序章の序章の序章
「…ちょっと水仙さん?何してんの?」
「ああ、おはよう兄さん。いや、何でもないよ。この私に起こさせておきながら二度寝を決め込んでいた愚か者がいたからお灸をすえてやろうかと思ってね。兄さんはそのまま心置きなく三度寝を決め込んでくれ。」
「ごめんごめんごめんごめんなさい!!!起きた!起きます!!起きました!!!起きたから今まさに床に叩きつけようとしているその小麦粉をお兄ちゃんによこしなさい!」
まじかこいつ…人の部屋を小麦粉まみれにしようとしてやがるぞ。
「あと五秒長く目を閉じていたら見えた世界が違ってたね。」
なんで笑顔でこんなに威圧感あんだよこっわ。
そのまま水仙は持っていた小麦粉を僕に「はいっ」と言ってよこしてきた。
新品じゃん。新品の小麦粉の封を開けただけとかもったいないなぁ。
「えっと、今何時?」
「ついさっき五時三十分になったかな。」
わぁ、窓の外がまだ暗い…
「最初に起こした時も言ったけど、日課のランニングに行く前にお風呂にお湯を張っておこうかと思ったんだけどどうも適温に調整出来なくてね。兄さんの感覚でいいからお風呂の準備お願いしたいんだ。」
ああ、そういえば水道の調子が悪いとか言ってたっけ。
日頃から走ってるのは知ってたけどこんな朝早くから行ってたんだな。
水仙がランニングスタイルなのを見るに一度僕を起こしに来て、着替えてもう一度起こしに来たのだろう。
「とりあえず目は覚めちゃったからお風呂は僕が準備しておくよ。気を付けて行ってらっしゃい。」
水仙が僕の感覚でいいって言うんならいいんだろうし。
「ありがと!じゃあ行ってくるね!ついでに朝ごはんも作っといてー!」
「あっ!まてお前!今日の朝食当番はお前だろ!」
いねぇし!
まぁ、可愛い妹の我儘を聞くのは兄貴の宿命だ仕方ない。とりあえずはお風呂の準備をしよう。
そして朝ご飯はあいつの嫌いなトマトのサラダを出そう。
「で?」
「いただきます。なんだよ?」
午前七時三十分。
僕はランニングから帰ってきた水仙と向かい合って朝ご飯を食べている。
「馬鹿かよ。いただきます。」
「お前がくれた小麦粉で作った。うん。我ながらいい出来だ。」
「せめてパンだろ。なにを天丼なんか作ってくれてんだよ美味いし。」
つい興が乗ってしまった。反省はしてない。
「兄さんは可愛い妹がなぜ毎朝ランニングをしているのか考えたことがあるのかい?」
「ないなぁ。そんなに走って急いでんの?って思う。」
早朝だから許容してるけど、夕方ランニングしてたら止めてる。
暗い中外で走るなんて危ないしな。
「馬鹿だったか。体型維持のためだよ。仮にも私はモデルだぞ。絶対太る…。」
天丼の一杯や、二杯じゃ変わんないって。
てゆうかお前はもうちょい太ったほうがいいと思うけどなぁ。
胸とか太ももとか。
「おい。どこみてんだよ。」
ごめんなさい!
「じゃあ私は先に行くね。」
「はい、僕も片づけを終わらせたら向かうよ。最初の仕事頑張ってね、生徒会長。」
ここで水仙のことを少し説明しておこう。
『水城 水仙』
十二月二十五日生まれ。十六歳。
今日から高校二年生。
モデルをやっていて、私立逆月学園の第九十八代生徒会長。
藍色がかった黒い髪は太陽の光を反射してキラキラ光っている。
整った顔立ちに、スラっとのびた四肢。
大和撫子を現代風にアレンジしたような雰囲気をまとっている。
そして僕の妹である。
「よろしく頼むよ。わかっているとは思うけど、遅刻なんて許さないからね副会長。」
「…ハイ。」
からかうつもりがしっかり釘を刺されてしまった。
水仙を見送った後、僕は朝ご飯の食器を片付けて、ニュースで今日が一日晴天と言っていたのを思い出したので僕と水仙の洗濯物を干そうと庭に出た。
出たら先客がいた。
「あっ!おはようございます水城君!今日は天気がいいようなので洗濯物は干しておきましたよ!」
「柊…。ちょっと柊さん!それ僕のパンツなんだけど!?」
庭にいた少女は僕のパンツを持っていた。
「え?ああはい。でも所詮は布じゃないですか。」
う、おお、そうですね…
「まぁ柊がいいんならいいんだけどね。」
美少女が自分の下着を干してるとかなんかちょっと興奮するし。
「え、でも本当にどうしたの?今日から学校だぞ。春休みは昨日までだぞ。」
「知ってますよ!水城君は私を馬鹿だと思っているんですか思っているんでしょうね!ほら!ちゃんと制服着てるじゃないですか!」
そんなバンザイしながらエキサイティングされても…
バカっぽいなぁ。
「正直馬鹿なのかなーとは思っている。」
「ヒドイ!ヒドイです!私馬鹿じゃありません!この『鶏頭 柊』生まれてこの方…平均点より下の点数を取ったことがありません!!!」
微妙!すごい優秀なことではあるんだけどすごい微妙!
「まあテストの合計点で水仙ちゃんに勝てたことありませんけど。」
柊はがっくりと肩を落としながらしょぼくれる。
そんなに落ち込むことじゃないと思うんだけどな。
だから僕はうなだれてる彼女の肩に手を置いて
「たまに僕にも負けるもんな。」
煽っておいた。
水城水仙逆月学園鶏頭柊