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ACT08 捜索命令

「あれ?」

 階段を平然と上り下りしている子猫を見て、サキは目を丸くした。

 昨夜までは、階段を上り下りするのもおっかなびっくりだったのに、今朝は何事も無かったように、子猫が階段を登ったり降りたりして遊んでいる。

「一晩で、こんなに成長するものなのかしらね?」

「子猫の成長は早いから、あたし達の一日はこの子には十日間くらいって考えなきゃ」

 廊下の掃除をしていたセアラが、階段を見上げて微笑んだ。

「半年から一年ぐらいで、大人になるわよ」

「そっか、それで一日何度も眠っては起きるのね」

「食事を一日に何度も食べるのもそうね」

 セアラが、小さなあくびをかみ殺した。

 子猫は、誰が御飯をくれる人なのかしっかり認識している。

 セアラは、朝一番に空腹の子猫の鳴き声で叩き起こされている。

「朝一番でご飯あげて、皆の朝食準備して、片付けたら、またこの子のご飯用意して……夕食とお夜食と……」

 指折り数えたセアラが微笑んだ。

「いやだわ、この子は一日六食は食べてるわよ……まるでサキみたいね」

「あたしは、そんなに食べてないわよぉ……朝、昼、晩、夜食で四食しか食べてないわ」

 子猫と同列に扱われ、サキが口をとがらせた。

 むくれるサキを見て、セアラがクスッと笑った。

「おやつも食べるから、サキは五食じゃないの……それもサキは一度に食べる量が多いからね」

 一日中王都を駆け回って、深夜まで刀術の工夫に余念が無いサキの食事量は常識外だった。セアラとスーの二人分の倍近く食べるが、それでも運動量に追いつかない。

「それにしても……こんなに成長が早いってのは奇妙だよね」

 サキは、階段を遊び場にしている子猫をまじまじと眺めた。

 確かに、育ち盛りの子猫の食事量は日に日に増えている。

 拾った時はやせ細っていたが、あっという間に身体が大きくなり始めている。わずか三日でこれだけ成長するとなると、さすがに驚かされる。

「この子、きっと大きくなるわ」

 セアラが、子猫の足を示した。毛のない桃色の足裏は、確かに普通の子猫より大きい。

「身体に比べて足が大きいから、なんかまだ危なっかしい歩き方するけど、もうちょっとしたらびっくりするぐらい大きくなるわ」


       ◆


「さぁ、今日はお出かけするよ」

 サキは、子猫を摘まみあげ左肩に子猫を乗せる。

 子猫は、サキの後頭部で束ねた髪の毛が気になるのか、さかんに前足を伸ばしている。サキの髪の毛は、ちょうどいい子猫のおもちゃだった。

 子猫ばかりに関わってもいられない。さすがに、これ以上神殿警護官の務めは休めない。かといって、三姉妹の姿が見えないと大騒ぎする子猫だけ残してお留守番させるのはまだ難しい。

 すっかり元気になった子猫は、サキが連れて歩くことにした。

 セアラとスーも、神殿の社務所で神官の仕事が待っている。

 特に、今日は早朝から王族の誰だかが神託を求めに訪れるということで、セアラとスーも今日ばかりは子猫の世話は難しい。

「お昼は、お弁当用意してあるわ……お皿のお肉は、サキの分じゃないから、つまみ食いしちゃ駄目よ」

「いくらあたしでも、猫の御飯まで横取りしないわよ」

 サキは、セアラに渡された柳で編んだ小さな篭の中をのぞき込んで小さなため息をついた。

「でも……あたしより良い物食べてるよね」

 茹でた鶏肉と白身魚が皿に載っている。

 サキの分は、パンとチーズだった。肉食の子猫だからやむを得ないが、質素を旨とするシェフィールド家では肉や魚が料理に使われる量は極めて少なかった。

「あなたは、お腹が空いたら街で買い食いしてるんでしょ」

「あっ、バレてた」

 サキは篭と子猫を抱えて、神殿警護官の詰め所に急いだ。

 神官を務めるシェフィールド家の屋敷は、神殿の裏手の雑木林に囲まれた場所にある。

 雑木林の小径を抜けたところが、神殿警護官の詰め所だった。

 その先の大きな石畳の広場を抜け、神殿の入り口にセアラ達神官が勤める社務所がある。

 サキは、社務所へ急ぐセアラとスーと別れ、詰め所の扉を開けた。

 肩に乗っていた子猫を、足元に降ろす。

「あれ、サキ様……なんです、その子猫?」

 書き物をしていた文官のロムが呆れたように、子猫を連れたサキの方を見た。

 体力勝負の神殿警護官には似つかわしくない、巻き毛の金髪と細面のひょろっとした長身の男だが、その知力と記憶力にかけては誰も及ばない。王家の役人相手の文書とかの作成は文官のロムがいないと回らない。

「拾ったの……衰弱してたから、三日三晩面倒見ててさ……おかげで、すっかり寝不足」

「ああ、それで」

 ロムがあっさりと納得した。

 サキの足元をうろうろしていた子猫が、物珍しそうにロムの足元に近寄って、ロムを見上げている。この子猫は、物怖じしないのか好奇心が旺盛なのか、見知らぬ人間を怖がらない。

「あたしが三日も休んでたのに……ロム、あんたそれだけ?」

「カロンの旦那がサキ様の事を、『猫休み中』って言ってたので」

 子猫を眺めて、ロムが微笑んだ。

 手を伸ばして、足元の子猫を拾い上げた。

「金目銀目って……珍しい目の色ですねぇ」

「あら、ロムはあんまり驚かないわね」

「白猫って……金目銀目が生まれる時が、たまにありますよ」

「へぇー、そうなんだ。あたし、拾ってから気が付いたんだけど」

「サキ様は、幸運ですよ」

「へっ?」

 サキが、子猫を抱えたままのロムを見た。

「昔っから、金目銀目の猫は幸運の証って言いますから」

「なんか、伝説でもあるの?」

 ロムが抱き上げていた子猫をそっと床に置いた。子猫が、再びサキの足元に駆け寄ってきた。

「伝説って言うのか……昔っからこの王都で疫病が流行すると金目銀目の猫が姿を現すって言われてますね」

「えっ、それって良いの? 悪いの?」

「金目銀目が姿を現すと、いつの間にか疫病の流行が下火になるって言われてますから……だから幸運の証、じゃありませんかね」

「ふーん、じゃあこのレグノリアで金目銀目は時々生まれてるんだ……言い伝え通りなら、街で流行ってる熱病も治まるかな?」

 今、王都では熱病が流行している。この風邪に似た熱病にかかると二日から三日は高熱を出して寝込むという。

 おかげで、神殿でも薬師が薬を調合するのに忙しい。

 子猫がサキのズボンに爪を掛けて、サキの身体に登ろうとしている。サキは、子猫を抱え上げて、自分の肩に乗せた。

「ねぇ、ロム……これって、妖怪じゃないの?」

 サキが、一番心配していることをロムに聞いてみた。物知りのロムの記憶力は神殿警護官の中で随一だった。肉体労働ではまるで使い物にならないが、長時間に渡る頭脳労働での粘りには驚くべきものがある。

 ロムが、ちょっと記憶を探るような遠い目をした。

「金目銀目の猫が妖怪かどうかは知りませんが、使い魔として伝承に猫も出てきますね」

「使い魔ぁあ?」

 サキが、眉をひそめた。

 オバケ嫌いで魔道とかに全く興味のないサキには、使い魔はどっかの魔道士が操る妖怪、程度の知識しかない。

「どっかの異端の魔道士が、犬や猫とかの動物を使い魔として使役するって話は昔話でありますがね……でも、使い魔にも善と悪がありますよ」

「善と悪?」

「人のためになるのが善の使い魔、人に悪さするのが悪の使い魔。

 あの、レオナ姫も、使い魔を使役してたって伝説でしたからねぇ」

「何よ、それ?」

「あれ、知りませんか?

 伝説のレオナ姫は犬・猫・隼・梟・馬とか何種類もの使い魔を使役し、その中に大きな山猫も居たはずですよ」

 ロムが、子供の頃に聞いたレオナ姫の伝説を紹介した。

 ロムは王族ではなく、レグノリアの平民だった。幼少からのずば抜けた記憶力や几帳面な性格から、過酷な試験をくぐり抜けて神殿警護官付きの文官になった男だ。

 ヴァンダール王家の中で、レオナ姫の話題は禁物だった。

 サキの曾祖母がレオナ姫の姉だというのさえ、サキが知ったのはついこの間だった。

 自分の祖国を救うために命がけの旅をし、王国の危機を救った英雄にもかかわらず、王家と漂泊民の争いに心を痛め、国を捨てて家出してしまったレオナ姫の存在は王家の黒歴史の一つとして封印されていた。

 市井に流れる噂はロムが覚えているが、サキにとっては全てが初耳の話ばかりだった。

「へぇー、レオナ姫にもなると愛馬とかまで使い魔扱いなの?」

 サキの軽口に、ロムが苦笑した。

「普通、額から角が生えている馬は居ませんから」

「げっ、それって一角獣?」

 サキは、顔をしかめた。昔話の伝承ではよく聞く幻獣だが、今の世の中で目撃した者はいない。

 当然、サキも見たことがない。

(あっ! あれって……もしかして?)

 かつて、レオナ姫が居住していたというリシャムード邸、サキに言わせれば"幽霊屋敷"の庭にたたずむ馬に似た石像の姿をサキは不意に思い出した。

 荒れ果てた庭に白骨の馬がたたずんでいる風情だったが、確かにその額に角があった事を思い出した。

 屋敷の軒先に飾られた石像には、確かに隼、梟や、蝙蝠の羽根が生えた子鬼達もいた。

(あちこちで悪さしている妖魔とか精霊達を捕まえてきて、屋敷の中に封じ込めてるって噂なのは本当かも)

 サキの背中が、薄ら寒くなった。ひょっとしたら、作り物の石像でなくて、本物を魔力で石像に変えただけかもしれない。霊力のないサキにとっては、そんな荒唐無稽な真似が可能なのかどうかわからない。だが、あの屋敷に漂う得体の知れない気配は、霊力が皆無なサキにも感じ取れる程に強いものだった。

「サキ! ちょっと来い!」

 神殿の本殿の方に寄っていた叔父のカロンが詰め所に入ってくるなり、サキを呼んだ。

 サキは、反射的に首をすくめた。カロンの厳しい口調は、あんまりいい状況ではない。普段はおおらかで優しい叔父だが、この口調は神殿警護官長としての厳しいものだった。

 恐る恐るカロンの方に顔を向けると、やはりカロンの表情が険しい。

 子猫を摘まみ上げ、袖なし短衣の胸元に放り込む。緋色のサッシュで縛った革の短衣と麻のシャツの間で子猫が丸くなった。

 サキが、カロンの机の前に立った。

「また、暴れたんだって?」

「暴れた? あたし、ずっと子猫の世話してたんだよ」

「その猫拾う前だ! 五路広場で王家の子弟達と喧嘩になったんだろうが」

 一瞬、サキには何の話かわからなかった。サキが街で巻き起こす騒動は日常茶飯事で、カロンの耳に入っていないものの方が数多い。

 へたに別件を自白して、さらに叱責されてはたまらない。

「……?」

 ちょっと考えて、子猫を拾った時の一件だということに、サキは気が付いた。

「ああ、あのくそガキ?」

「くそガキ……」

 サキの言葉使いに、カロンが顔をしかめた。優雅さと無縁のサキは、下町育ちと錯覚するような乱暴な言葉使いを時々する。

「デュラン候のとこの次男も居たんだぞ」

「街の安全を守る務めの護民官長の子供が、街で悪さしてた?

 それを野放しにしてる方が、おかしいじゃないのさ!」

 サキが切り返す。

 街の護民官を統べるデュラン候は、役目柄サキも面識がある。神殿警護官と護民官は互いの管轄を巡って縄張り争いを繰り広げているせいもあり、仲は良くないが職務には忠実な人間で、そんな悪さをしでかす息子を持っているとは初耳だった。

 王侯貴族の子弟といえど、皆が品行方正ではない。生まれついた家柄は高位でも、育て方を誤れば権力を利用してやりたい放題のわがままな性格にもなる。

 ましてや家督を継がない次男三男に至っては、暇を持て余して下町で悪さする連中も多い。サキがお仕置きした連中も、その類いだったんだろう。

「……刀を抜いたそうじゃないか」

「先に剣を抜こうとしたのはあっちだわ! だから、剣を叩き折っただけよ」

「王族相手に刃傷沙汰は慎め。お前も王族の一員なんだぞ」

「相手が剣を抜いて喧嘩売ってこなけりゃ、抜かないわよ」

「喜んで喧嘩を買うな。少しは騒動を回避しろ」

 その時、サキの胸元から猫が顔を出した。

 カロンを見て、抗議するように一声鳴いた。

「猫は、しまっとけ」

 話の腰を折られ、カロンが唸る。

 サキは子猫を引っ張り出し、傍らのロムに手渡した。

「ロム、ちょっとこの子を持っててね」

 サキは、再びカロンの方に向き直った。

「で、お叱りはそれだけ?」

 説教を食らってもけろりとしているサキに、カロンが小さくため息をついた。

「まぁいい……それより、サキ向きの仕事がある」

「仕事?」

「人探しだ」

 カロンが、面倒臭さそうな任務の内容をあっさりと言った。

 サキは、眉根を寄せた。

 話の子細を聞く前に、厄介な内容だと見当が付く。王都レグノリアの人口は十万人に達するという。その広大な都の中で人探しをするのがどれほど大変なのか、サキにはよくわかっている。

「誰を探し出すのよ?」

「ベリア・ランカス……ランカス一族の次男坊だ」

「えっ? 王族のランカス家?」

 サキが、驚いた声を上げた。

 シェフィールド家よりもはるかに格上の家柄だった。今のランカス家の当主が王国の宰相を務めている。

 事の起こりは、数日前だという。王族のランカス家の次男ベリア・ランカスが屋敷から姿を消したという。

 ベリアは、王城の王侯貴族子弟を集めた講武堂に属していたが、そこにも姿を見せず自宅にも戻ってこないという。

 心配した家族が神殿に神託を求めにやってきて、セアラが神託を受けたが、それは謎めいた短い神託だった。

「宝玉が闇に隠れ、闇が光を浸食する」

 困惑した姉のセアラは、神官長の祖父の助言を仰いだ。

 神託は解釈によって、精度が変わる。

 曖昧な言葉から真実を読み取る能力に長けているセアラでさえ、解釈に困る神託だった。

 祖父が読み取った神託の解釈は、不吉なものだった。

「何も手を打たず放置すると、取り返しが付かない災いを招く」

 神託で何とかならないものを、神官がどうにか出来るはずがない。

 こうなれば、力ずくで捜索するしかない。確かに、こうなると王都のあちこちに出入り自由なサキが適任だった。サキだけは、王家の人間が立ち入れない漂泊民の中でも平気で出入り出来る数少ない人間だった。

「神殿警護と関係ないじゃん!」

「神殿に助けを求めてきた以上、知らん顔は出来ん。

 ましてや、神託が告げてる内容が大当たりだったら大変なことになる」

「あたし、子猫の世話で忙しいんだけど」

「猫連れて行っていいから、早く行け!

 まずは、王城地区の武衛府からだ……ベリアは講武堂で剣を習ってたが、そこにも姿を見せておらん。

 それに……是非、お前に調べて欲しいという武衛府からの正式な依頼状だ」

 カロンが、一通の書状をサキに突きつけた。

「何で、あたしの名前がそこで出てくんの?」

 サキが目を丸くした。王族の一員でありながら、サキは王家と疎遠な方だった。

「お前は、有名人だ……特に、漂泊民の中を自由に動き回れる立場にいるのが、王族の中でお前だけなのを王家は承知している」

「約定?」

 サキは、自分の喉元を彩る白銀の首飾りに手を触れた。白銀の輪に白と黒の勾玉のような宝玉が噛み合っている。天狼と王家を結ぶ約定を継いだ者の証として、天狼側から贈られたものだった。

「お前が、王家と天狼との約定を継いだのは、国王陛下もご承知だ」

「ちょっと待ってよ! 約定って、王族の一人が行方知れずになった程度じゃ使えないわよ……本当に王家が自力で解決出来ないような騒ぎになった時にしか、天狼は協力してくれないわよ」

「だが、漂泊民の群れの中に飛び込めるのは、王族の中ではサキだけだ」

「自力で調べろってことね」

 サキは、ため息をついた。漂泊民の中でも天狼と呼ばれる異能者集団の情報収集力は確かにすごい。だが、王家の天狼嫌いも、天狼の王家への不信感も根深いものだった。

 国を持たずシドニア大陸のあちこちに住み暮らす漂泊民の中に、太古からの英知を受け継ぐと言われる漂泊民の一群が存在する。その一群はシドニア大陸の中央にある天狼山脈を由来とするとされ、天狼と呼ばれる。

 建築、冶金、医術、薬学、兵法等の特殊技能に優れ、彼らの力を借りなければどの国も成り立たない。だが、国を持たない独自の文化を持つが故に、彼らは恐れられ疎まれる存在だった。

 ヴァンダール王国にも、多数の天狼が住んでいる。王都レグノリアの建設にも天狼が深く関わり、見かけ上はうまく棲み分けているが王都の市民と漂泊民の間には深い溝がある。

 両者の争いをレオナ姫は、自らが姿を消すという荒技で解消させた。レオナ姫の霊力をよりどころとした王家も、レオナ姫の庇護を受けていた天狼もレオナ姫を失っては争いどころではない。

 レオナ姫を失った後に、王家と天狼は和解した。

 いわく、王家はレグノリアに住む天狼の自治を認め手出しはしない、その代わり、王家に自力で解決できないような難題が生じた時に、天狼はその力を貸すという約定だった。

 天狼の力を借りるには、王家からそれにふさわしい人材を選出し天狼の同意を得る必要があった。

 そして、その王家から選ばれたのがサキだった。

「まずは、武衛府からだ……詳しい話を聞いてこい」

 子猫を抱えて王族の屋敷を訪れるのは、さすがのサキでもためらわれた。

「しょーがないわ」

 サキは小さくため息をつき、愛刀を腰に佩いた。

「ロムぅ~! あたしの留守中、この子のお世話をお願いね!」

 そう言って、サキが詰め所を出ようとした刹那、背後で風が走った。

「えっ?」

 振り向いた瞬間、白い影がサキに向かって跳躍していた。

 子猫が、ロムの机からかなり離れたところにいたサキに向けて跳躍し、サキの足元からサキの肩まで一気に駆け上った。

「何、今の?」

 サキは目を丸くした。

 傍らのロムも、唖然としている。

 サキの左肩で、子猫がごろごろと喉を鳴らした。

 昨日まで階段の上り下りでさえおぼつかない足取りで、サキ達を冷や冷やさせていた子猫の動きとは思えない。回復した子猫が、わずか数日でこれだけの運動能力を見せるのは聞いたことがない。

「おまえ、あたしの見てないところで何かしちゃいないかい?」

 もちろん、子猫の答えはない。

 あきらめたサキは、肩から摘まみ上げた猫を再び懐に放り込み、そのまま神殿警護官の詰め所を飛び出した。

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