サイアスの千日物語 六十一日目
熱量に乏しい陽光の照らす
夏とは名ばかりの涼やかな昼さがり。
サイアスは本城北東区画の武器工房に居た。
供としてはデネブにベリル。クリームヒルトと
護衛隊2名。ここ最近によく見掛ける
組み合わせであった。
来訪の目的は幾つかあった。
その最たるものは、最早完全にデネブの一部
となっている、究極のうさ耳「カゥムディー」
の実装状態の披露と報告。
ここ数日は同様の目的で関係各所を順に
巡っており、一昨日は中央塔と付属参謀部。
昨日は資材部。そして今日は武器と防具の
両工房へといった具合であった。
防具工房の長マレアの下へは午前中に出向いて
既に挨拶を済ませており、今は最後の一箇所
となる武器工房の最奥、長インクスの下へ。
概ねそういう次第であった。
うさみみデネブはいずれの場所でも
極めて熱烈な歓迎と評価を受けていた。
とにかく殺伐とした荒野の死地。
城砦の人々は可愛いものや柔和なもの、
要するに萌えの要素に飢えきっていたからだ。
流麗で優美な女性的フォルムを具える
デネブの甲冑姿に生えたうさ耳の一体感。
そして硬質な甲冑とピョコピョコよく動く
柔和なうさ耳が合わさった愛らしさは
狂おしい程のギャップ萌えを醸成。
目にした人々を魅了した。
もとより防具を愛して已まず
デネブの甲冑に強烈な興味を示していた、
さらに申さばおっそろしく武張った女職人が
支配する防具工房においてはこうした評価が
特に際立っており、デネブファン倶楽部が
結成されそうな勢いであった。
名人級の武人にして熟練のメイド。
さらにはいたいけな幼女といった、かなり
矛盾した精神を併せ持つデネブとしては、
ちやほやヒューヒューされるのはとにかく
恥ずかしいらしく、行く先々で囃される度
サイアスの背後に隠れ引っ付いて、益々の
萌え要素を発生させていた。
もっとも照れる一方でそうした扱いが
満更でもないのは間違いのないところらしく、
本城北東区画の地下たる防具工房から地上の
武器工房へと移動する際、
(……これ、貰ってください)
とばかりにサイアスへと、
本来兜を飾っていた角飾りを差し出した。
どうやら今後はうさ耳固定でいく決意を
固めたらしかった。
甲冑同様の青みがかった銀色と
淡い金色が螺旋に捻りあげられたような
色味を持つ美麗な角飾りを手渡され、
「良いのかい?
……かけがえのないものなのでは?」
とサイアスはやや言葉を選んで
そう問い返した。すると
(リボンや髪飾りのようなもの、です。
貰ってくれると嬉しいです……)
との事。もとより光物には小うるさい程
一家言あるサイアスなので
「そう…… 有難う!
大事にするよ」
と早速大喜びし、すぐに
「……そうだ。ねぇデネブ。
これを今インクス様に打って貰っている
八束の剣の真打ちの柄周りとして
使わせて貰っていいかな?
これまでデネブの兜を護ってきたように
これからは私の手を護って貰うんだ。
どうだろうか」
と提案した。これに対しデネブは
うさ耳をピョコピョコ激しく動かして
(それ凄く良いです! 是非!!)
とはしゃぎ出し、
見守る周囲は益々の盛り上がりとなった。
さてそういう次第でサイアス一行は
本城北東区画一階を手広く占有する
城砦騎士団の誇る武器工房へと至った。
そして放射状に走る通路をさかのぼって
最奥の巨大な炉へ。そこで鍛冶に熱中する
当代随一の名工インクスの下へと挨拶に向かった。
「おぉサイアスか。よく来た!
先日ぁ凄かったのぅ。まさかアレを
あぁも見事に斬っちまうとはな……
それにデネブちゃんやベリルちゃんも。
そのうさ耳ぁどえらい似合いっぷりじゃな!」
ご他聞に漏れず、インクスもまた
うさみみデネブを絶賛した。
「インクス様、剣を有難うございます!」
ベリルもまた自身の剣を得意げに示して
礼を述べた。もとより子供好きなインクスは
「おぉ! おぉ!
えぇともえぇとも!」
とそれは蕩けるような笑みを浮かべ喜んだ。
「インクス様、ベリルの剣の御代を
まだお渡ししておりませんでした」
とサイアス。
「お前もいちいちお堅いヤツじゃな。
アフターサービスの類じゃよ。
遠慮せんでくれ!」
とインクスは苦笑し
ならばとサイアスは一礼しつつも
「有難う御座います。では遠慮なく。
そしてさらに遠慮なく追加のお願いを」
としれっと切り出した。
これに対しインクスは
「ほぅほぅ、なかなか言うじゃねぇか!」
と小山のような体躯を揺すって笑い
サイアスの差し出すデネブの角飾りを見て
一気に真顔になった。
「ふむ、ふむ……!
こいつぁとんでもねぇ代物じゃな。
そこらの金属より遥かに強ぇわい。
こいつを剣の柄周りに、か……
えぇとも! やってみようじゃねぇか」
インクスは大いに乗り気となった。
サイアスは大いに喜ぶと同時に
インクスのその反応。特に角飾りの
材質に対する反応にある確信を得ていた。
未だ未成熟ながら覚醒したサイアスの
軍師の目は告げていた。この角飾りが
二種類の伝承上の金属で出来ていることを。
一つはうさ耳カゥムディーの基材でもある
オレイカルコス。そして今一つは真なる銀、
またの名をミスリル。どちらも遠く
歴史の彼方なる、古代王国の産物であった。




