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「まぁ、私の方は時間が過ぎるのを待つしかないわ。
気持ちが落ち着いたら、アイリスに向き合う事ができるのか、はたまた別の誰かに向かうのか。
それより、あなたの方はどうなの?ダービン様と。
子作りしたってことは、無理矢理な感じ?」
「ううん。関係自体は無理矢理な感じでもないし、基本的に態度は優しいの。
昔となにも変わらない感じかな。本音を知らなければ、恋愛結婚なんじゃないかと思うほどなの。
メイドさんたちも親切だし、本当に快適に過ごせてる。ただ、彼が帰ってくるのが遅いっていうのと、たまに悲しそうな顔をしながらこっちを見てくる時があって、その時はちょっと乱暴な感じがするの。ほんと、ちょっとだけなんだけど。」
と言うと、うーん。とエマは首を少し傾け、手元のコーヒーを見ながら考え込んでしまった。
肩の辺りで短く切り揃えられた栗色の髪は、エマの小さい顔をより際立たせていた。
何度見てもエマはかわいいなぁと、全然別の事を考えていると
「帰りが遅いっていうのは、第一王子の婚約に関係があるんじゃない?来月、隣国の第一王女様が来られるからって、王宮では準備で忙しいみたいよ。
しばらく滞在されるみたいだし、視察も組まれてるみたいなの。」
「そうなの?って事は、エマの職場も視察の対象?」
「うーん、そうだと思う。なにせ、うちは国立の図書館だからね。他にも、市場とかも視察に入ってるって話だよ。あっ、これはまだ内緒ね。」
「もちろん。さすが、エリシート伯爵家だね。」
「まぁねぇ。って、これはお義母様のお茶会情報なんだけどね。お義兄様の結婚と被らないようにしなきゃーって事で、ちょっと大変だったの。」
そう言ってエマは笑った。
エマのお父様は国王の専属騎士団の団長をしている。そのため、王宮の情報は入ってきやすいらしい。
ただ、お父様自身は何も話さないため、あくまで推察なのだとか。
「ダービン様は何を考えているんだろうね。
私も学生時代、何度かお会いしたけど、あんな本音を持ってるなんて思いもしなかったよ。レイナとの婚約に納得してると思ってた。むしろ、レイナを大切にしてた印象なんだけどなぁ。」
「ねぇ、ほんとに。近くにいてわかったつもりでいたけど、本当のところなんて何にも分かんなかったし、あの日以来、できるだけ接触も避けてたから益々分かんなくなっちゃった。」
「ねぇ?一度本音について直接聞いてみたら?」
「うーん。でも直接聞いて"はい、嫌でした"なんて言われたら、それこそ辛くない?結婚したばかりなのに。」
「それもそうか。あっ!そろそろ時間じゃない?戻らないと」
こうしてエマとのランチを終えて、私は職場に戻っていった。
その夜、ダービンはいつもより少し早く帰ってきた。
とは言え既に夕食の時間は過ぎ、寝るだけになっていた。
「おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした。
こんな格好でごめんなさい。もぅ寝ようと思っていたもので。」
「いや、大丈夫だ。今日から仕事だったな。疲れただろう。」
「そうですね。でも、この仕事は好きですから。」
そう言って微笑んだ。
すると、ダービンの顔が少し強張った気がした。
「そうか。休暇中の仕事に問題はなかったか。」
「大丈夫だったみたいです。心配はしてなかったんですけどね。」
「そうか。。。キミの仕事は経理だったよね。朝出社したら、外に出る事はないのかい?」
「そうですね、経理部の中には銀行へ出かける担当者もいますが、私の担当は外に出る事はないですね。」
「そうか。では、昼とかはどうしてるんだ?」
「???お昼は食堂があるので、そこで頂きますよ?あっでも今日は友人と久しぶりに外のお店でランチしてきました。久しぶりだったから、とってもウキウキしちゃいました!」
「!!!そ、そうか。それは良かったな。」
と言うと、ダービンの顔はさっきよりも強張りが強くなったような気がした。そして、気のせいか顔色も悪い気がする。
「今日は疲れただろう。私も仕事がまだ残っているので、先に寝ていてくれ。」
そう言うと、ダービンは寝室を出て行ってしまった。