56話 大丈夫。女は弱いけど強いのよ
「神様の知り合い? 神様の知り合いって、お前……」
まあ、普通に考えれば信じられない。
けれど、お父さんは信じなければ生きられないの。
「ねえ……お父さん、見てて」
私は強化魔法を使った。
足だけとか、そんなんじゃなくて1回分の強化を手の平だけに集中させた。
近くにあった湯呑茶碗(たぶんお父さんの)を手に取る。
勿体ないけど、お父さんの命よりは安いものよ。
後で、記憶操作してもらえばいいし……。
グシャ。
マグカップを片方の手の平で握り潰した。
ポタポタと中に入っていたお茶が床に滴り落ちる。
そんなに中に入ってなかったから……ちょっと、垂れただけ。
「私の知り合いの神様が私に力をくれたのよ。加護じゃないけどね」
大人のゴブリンならこのくらいはできるだろうけど、私がやると驚きじゃない?
私ってば、3歳なのよ。
小さいのよ……弱っちいの。
「神様の知り合い……お前に? 信じられないけど、その力はホントっぽいな……」
ほら、効果テキメン。
「その神様……今度紹介して」
「本人がいいって言ったらね」
その前に、色々忘れてもらうけど。
「この契約書……。私が預かる」
「……無くすなよ。無くしたらどうなるか、分かんないんだからな」
そんなのお父さんじゃないんだから、大丈夫よ。
学校のカバンの中にしまう私。
「お待たせ~」
あ、お母さんが料理を作って持ってきてくれた。
料理の香ばしい匂いが、私の鼻腔の中を魅惑のパラレルワールドに変える。
少しずつ、いい匂いはしてきたな~とは思っていたけれど、運ばれてくると一層かぐわしい。
油の匂いと、肉の焼ける匂い、野菜の香り……。
ゴブリンの嗅覚がそれほど優れていない、と言われていても空腹の私には強い刺激だ。
「あら? お父さん。マグカップ落としちゃったの? 気をつけてよ~」
料理をテーブルの上に置いたお母さんは、ホウキとチリトリで片付け始める。
「あ……ごめん。俺の手が滑っちゃったんだ」
お父さんは、とりあえず誤魔化すことにしたみたい。
私がいない日には、お父さんのお勤めはお母さんに手伝ってもらった方が良いかな。
それとも、独りでやった方が必死でやるから間違えないかな。
お母さんがキッチンに再び消える際にお父さんに聞いてみる。
「お母さんには言ったの?」
「言ったよ。加護持ちになったって」
稼ぎが増えるんだから、普通に言うか。
契約のことはやっぱ言っておいたほうが良いな。
協力してもらいたいし。
「お父さん。お母さんには伝えるから」
「大丈夫か? 心配で倒れちゃうんじゃ……」
「大丈夫。女は弱いけど強いのよ」





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