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サイアスの千日物語  作者: Iz
第三楽章 夜明けの運び手たち
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サイアスの千日物語 五十四日目 その四

「魔法使い……?」


サイアスは小首を傾げ、

ニタニタと笑うラーズや

不審者そのものなシェドへ問い返した。


「伝令から祈祷士に転身するのか?」


「なんでゃねんっ!」


シェドは声をくるっくるにひっくり返して

音量たっぷりかつ声高に叫び、

その声音にサイアスは


「なかなかのファルセット……

 魔法使いってカストラートのことか。

 成程……」


とすっかり納得して

小さく数度頷いた。


「ひょえっ!

 流石にそれは堪忍にゃぁあ!!」


シェドは全力のハイトーンボイスで

その見解をお断りした。そして

ランドは他人事ゆえすっかり噴き出し

ラーズは椅子から転げ落ち、文字通り

抱腹絶倒の有様であった。




「ひー、苦しぃ……

 流石に笑い死にはしたくねぇな」


いまだ息も絶え絶えといった体で

よっ、と椅子に戻ったラーズは


「しかしな大将。

 お面ってのぁ普通木彫りじゃねぇか?

 いくら魔力があるからって、あんな

 グネグネに動くもんかね」


きっちり分析は施しているようで

展開に小首を傾げるサイアスに問いかけた。

これについてはサイアスの右傍らから


「面とは古来、神霊や超常といった

 人ならぬものを人の身に降ろすために

 用いられた神具です。

 

 少なくとも東方諸国においては、

 齢を重ねた御神木とされ得るような樹から

 作られることが多いですね」


博学才穎はくがくさいえいにして神話伝承の継承者たる

元神官にして巫女ディードがそう語った。


「そのお面、素材は皮だね。

 ふぅん、珍しい部類だったのか」


レアものと知ってやや興味の湧いた

サイアスは、茶を喫しつつ再び

火男面をじっと見据えた。



「……惚れるなょ?」



絶世の美女級のサイアスの視線を浴び

調子に乗ったシェドがカクカク首を動かして

そうドヤると



「殺すぞ」



と室内の女性7名が声を揃え、

デネブがジャキリと帯剣に手を掛けた。


「ひっ、ひぃぃっ!!」


眷属をも群れ単位で寸刻みにする暗殺者や

平原なら剣一振り、槍一条で国が取れそうな

女衆に全力で殺気を向けられ、シェドは

椅子に座った姿勢のまま文字通り飛び上がった。


「許可する」


流石にイラっときたらしいサイアスが

冷徹な声で必殺を許可した。


「待て! 待ってぇぇ!

 ほら、踊るから!

 俺っち踊るからぁぁっ!!」


シェドは広間で奇っ怪なる舞踏を開始。

がに股でピョコピョコ跳ねながら掲げた両手を

振って手首をくるっくる返したり、卓から

盆をひったくってテンポよく何かをすくうような

仕草を始めた。その滑稽こっけいにして奇矯ききょうな様に

誰もが笑いを抑えることができず、

随分殺気が削がれてしまった。


田楽舞でんがくまいに盆踊り、泥鰌掬どじょうすくいですね。

 まったくどこで憶えたのやら……」


笑いをかみ殺しつつ

ディードが呆れた口調でそう言った。


「身体が自然に動きましたっ!!」


今は直立不動で採点を待つかのごとき

シェドがはきはきと答えた。


「……? つまり」


ディードはサイアスを見やり


「まぁ、そういう事なんじゃないかな」


とサイアスは頷き、

気になったらしく顔を寄せる女衆に

サイアスは小声で何事か説明していた。


シェドは今要らんことを言い行えば

確実に命はないものとして直立不動を継続。


やがて審査員長の如きサイアスから

オーディションの結果が如き沙汰さたが出た。


「道化を斬れば名がすたる。

 今回ばかりは見逃してやろう」


どうやら合格らしい。

西方諸国連合準爵たるサイアスは

王器と高徳を以てフェルモリア第七王子たる

シェドをゆるすことにし


「芸は身を助く、というヤツね」


いつか必ず殺す、と心に誓いつつ

取りあえずこの場はニティヤもしずまった。


「……ふぅ、やっぱ何だかんだで

 ここぁ荒野だな。死亡遊戯って感じだぜ」


荒野の女は魔よりおっかねぇ。

噂通りの光景にラーズは一筋冷や汗をかいた。

ランドは居住まいを正し彫像のように

微動だにしなかった。





「さて、どうしようね。

 話をお面に戻すかい?」


「放置でいいのではないかしら」


サイアスの問い掛けに

ニティヤがうんざりと声をあげた。が


「さーせんっ!

 もーすこっしおなしゃっす!」


とシェドがヘコヘコと

起き上がりこぼしのごとくうごめくので、

また笑わされては敵わぬとばかりにサイアスは


「じゃあ少しだけね……

 そのお面。一度顔から浮かせる程度には

 外してみた方がいいかもね。

 まぁ大したことではないから。

 気になったなら、やってみれば?」


とついで程度にそう語った。


「ほへぇ? ふーん……

 先生、ほっとくと何が起こりそうっすか!」


「お面が君を乗っ取る」


「ふぁっっ!!!?

 アカン! アカンぞそれぇ!!

 めっちゃ大したことやんけぇっ!!」

 

悲痛かつ深刻に叫ぶシェド。

一方女衆の間からは、何で教えた、

と言わんばかりの舌打ちが聞こえた。


「抵抗し打ち勝って

 屈服させれば良いじゃないか。

 そうすれば君がお面を乗っ取れる」


既に人外の精神力を持つサイアスは

こともなげにそう言った。


「簡単に言うんじゃ、

 あ、ねぇぇえぇいぃぃいぃっ!!」


シェドは千両役者のごとく

派手な身振り手振りで大見得を切った。

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