4.大精霊の申し子
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ラーグが視ていた限り、おそらくアルシオもミスティーナの欠点を察していた。妻の強さを誰より認めて惚れ込みつつ、その至らなさもきちんと認識していた。ミスティーナの主張自体は誤りではないので、否定や訂正をすることはなかったものの、『素晴らしいが足りない』ことは分かっており、その部分は自分が補完しようと思っていた。
だが、シルファールは多忙であまり時間が取れない父より、母と共に過ごす方が多かった。ミスティーナの清廉で高潔な理念はシルファールの気性にピタリと合致し、下働きの現場を見学に行った際に受けた衝撃と羞恥の念にも絶妙にはまり込みながら、彼の精神に多大な感銘と影響を与えた。
結果、父の霊威と母の精神を受け継いだ、奇跡と奇才の申し子が誕生したのだ。
真っ当で素晴らしい、しかし大事な部分の一部が欠けている思想と理想を吸収し、清らかに綺麗に輝くシルファールを視たラーグは、この子はその理想論も綺麗事も通じない負の念と正面から向かい合い、手綱を取ることは無理だと悟った。
もう少し時間があれば。シルファールが成長して独自の経験と見識を積んでいけば。アルシオが不足部分を補足するか、シルファールが自身で気が付くかもしれなかった。しかし、アルシオの神成が急速に現実味を帯びたことで、その猶予がない状況になったのだ。
結局、望みを託せる候補はアーディエンスのみ。シルファールには退場してもらうしかなかった。
もちろん、ラーグがそれを直接言ったりはしない。だが、あれから成長したシルファールは、既にその事実を自力で察していた。自分は大精霊になれる器だった。しかし、あの時に限ってどうしても必須となる要素が不足していたのだと。ミスティーナやアルシオの教育云々ではなく、ただ時節が悪かった。
《他の時であれば、私は躊躇いなくアルシオの後継者にお前を推していた。アーディエンスと並んでな。そして互いに競い合った結果お前が選ばれたならば、我が目から見ても申し分ない大精霊となっただろう》
少なくとも、当代の大精霊フィーラスよりは遥かに。伯父が密かにそう考えていることを、シルファールは知らない。
実のところ、フィーラスはアーディエンスを永劫に使い倒すつもりでいた。使役たちを散々に苦しめた先代大精霊・イーネストの実子であるという負い目と引け目を利用して。
アーディエンスが現役の大精霊であった頃、積極的に皆を引っ張り責任を引き受けていたのは、彼自身の性格ももちろんあるが、実父がしでかした所業に対する贖罪の念と罪悪感も大きかった。
そのことを鋭く感知していたフィーラスは、内心ほくそ笑んでいた。アーディエンスは現役の間は先頭に立って務めや責を担い、引退後も罪悪感を上手く突けば何だかんだで手を貸してくれるだろうと。しかも、イーネストの血縁者なので神成などさせてもらえるはずがない。大精霊になれただけで奇跡だ。
仕事ができて統率力もあり、贖罪意識が強く神成も絶望的。そんな都合の良い彼の後ろに隠れていれば、自分はずっと安泰だと思っていた。そして、細く長く現役を続け、いつか神の目に留まって神成しようとまで目論んでいたのだ。
フィーラスは元々誰かの後ろに隠れがちな性格だったが、副大精霊となりアーディエンスの側に来たことで、彼が想定以上に頼りになり、そして便利に使えることを察知し、逃げ癖と怠け癖を急速に肥大化させていった。それはもう、ラーグを含む先達たちが予想していた範囲を超える勢いで。
想念として側にいたことでそれを見抜いたラーグは、だからこそアーディエンスの神成に手を貸したのだ。もう十分に苦しみ、努力した子を使役界の鎖から解放してやるために。逆に退路を絶たれたフィーラスが這い上がれるかどうかは彼女の意識と心がけ次第だ。
と、そんな思考を秘めたまま、ラーグは何も知らないシルファールに向かって続けた。
《お前には十二分に父親の後継となれる才があった。実力も、器量もだ。紛れもなく、大精霊の申し子たる存在だった。私の言葉など慰めにもならないだろうが、事実なので言っておく》
《いいえ。伯父様が……初代大精霊であらせられる原初の精霊が、そこまで言って下さった。それだけで十分誉れに思います》
とうに吹っ切った顔で返したシルファールは、しばし茫洋とした眼差しでアーディエンスと使役たちに視線を注いでいた。
ありがとうございました。
本話にて幕間終了、年明け頃から第2章開始予定です。
明日からは、本編を投稿しない日(今までこのスピンオフを投稿していた日)は、『すっぽんじゃなくて太陽の女神です』の方でアリステルの番外編を投稿し、それが終わり次第第10章の投稿を開始します。
『すっぽんじゃなくて太陽の女神です』URL↓
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よろしくお願いいたします。




