第11話 勇者と魔王と禁忌目録
どうも、ぽむむんです。
これで序章は終わりです。
「イロアス~起きろ~。」
リビングにいるケミーナから、大声で呼ばれるイロアス。
実際は起きていたのだが、色々と準備をしていたのだ。
「はい、今いきます。」
急いでリビングに向かうイロアス。
リビングへの扉を開いた瞬間、バンッと音が鳴り、部屋が光輝く。
「うわぁっ!」
そんなこと、1ymも予期していなかったイロアスは盛大に驚く。
ケミーナがクラッカーを鳴らしたわけではなく、(そもそも、クラッカーなんて代物はここには無い。)魔法によるものだ。
「卒業おめでとう。とでも言っておこう。」
卒業パーティーの開始となった。
まぁ、パーティーといってもケミーナとイロアス、途中から参加したクスィフォの3人での小規模なものだったが。
それでも、森の恵みを最大限に利用した色とりどりの料理に、光魔法によるイルミネーション、更には魔法花火など、賑やかなパーティーだった。
~~数時間後~~
色々と楽しみ尽くして、落ち着いてきたころ。
「なぁ、イロアス。ここからは、お前に今まで伝えて来なかった重大な事を教えるが、聞く準備は出来ているか?」
ケミーナは、座り直して姿勢を正し、クスィフォの眼差しは真剣なものに変わる。
「ちょっと、待ってください。」
そう言ってメモをとるノートを取りに行こうとするイロアス。
「あーっと、これからの話は王国機密の情報でもあるから、メモなどはしないでくれ。」
イロアスの行動を先読みし、制止するケミーナ。
「何故、そのような情報を僕に教えるのですか?」
疑問に思ったイロアスは、素直に尋ねる。
普通に考えれば、そのような情報には高値がつくため、面倒ごとに巻き込まれる可能性が高い。弟子思いのケミーナが、わざわざ弟子を危険にさらすような真似はしないはずだ。
「お前に関係があるからだ。いや、正確に言えば、巻き込まれる可能性が高いからだ。」
ケミーナの表情に陰りが見える。
「巻き込まれる?・・・」
何の話をしているのかを理解していないイロアスは、訳が分からないと当然の反応を示す。
「まず、魔王の話をしなければならないな。」
魔法学の事なら、同学年の誰よりも詳しいイロアスでも聞きなれない単語が出てくる。
しかし、普通の子供なら知っている一般常識なのだが、イロアスは俗世に疎かった。
「魔王?」
「ああ、[冥界の魔王]ハデス。『魔界シュバルツシルト』の王であり、特異点である魔王城の主。
60年周期で復活し、魔物や魔族を率いて人類と大戦を繰り広げる厄介な奴だ。」
魔王に関する本がケミーナの書斎に1冊もないため、この話はイロアスにとってどれも初耳だった。
「その[冥界の魔王]ハデスの復活が、今年だ。」
ちなみに、魔王との大戦に、一般市民は参加しない。メルティ―ア王国をメインとする、『魔界シュバルツシルト』付近の6王国連合軍と、6人の勇者によって討伐される。
そのため、規格外の戦闘力と、世界一の魔力量であるイロアスも、一般市民に入るので関係無い話のはずなのだが、、、
「まぁ、魔王の復活は機密でも何でもない、一般常識なのだが、、勇者が問題でな。」
面倒くさそうに、顔を歪ませるケミーナ。
「メルティ―ア王国の勇者は、男子なんだが幼くて性格が最悪でな、しかも闇属性が適正ということもあって『闇の勇者』なんて呼ばれているから、人望が少ないんだよ。というか、皆無に等しい。」
ちなみに、『闇の勇者』の性格は、まず自己中心的で、自分が良ければ他はどうでも良いという最低な奴。さらに、自分が〔両方持ち〕ということを鼻にかけて自慢し、傲慢な性格で、面倒くさい事はやりたくないと駄々をこねる怠惰な一面も兼ね備えている。その上で、強欲な奴で、金や地位、名誉に女と全てにおいて忠実に貪欲で、一部では汚らわしいと嫌われている。
「つまり、その大きな戦争の時に士気が下がるということですね。」
理解の早いイロアスは、段々と現状を理解していく。
「ああ、その通りだ。しかし、問題はそこだけではない。他の5王国の勇者が、非戦闘的なユニークスキルだったり、そもそも勇者がいなかったりしてそろわなかった。特にブリタニア帝国の勇者がいないのが大きな痛手だ。」
イロアスにとってよく分からない事ばかりだが、良くない状況だという事は理解していた。
「5人全員がいないのですか?」
5人とは、メルティ―ア王国を除く5王国の勇者の事だろう。
「ああ、『闇の勇者』を除く全員がいない。」
何故ここまで勇者にこだわるのかと言うと、勇者の使う〈聖剣〉が魔王討伐には必ず必要になるからだ。〈聖剣〉とは、魔王の弱点である聖属性の魔素を纏わせた魔剣の事である。この〈聖剣〉は、勇者の称号と共に、国王から賜る。
「そこで、僕にサポートをしろと。」
嫌そうに言うイロアス。いくら勇者と言えども、性格が悪く年齢の近い奴に指図されるのは嫌だし、そもそも面倒くさいというのが本音だった。
「私とクスィフォは、魔王軍との大戦に関われないからな。」
「そもそも、『戦神』は、人間同士の争いにしか関われないし。」
ケミーナとクスィフォに頼ろうとしたイロアスは、2人にそう言われて、何も言えなくなった。
「そのための〈フレアサイクロン〉ですか。」
イロアスが魔力酔いと闘いながら描いた改造型詠唱符の魔法名を言う。
「〈フレアサイクロン〉!?伝説の魔法じゃないか。魔術師マーリンが魔界を焼き払ったっていう。」
イロアスは、伝説や神話には興味がないので、クスィフォの驚きは伝わらなかった。
「ああ、焼き払った方が簡単だと思ってな。」
雑な性格が現れるケミーナ。
「確かに、まとめて一掃する方が楽ですね。」
それに賛同するイロアス。
「何だか、2人とも似てきてないか。」
クスィフォは1人で呟いた。
「まぁ、魔王と無能な『闇の勇者』の話はここらで良いとして、次は私個人の話だ。」
ケミーナがそう言うと、イロアスは待ってましたとばかりに興味を示す。
「あーっと、悪いがクスィフォは席を外してくれ。」
クスィフォを見て、ケミーナは言った。
「分かった。師匠と弟子の秘密って事?」
クスィフォは席を立って、小屋の外に出た。
残されたのは、興味津々な表情のイロアスとケミーナだけである。
「まぁ、まず信じられないと思うが、私は別の世界から来た転生者だ。」
ケミーナのこの発言にイロアスはさほど驚かなかった。
イロアスは、ケミーナのよく知らないし、分からない単語を多く言う事から、別の国から来たことぐらいは想像がついていた。
「おとぎ話が実在するんですね。」
転生者のおとぎ話は実在するが、転生者が実在するとは知らなかったイロアス。
「ちなみに、前世の名前はカリンって名前がついていた。」
だから今の名字もカリンなのだろう。
「でも師匠。いきなりこっちに来て最初は驚かなかったのですか?」
師匠の事だから臨機応変に対応したのかもしれないと考えるイロアス。
「私だって最初は驚いたさ。」
ケミーナは笑って返す。
「師匠はどこの国から来たのですか?」
イロアスの興味は、ケミーナの転生元へと移る。
「まぁ、言っても分からないと思うが、地球という惑星の日本という国から来たぞ。」
「にほん、、その国はどのような国ですか?魔法のレベルは高いのですか?」
イロアスは、矢継ぎ早に質問を繰り出す。
「あー、そもそも日本には魔法の概念が無いぞ。いや、世界で無かったな。」
魔法が無いのがケミーナにとって普通なのだが、イロアスにとっては魔法が無い世界はあり得なかった。
「魔法が無い‼じゃあ、ずいぶんと大変な世の中じゃないですか?この世界では魔法の存在は必用不可欠ですし。」
料理などの家事から戦争まで、他分野で広く利用されているのがこの世界の魔法だ。
「その代わり、科学技術が発展していたからこの世界より便利だったけどな。」
確かに、ケミーナの居た日本と、イロアスの居るこのメルティーア王国では、何もかもが雲泥の差だ。
「かがくぎじゅつつ、、何ですかそれって。」
逆にこの世界に無い概念に、興味を持つイロアス。
「言葉でどうやって説明するんだろう。まぁ、便利なやつだぞ。電気というものが、魔法の代わりをしている。」
ケミーナはこの世界でも電気エネルギーの存在は確認しているが、それを広めるような真似をしていない。
「デンキ、、、何者ですかそれは。凄いですね。それを利用できればこの国、いや、この世界がもっと発展するのでは?」
イロアスがそれを利用しようと持ちかけるが、
「やめとけ、イロアス。禁忌目録に触れるつもりか。」
ケミーナの口からポロリと危なっかしい名前が出る。
「禁忌目録?何ですか、デンキよりも怖そうな名前ですね。」
禁忌って出ている時点で相当ヤバいものだろう。
「ああ、それに触れると生命すら危ない、神々による天罰だ。しかも、絶対的な力。」
ケミーナが敵わない相手など、もはや神しかいないので、イロアスは不思議と理解できた。
「えーっと、師匠は禁忌目録に触れたのですか?」
恐る恐るイロアスは尋ねる。
「ああ、発電機造った。そしたら、次の日には開発小屋ごと消滅していた。」
「しょ、消滅ですか?丸ごと?」
物質を原子レベルまで分解したのか、丸ごと虚無に捨て去ったのかは定かではないが、、
「正確には、跡形も無く。」
なんとも恐ろしい禁忌目録である。
「てか、こんぐらいで良いか?あんまりしゃべりすぎるとまた禁忌目録に触れて、記憶ごと消されるかもしれないから。」
ケミーナの上段とも呼べない発言に、あははと乾いた笑みをしつつ賛同するイロアス。
「今日も遅いし、片付けでもするか。」
確かに、窓からのぞく夕陽は大きく傾いていた。
「そうですね、なかなか散らかっているし。」
そう言って片付けに取り掛かる2人だが、何かを忘れている。
「あー寒くなってきたけど、あいつら俺の事忘れてないよな。」
クスィフォは1人、外で呟いた。
◇ 翌日
「じゃあ、行って来ます。今まで、ありがとうございました、師匠。」
イロアスはケミーナに深々とお辞儀をした。その姿勢から、感謝の気持ちが滲み出ているのが分かる。相当お世話になった証だろう。
「ああ、元気でな。くれぐれも間違えて国を滅ぼすなよ。」
ケミーナは冗談半分、本気半分の台詞を言う。
「流石に国は滅ぼしませんよ。町ならともかく。」
イロアスのレベルなら、国でも容易く滅びそうだが。
「では、またいつか。ソフィア神の加護により、また廻り合えますように。」
イロアスの淡い蒼色の髪が風にそよぐ。
「ああ、行ってらっしゃい。龍神の恩恵により、疫病に犯されませんように。」
加護の祝詞を述べ、恩恵の祝詞を述べられてイロアスは、旅立った。
なんだかんだ言って、約3年間の修行は早いものだった。
最後に色々と登場させてすみません。
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