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フェンリルの牙

 翌日の放課後、今日も変わらず部活動の時間だ。

 大河とイツキは昨日の撤退戦について、ああだこうだと話に花を咲かせている。

「アクセラレートって不思議だね。いざとなったとき、それさえあれば無敵かも」

 イツキは大げさに言っているが、先ほどの場面においては高所から飛び降りただけである。

 アクセラレート・システムは、その移動の際には、重力などワールドにおける自然の法則が無視されるようで、普通なら着地と同時に機体に大きなダメージを負うはずが、まったくダメージなく着地している。

 しかし、現状ではこれくらいしかない。素早く有利な地点に移動して戦闘を有利に進めることはできるだろう。しかし大河は射撃が下手であまり有効に働くとは言い難い。

 しかし、イツキにはかなりすごいことだと感じたらしい。

「へへっ、やっぱ俺のフェンリルが最強だぜ!」

 得意になって、思わず拳を突き出す大河。しかし、そんな明るいムードに水を差す言葉が、ミユキから飛び出した。

「――ダメね」

 二人は一斉にミユキを見た。イツキは意味がよくわかっていない風で、大河は少しムッとしたようだ。

「なんだって? 先輩、何がダメなんだ!」

 ミユキにダメ出しされて食ってかかる大河。イツキも困惑している。

「はっきり言って、現状ではフェンリルのアクセラレートは大して役に立ってはいないわ」

 ミユキはそう言って、ディスプレイに表示されている、ステータス画面のフェンリルを見た。フェンリルは、『アクセラレート・システム』という強力な『魔法』を持っている。そしてその、アクセラレートに適応できる大河が操縦しているのだ。

 しかし、問題があった。

「そのアクセラレートが活かせる場面がね……」

 ミユキは渋い顔をしてつぶやいた。

「ば……場面?」

「そう。アクセラレートで瞬間移動するとするわ。でも、そんなに長距離を移動できるわけじゃない。すぐに行けない崖の向こうに行けるとか、いきなりウイルスとの間合いを詰めて、ふいを突くこととか……そんな程度。冒険するにも、ウイルスと戦うにもちょっと物足りないというか。何というか……あと一歩、足りないのよ」

「……確かにそれは言えてますね。でもどうしたら」

 イツキはミユキの話を聞いて、不安そうな表情だ。

「それを考えなきゃならないわね」

 ミユキは、大河の方を見た。

「このフェンリルには、せっかくアクセラレート・システムという強力な『顎』が備わっているのに……たとえばそう、『牙』がないのよ。それじゃ嚙みつけないわ」

 フェンリルの牙。要するに、アクセラレートを利用した強力な武器とか活用法が欲しい、ということだった。いくら瞬間移動できても、それを活かした使い方ができないと話にならない。

 はっきりと指摘されると、その欠点にどうしても認めざるを得ないのだった。



「フェンリルの『牙』か……」

 大河はベッドに寝転んだまま、ぼんやりと天井を眺めつつ、つぶやいた。何を持って『牙』とするか。それが問題だ。例えば、瞬間的に移動していい位置を確保し射撃。まあこれも悪くはないが、いちいちアクセラレートを駆使してやることか、と言われると正直どうでもいいレベルの話だった。それに大河は射撃があまり得意ではなかった。地道に練習を続けていけばよくなるかもしれないが、その程度のことしかできないというのは何か悲しいものがある。

「そうだ。ピストル持ってアクセラレートで懐に飛び込んで、至近距離から撃ちまくるっていうのはどうだ!」

 大河は、それはとても名案だと思った。やっぱりこれしかない。

 そう考えたら強力なハンドガンが欲しくなった。どんなものがあるんだろうと思ったが、詳しくない自分で調べるよりも、真奈美に聞いた方がいいんじゃないかと思って真奈美に聞くことにした。

「真奈美――いいか?」

 大河は真奈美の部屋のドアをノックした。


「うぅん、ピストルと言っても、私にはあまり有効な手段とは思えないかも……」

 大河は真奈美にアクセラレートの件を話した。そして強力なハンドガンはないのか聞いたが、帰ってきた返事はいまいち芳しくなかった。

 大河はそれでも自分の考えを力説するが、真奈美の考えは変わらないようだった。

「でもさ、ピストルって威力は小さいけど、至近距離なら強力だろ」

「それはそうだけど。大河くんの場合、撃つよりもコンバットナイフで刺すか斬るかする方が確実で効果的な気がするわ。でも、何だか決め手にかけている気がする……」

「決め手なあ……」

 どうも漠然としていて、明確なアイデアが浮かんでこない。腕組みして、カーペットの上にドカリと座り込むと、その場でさらに考え始める。いくら考えても、すぐには名案は浮かばないと考えた真奈美は、

「そんなにすぐに、結論を出す必要はないと思うの。じっくり考えたらどうかな?」

 と言った。別に期限があるわけではないのだ。ゆっくり考えてもいいと思った。

「まあ、それもそうだな……明日にするか。じゃな、おやすみ」

「うん、おやすみなさい」

 大河は真奈美の部屋を出ていった。

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