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マンドリニストの群れ  作者: 湯煮損
第30章「決着の全国大会」
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第330話「この大会が終わったら」

 全国大会遠征、本番前日の夜、糸成と奈緒は宿の自販機の前で話をしていた。奈緒は糸成からの直前の問いかけに困惑して問い返した。

「ソウタくんのことって...?」

「いや、俺が心配しすぎなのかもしれないけどさ...」

糸成はそこまで言ってからもう一度飲み物を飲むと、静かに呟いた。

「アイツ、根を詰めすぎてないかなあと思って」

「ああ...そういうこと...」

糸成の話を聞いて、奈緒はそう納得した様子で頷いた。そんな奈緒の様子を横目に見ながら、糸成は話を続けた。

「俺はさ、ソウタとは長い付き合いだからアイツがこれまでやってきたことは大体一緒に見てきた。でもアイツがここまで本気でひとつのことに熱中するのって初めてなんだ」

「そうなんだ...、何事にも全力なのかと思ってた」

糸成の話を聞きながら奈緒は意外そうな顔で相槌を打った。いつもマンドリンの個人練やパート練に全力で取り組んでいる奏太の姿が目に焼きついている奈緒にとって、彼の過去の様子は意外だった。

「いや、中学の部活でもなんでも、こんなにアイツがのめり込んだことなんて今まで無かったよ、だからこそ心配なんだ」

「え...?」

「全国大会がたとえどんな結果に終わったとしても、部活が終わった瞬間にソウタは抜け殻みたいに燃え尽きちゃうんじゃないかって...」

「イトナリ...」

自分の親友のことを本気で心配している、そんな様子の糸成の横顔を見て、奈緒はそうしみじみと呟いた。確かに思い返してみると、部活に打ち込んでいる奏太はいつだって全力、全身全霊をかけて演奏しているという様子だった。それも特に去年の全国大会が終わってからは。マンドリン部での活動はもはや奏太にとって無くてはならない生活の一部になっているのではないか、そう思うのは同じパートとして近くで奏太を見てきた奈緒にとっても同じだった。だが、少し考えてから、奈緒は糸成の肩に手を置いて、話し始めた。

 「でも、きっと大丈夫...!」

「え?どうしてそう言えるんだ?」

「確かに今のソウタくんにとって部活が一番の生きがいになっているのは間違いないけど、でも部活が終わっても、ソウタくんにはまだ大きな生きがいが残ってる...!そうでしょ?」

「まだ残ってるって...、それは一体何なんだ?」

「ふふふ、()()()()を信じて...!ここまで言ったら分かるでしょ?」

「...!」

奈緒の言ったことの意味を察して糸成はふと黙り込んだ。奈緒はそんな糸成のまだ少し不安そうな顔を見て、にっこり笑うと顔を近づけて言った。

「ほらほら、余計な心配してるとアナタの指揮に影響するよ〜?ソウタくんのことはきっと大丈夫だから、アナタは自分のことに集中して!」

「ナオ...」

「約束して!明日の指揮は絶対に成功させて!」

「...分かった。ありがとう」

奈緒の目を見て糸成は小さく頷くと、そうお礼を言った。


 自販機で奈緒と別れた糸成は自分の部屋に戻った。部屋は奏太と敦と同じ部屋だが、敦はすでに寝てしまったようで1人で手持ち無沙汰にしていた奏太が声をかけてきた。

「お、イトナリ!ジュースじゃん!いいなー!俺のは?」

「下に自販機あるから自分で買ってこいよ」

「くう...ケチ...」

糸成は奏太からのそんな絡みを軽くあしらってから奏太の顔を見た。

「...」

「...?なんだよイトナリ。俺の顔に何かついてるか?」

「いや、なんでもない」

糸成はさっき奈緒とした話を思い出していたが、そのことを奏太に悟られないように静かに首を横に振ってから買ってきたジュースをグビっと飲んだ。

 「今日は早く寝よう、ソウタ。明日は大忙しだぞ」

「ああ...!そうだな」

糸成からのそんな提案を受けて奏太は表情を引き締めるとうんと頷いた。


 こうして全国大会1日目の夜は幕を下ろした。大会2日目はついに奏太たち西田高校の出番となる。

お読みいただきありがとうございます。

今回は少し短いですが切りどころの都合でこの構成となります。

さて、2026年4月8日をもって本作品は最初のtwitterでの投稿開始時点から数えて6周年となりました。5周年の時、6周年を迎えることはほぼ無さそうと書いた手前ですが、ラストとなる全国大会編を進めている段階。今年こそ最終回を迎えることになるかと思いますので、最後までよろしくお願いします。

次回から大会2日目。最終日のお話となります。

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