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北高

 真夜中峠のホテルでは、激しい戦いが繰り広げられていた。

「だ、だめだぁ! 全然堪えてないよ! ああ、先輩! マガジンないですかっ!」

 イツキのイェーガー2は、次から次へと溢れ出てくる小型ウイルスを片っ端から撃ちまくり、撃ち尽くしたらマガジンを交換、もう用意した八つのマガジンを使い果たしたらしい。

「ないわよ! しょうがないわ、退却!」

「は、はいっ!」

 イツキは、自機のイェーガー2をハンドガンに持ち替えさせて、撃ちながら後退していく。ミユキもシュトラールでライフル射撃を続けて、徐々に後退させている。あまりにもウイルスの迎撃が激しすぎて、あのラージニードルの縄張りであろう、あのエリアへの侵入は困難を極めた。


 四月に初めてエリアへの入り口を見つけて侵入して以来、この間もそうだが、何度か再侵入を試みるもそう簡単には立ち入れず、一進一退の攻防が続いた。

 東高だけでは到底無理なので、親しい民間チームに共同戦線を依頼して、何度もアタックを繰り返している。

 しかしまだ、あのラージニードルには再会していない。

 つい一週間ほど前に、侵入口に梯子がかけられた。

 大手民間チーム「ホライゾン」の「土木建築チーム」が頑丈な梯子を取り付けて、上り下りがしやすいように工事した。また、正面玄関からこの吹き抜けに向かうためのルートに印を取り付け、迷わずに来れるようにもしてあった。

 そのせいか、大小様々なABSチームが訪れ挑んでいた。

 この先に、「ホテルのヌシ」ともいうべきラージニードルがいるという噂が広まるにつれ、これまでとは比べものにならないくらい大勢のABSを見かけるようになった。

 痛い目にあった南高はやはり見かけないが、先日など複数のチームが総勢四、五十機のABSでごった返している時もあった。

 しかし、それはいつもそうではない。

 大河の所属する東高は、今日はどのチームも一緒には行動できなかったので、大河たちの経験値を稼ぐ目的で、東高単独でやってきていた。


「うわぁっ!」

 小型ウイルス、フロッグがイェーガー2に飛びかかってきた。ハンドガンによる射撃ではすべてに対抗できず、一匹が射撃をくぐり抜けて近づいてきたのだ。

 イツキのディスプレイいっぱいにフロッグの姿が写り、もうだめだ! と思った瞬間、フロッグは弾け飛んで壁にぶつかると、そのまま動かなくなった。

「イツキ! 大丈夫か?」

 どうやら大河のフェンリルが、フロッグに体当たりをしたようだった。

 相変わらずだが、大河は撃つよりも格闘する方が得意なようだ。

「う、うん――ありがとう、助かったよ」

 イェーガー2は尻餅をついたまま、すぐに起き上がれないでいる。

「いつまでもへたり込んでるとやられるわよ! 早く来なさい!」

 ミユキが叫んだ。

「ま、待ってくださぁい!」

 駆け出したシュトラールとフェンリルを見て、大慌てで立ち上がると急いで二機の後を追った。



 一度ホテルの外に出てくると、ABSを一旦キャリアに積載して作戦会議が始まった。

「やっぱ難しいな。あいつらどっから湧いてきてんだよ。キリがねえ」

「多分、あの奥にファクトリーがあるんだよ。だったらファクトリーを壊さないと、いつまでたってもウイルスは出てくるし……ますます手強いなあ」

「けっ、まったく鬱陶しいよな」

 大河は不満タラタラのようだ。戦力が乏しくて、怒涛のごとく押し寄せてくるウイルスの大群に対抗できていないのだ。

 聞いた話では、数チームがミユキたちが解除した扉の向こうにまで侵入したという。

 しかし、まだラージニードルに遭遇したというチームはなかった。

 ミユキは何度かそれらのチームに、ラージニードルと遭遇した時の状況について説明を求められた。

 あるチームなどには、ラージニードル自体が嘘ではないかと疑われたこともあったようだ。ただ、ミユキの信用は非常に高いので、ラージニードルと遭遇したという話は間違いないだろう、というのが大方の考えではあるようだ。

 奥まで侵入できたチームも最深部まで到達し、完全に調査できたわけではなかった。

 かなり地下深く下って行き、その先にある大きな通路の先に学校の体育館くらいある巨大な部屋が見えたが、その辺りでウイルスの激しい抵抗にあって進めず、退却したらしい。

 十二機のチームで五機が撃破され破棄となったという。半年前に買ったばかりのABSが破棄になったオペレーターは、さすがにショックで泣いていたそうな。


「――今日はここまでね。やっぱり私たちだけじゃ無理だわ」

 ミユキはトーコに東高基地まで戻るように伝えようとした時、トーコが言った。

「向こうからキャリアが来るよ。二台。ふぅん――あれ、北高だね」

「北高?」

 さらに近づいてきた二台のキャリアは、すぐに東高のキャリアのそばに停車した。

「どうもお疲れさま――東高ね。こちら北高情報技術部チーム3とチーム4」

 向こうから通信があり、メインディスプレイに映し出されたその顔は、北高情報技術部の顧問兼副監督の藤堂裕子だった。ミユキは意外そうな顔をしつつ、表情が明るくなる。

「藤堂先生、どうもこんにちは。ホテルへ突入ですか?」

「ええ、そうよ。最近は随分賑やかなようね。例のラージニードル、私たちもチャレンジしてみようかと思ってね」

「そうですか、でも手強いですよ。私たちもさっき弾切れで逃げてきたところです」

「三機だけで? 椎名さんらしくない……無謀ね、協力してくれるチームと挑むべきよ」

 藤堂は驚いた。

 ラージニードルが闊歩するエリアは、まだ民間チームが主体となって一進一退の攻防が続いているという話は聞いていた。かなりの数のウイルスが存在すると報告がある。

 はっきり言って三機だけで戦おうというのなら、明らかに無謀だった。ミユキもそれはわかっている。だから、今日はそこまで行ってはいないと答えた。

「最近はそうしてるんですが、今日はたまたまで……もともと激戦エリアを突破することは考えてませんでしたから。私以外は一年ですから、練習で入っていたんですよ」

「そう。でも、くれぐれも無茶はやめるのよ。何のプラスにもならないわ」

 藤堂はディスプレイに表示されるワールド内の東高のABSに、見慣れないABSを見つけた。オープンデータを表示させて一瞥すると、すぐにミユキに尋ねた。

「ところで――あれが最近話に聞いたオリジナルABS? このフェンリルという……」

「ええ、そうです。一年の葛城大河のABSです」

 大河は自分の話が出てきたので、前にでしゃばってきた。

「俺、葛城大河っす! よろしく!」

「うふふ、元気のいい子ね。こちらこそよろしく。……それにしても、聞いてはいたけど随分変わったABSね。あの葛城博士が作ったものだと聞いたわ。すごいものね」

 藤堂は大河の父を知っていた。というか、大河の父は研究者として名の知れた人物で、知られていて当然といえば当然だった。

「へへっ! まあね。それで俺が操縦してんだから、最強さ!」

「こら、大河。調子に乗るんじゃないの。すいません、先生。無礼なヤツで……」


 そんなことをあれこれ話していると、北高の生徒が藤堂に声をかけた。

「全員、準備できました。いつでも突入できます」

「よし、チーム3から作戦通りに侵入しろ。手強いウイルスがいる。注意して進め」

 さっきまで準備に取り掛かり、二列に並んで待機していたが、すぐにチーム3が正面玄関から入って行く。それから少し間を開けて、もう一つのチームが入って行った。

「すごい、軍隊みたいだ」

 イツキが呆然とつぶやいた。これが自分たちと同じ高校生とは。

「武井さんとこのトーマスよりも全然すげえな」

 大河もその整然とした様子に驚いているようだった。

「ちゃんとしたチームはあんなもんよ。私たちはここまで。先生、私たちはこれで」

「ええ、お疲れさま」

 こうして北高チームの、「光の帝国ホテル」突入を見送ってから基地に向かって峠を下って言った。

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