、不思議と温かい手でした。

「ミナ。あなたが見える世界は、きっときれいよ。

 雪の結晶も、星空も、ツリーの光も。

 それを、あなたの目で見てほしいの」

 ミナはゆっくりとうなずき、涙をこぼしました。

「……ありがとう」

 ユキノは雫をミナの目にそっと落としました。

 ――その瞬間、光があふれました。

 ミナの世界を包んでいた暗闇が、音を立ててほどけていきます。

 まぶしいほどの星空、降りしきる雪、キラキラと光るイルミネーション。

 そして目の前には――

「……ユキノ」

 白く透きとおる髪の、雪の妖精がいました。

 微笑みながら、少しずつ光の粒となって空へ消えていきます。

「見えた……雪、きれい……!」

雪になる妖精

 ユキノの姿は雪の粒となって空へ舞い、街中に降りそそぎました。

 テレビで見ていた人々も、その光景を息をのんで見守りました。

 誰もがその夜、「奇跡」を目撃したのです。

「ありがとう、ユキノ……絶対、忘れない」

 ミナは両手を空に広げ、雪を受け止めました。

 ユキノはもう声を出すことはできません。

 けれど、ミナの心の中には、あの笑顔と温かさがしっかりと残っていました。

それから

 あれから数年――。

 ミナは大人になり、目の見えない子どもたちのために音楽を届ける仕事をするようになりました。

 冬がくるたび、ミナは窓の外を見上げて、空に舞う雪へ微笑みます。

「ユキノ、今年もきれいだよ」

 雪が舞うたび、ミナの心にあの夜の奇跡がよみがえるのです。

 そして街では、毎年クリスマスイブになると「歩く雪だるま」の話が語り継がれるようになりました。

 子どもたちはツリーの下で願いごとをします。

「もし歩く雪だるまに会えたら、きっといいことが起こるんだよ」

 誰もが信じています。

 雪の妖精ユキノが、いまも空のどこかで、やさしく見守っていることを――。

〜おわり〜



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ