55話 私は静かに、そして……優しく話しかける
「お父さん!」
「何?」
内容聞いてなかったの?
拍子抜けた返事を返してきた。
契約内容をわかってないんじゃないかしら。
「何時から契約したの?」
「昨日の朝だよ。加護のチカラを受けたら、急に強くなった」
強くなったのは分かった。
そこはもういいの。
……ということは、昨日は100回キチンと唱えられたんだ。
「強くなったのはいいけど、アレクという名前を100回……今日は唱えたの?」
「えっと……まだかな」
まだなのか、昨日はどうしたんだろう。
「昨日は、よく間違えずに唱えられたのね……数えるのも、めんどくさいのに」
私だったら、面倒臭くってもう命を落としてるかも。
「昨日は、特別に唱えるのを免除してもらったんだよ。次の日からでって」
なる程……、お父さんはこの契約書の恐ろしさを分かっていないのね……。
免除とか言われて、免除されてなかったら死んでたよ。
「お父さん、この契約書だと100回ちょうどアレクを唱えないと死ぬらしいよ」
「え?」
私の方が、え? だよ。
「あとさあ。残り6ヶ月でお父さん死ぬらしいけど……わかってる?」
「え?」
お父さんの顔は青ざめていく。
契約書を読むのは難しいって言うけど直接言うと、伝わるのね。
「だから、契約書ってそういう内容だよ」
「い……意味がわからないなあ」
何も難しいことは書いてなかったんだけど。
もっと、本を読まないとダメだよ。
新聞の何を読んでるの? 4コマ漫画だけじゃダメよ。
私だってお父さんがいなくなるの嫌だよ。
このまま放っておいたら、私より先にお父さんがいなくなっちゃう。
お母さんは未亡人になっちゃうんだよ……。
お父さんは契約書を若干ぼ~っとした目つきで眺めている。
「う~ん、困ったなあ……。説明されたから、読んでなかったなあ……」
そんなに簡単に神様とか信じちゃだめだよ。
加護をあげる~って言われて、後のことは何も頭の中に入らなかったのかもね。
いい条件を先に言って、その気にさせておいてさ。
今ならアレクという言葉を100回唱えるだけで、加護をあげますって言われたんだよ、きっと。
まあ……お命頂戴! って、最初から言う人もいないもん。
アレクさんはお父さんの命を初めから貰うつもりでやってるよね。
これは……私が何とかしないとだね……、どうすればいい……?
今……私にできるのは、回数を間違えない方法を考えることかな。
でも、普通のゴブリンにも敵わないような可愛い少女に、何ができるというのだろう。
お父さんはバカだけど……、私のお父さんなの。
そんな簡単に……お父さんの命なんかくれたくない。
やっぱ……カトリーさんに頼めば何とかなるかな?
上級神だったら、なんとかできるような気がする。
私の考えは甘い?
カトリーさんは思い込みで動いちゃう純粋な人。
でも、カトリーさんが私の中では唯一無二の絶対神。
きっと、助けてくれるに違いない。
強さと優しさだけは私は認めている。
「お父さん……とりあえず、今日の分は私が100回唱えるの手伝ってあげる」
「……ありがとう……。そ、そんなことより、これからどうしよ~」
だから、数を間違えずに数えるのが先決でしょ?
今を生きる! よ。
やっと、内容が分かって慌ててきている。
先が思いやられる。
お父さん、もっとしっかりして。
「大丈夫……。大丈夫だから、お父さん。落ち着いて」
「なんで、そんなことが言える? お父さん死んじゃうんだぞ? ヤバイ、ヤバイ」
お父さんは立ち上がると、ウロウロし始める。
……ウロウロされると私はイライラする。
男のくせに情けない……。
「お父さん! ウロウロしない!」
「はい!」
お父さんはまるで、叱られた子供のように椅子にガタガタと座った。
私は静かに、そして……優しく話しかける。
「お父さん……。私が神様の知り合いに何とかしてもらうから大丈夫よ」





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