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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
南攻北守
373/448

バスナの諫言

 南亜郡陥落の三日後。即ち、柔巧城の騒動より二日後の事。

義士城よりナイト率いる本軍三万が、威風堂々たる勇姿で出陣した。

軍師・安楽武も大参謀として従軍し、彼等はまず、先に南亜を征したファーリム率いる第一軍との合流を図る。


 対する覇攻軍は、前線地帯の守備戦力を増強するべく、ナルマザラスよりフハ・ガトレイが出陣した他、従属している各勢力にも出兵を要請。

蝶華国(チョウカコク)軍、ヴェム族軍、旧・護増国(ゴゾウコク)軍など、多種多様な将兵が、続々と剣合国軍と覇攻軍の国境に集結しつつあった。





 南亜郡 緋彗(ヒスイ)平野 築城予定地 兼 剣合国軍本陣


 南亜にてファーリムと合流したナイトは、同地で築城の基礎造りをする先鋒軍の状態を巡察し、鼓舞して…………派手に宴会した。


 ここで注意すべきは、酒類は出されない……と見せ掛けておいてバッチリ出ている事。

本軍が警戒を担う一方、先鋒軍の将兵は程よく飲み食いしていたのだ。


 抑々にして本軍が持って来た軍需物資の内、約四割が慰労物資なのだから、今ここで宴会をしなくて一体いつするのだ!? ……という話である。


 義士城出陣の折に、槍丁と安楽武から「こんなに沢山の慰労物資が要るか?」と聞かれたナイトが、「おぅ、宴会である!!」と答えるや否や、槍丁を高い高いして目を回させた挙げ句、独自の電波を発する事で一時的に洗脳し、呆れる安楽武をも無理矢理説得した…………という話でもある。


 詰まるところを申せば、おぅ! 宴会である!!


「…………と、まぁ……そんな訳だ。だから怒るなよバスナ。しょうがない事なのだ。何せ軍師でさえ止められなかったのだから、しょうがない事なのだ」


「余計な仕事ばっかり増やした本人が、さも仕方ない様に言うな」


『だってここにはバスナが……』


 ナイトとファーリムが口を揃えて駄々こねた。


 だってもへったくれもない。バスナは溜め息を抑えて反論するとともに、不穏な気配に対する気の引き締めを徹底させようとする。


「……だいたいな、ナイト殿。あんたは今一番でしっかりしていないと駄目だろうが。……柔巧の話、淡咲から伝者が回ってきたぞ。何やら涼周に対して災いをなさんとする者が現れ、彼女ですら手を焼く実力を有しているのだと……」


「あぁ……それな。安心しろ……と言っても俄にしきれんだろうが、涼周の許には常に奥が居る様にしているし、本人にも義士城から出るなと伝えてきた。

――それに俺の方でも、ある人物に頼んで調べさせている。……涼周とは、はたしてどんな存在なのか? 何処から現れたのか? なぜ狙われているのか……とな。それが分かれば曲者への対処もしやすいし、さして時間も掛からん筈だ」


「…………ある程度の算段を講じたつもりだろうが、更にその上を考えた方が良いぞ。淡咲からの報告を聞く限り、相手は中々の曲者で、此方の常識が通用する様な奴じゃない。(トキ)の宮の件で、あの手の連中が心底手強い事は知っているだろうが。……涼周に関しても、あの子の動きは変則が過ぎて想像ができん。何かの拍子でキャンディ殿やナイツ殿の許を離れたとして、そこを狙われては一溜まりもないだろうし……仮にナイツ殿が出陣した際、素直に城で待機している柄と断言できるか?」


「……ふむ、奥の目を盗んでナイツの後を追う可能性があるな」


「以前もそうだったのだから、次も有り得る話だ。

――そして、そこまで考えてやるのが父親ではないか? ……まぁ、子を持たぬ俺では偉そうに言う口も持たぬかもしれんが」


 良くも悪くも大雑把なナイトは、涼周の行動について肯定的であり、涼周本人の戦闘力が高い事もあって危険意識に欠けている。

バスナはそこに危うさを感じていた。息子兄弟を信じているのは分かるが、実力の高さで物事を判断するのは余りに危険である……と。


「いや、よく言ってくれたバスナ。正しくお前の言う通り、息子達を想うなら三手四手先の対策を講じて然るべきだな。本当、お前が居てくれると凄く助かる。感謝するぞ!!」


 そして、実の父親から愛情を受けずに育ったナイトにとって、身近な理解者として兄弟を案じるバスナの言葉は、金銀珠玉に勝るものだった。


 ナイトはバスナという存在を改めて有り難く思い、何時も通り素直に礼を述べる。


 一方のバスナは組んだ腕を広げてみせ、照れ隠しとばかりに後頭部を掻いた。


「……大胆な人柄で他人を信じきるのはナイト殿の美点だ。それは間違いなく皆が認めている。だが、それをそのまま『父親』という存在に流用するのは訳が違う。……あくまでも一人の親として、もう少しだけ心配性になった方が良いだろう」


「おぅ! ならば軍議が終わり次第、涼周についての対応策を練るとしよう! そちらでも頼りにしているぞ、剣義将・バスナ!!」


「あぁ、了解した。一先ずは軍議だな」


「それと今夜の警備も頼んだぞ!!」


「あぁ、了解…………する訳ないだろ。それは宴会開いた体力馬鹿のお前達二人がやれ」


 バスナと安楽武にとっての体力馬鹿二人=ナイトとファーリム。

それに反して、ファーリムにとっての体力馬鹿二人とは――


「体力馬鹿な二人…………おぉ、そうかそうか! バスナと安楽武がやってくれる訳だな!! では二人に甘えて、俺と大将は朝まで宴といこうか!! はっはっはぁ!!」


「おぉうファーリム!! その意気や良し!! いっちょ派手にやってやろうぜ!!」


 ファーリムとナイトにとっての体力馬鹿二人=バスナと安楽武。

詰まるところを申せば、おぅ! 宴会である!!


「ふざけるな。どんな理屈だ。今夜の警戒は、お前とファーリムが、ヤ・レ!!」


 反論するバスナは、「今夜の警戒は」と「ヤ」でナイトを指差し、「お前とファーリムが」と「レ」でファーリムを指差し、交互に示す形で二人へ念を入れた。

安楽武に関しても、先程のバスナの忠告がまるで効いていないナイトへ呆れてしまう。


 そんな安楽武へ、当のナイトはこう語る。


「ふっははは、どうした軍師。まるで俺が、バスナの諫言を早くも忘れた……とでも言いたげな面してるな!」


「では進言しましょう。殿、先程のバスナ殿の諫言を早くも忘れた様な面して、一体どうしました? 何を考えておられます? 破滅への近道ですか? 先に申しますが、同伴は致しませんよ」


「心配すんなっ! 俺が道を踏み外すより先に、お前が正してくれる!!」


「…………なら早々に正してください。殿は剣合国にあって大事な大将ですので、貴方一人の言動だけでも大局に影響を及ぼします。……弟君の身を案じるなら尚の事、軽挙妄動は控える様にお願いします」


「おぅ! 俺の事も涼周の事もお前達の事も、ドーン!! と俺に任せとけ!!」


 右の親指で自分を示そうとするが、勢いよく腕を振りすぎたせいで親指が左肩を越え、ナイトの後ろに控える亜土雷がドーン!! と任される。


 それでも真面目な亜土雷は、静かに一礼してドーン!! と任された。

ナイト曰く「うむ、男前である!!」……だ。


(……大丈夫なんだか大丈夫じゃないんだか)


 兎に角、返事だけは立派なナイト。

バスナは心の中で憂慮の声を漏らし、安楽武は白羽扇を力なく扇いだという。


 その後、結局どうなったかと言えば、ナイトは周りの者が拍子抜けする程に大人しくなり、軍議を終えて程々に全軍の士気を高めるや、ファーリムと共に夜警に専念した。


 そして一人の伝令が、義士城のキャンディとナイツと槍丁に向けて飛ばされ、夜明け頃には彼女等の耳に涼周対策案が届けられたのだった。

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