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使いこなせるのか

 一旦ホテルを離れようとなって、峠を下りて東高の基地まで帰ってきた。そこで、先程までの状況を報告し、情報を共有した。

「かなり危険だったみたいだねえ」

 チーム風来坊の田沢は、いつもと変わらないのんびりした口調で言った。あれでよく無事に逃げられたものだ、と感心している様子だ。

「前はほとんどウイルスが出てこなかったわ。もしかすると、一度侵入されたから警戒されたのかもしれない」

「ありえるね。となると、何らかの対策をしないとまずいな。いっそのこと、さっき爆破で開けた穴から侵入できるようにするとか」

「結構高さあるよ。厳しくないかねえ」

 梯子などを用意して、上り下りできるようにしなくては無理だろう。用意することは難しくないが、もしかするとウイルスにそれを読まれて、登っている最中に攻撃されることもある。中がどうなっているかは、登ってみないとわからないのだ。

「どちらにせよ、結構な数のウイルスが徘徊していることは間違いないし、簡単にはいかないな」

 武井は、今後の攻略は非常に厳しいことを予感した。次に同じようなことがあれば、同じように脱出できるかはわからない。

「私たちも、もうウチだけで単独は難しいかもしれないわ」

「俺もそう思うよ。複数のチームで挑んだほうがいい。ホライゾンに話を通して大部隊を編成するか。なんてな」武井は笑った。

「そうですね。考えておかないといけないわ」

 ミユキは、今後はどこかのチームと協力する方向で考えていた。

 この出来事については情報を共有され、これを機会に光の帝国ホテルの攻略を本格化するチームが増えるだろう。もしかしたら自衛隊も動くかもしれない。

 しかし、自分たちだけで攻略ができないというのは、やはり寂しいものがあった。

「どちらにせよ、突入方法をどうにかしないとラージニードルと対面する前に、ウイルスの大群にやられてしまう。きっとゲートのスイッチは、ラージニードルが守っているんだろう。奴を退治しない限りは、ゲートのスイッチには届かん」


 ふと武井がミユキに話を振った。

「大河くん――彼のABS、フェンリルだったっけ? あれ、面白い機能があるな」

 武井は、フェンリルがアクセラレートで下まで降りたのを覚えていた。

「ええ、『アクセラレート』ですよ。大河は適性を持っているんです」

「マジか? アクセラレートを搭載したABSってだけでも珍しいのに、大河くんは適性まであるのか。何かこう、只者じゃないとは思っていたけど、世の中いるところにはいるもんだなあ」

 フェンリルは、『アクセラレート・システム』という特殊機能が備わっている。まるでテレポーテーションしたかのような超高速移動を可能にする機能だ。

 しかし、この機能にはオペレーターの適性が必要で、適正のないオペレーターが使うと、酔ったような感覚でフラフラになってしまう。

 大河には、そのアクセラレートの適性を持った稀なオペレーターだった。

 ミユキを始め武井も、アクセラレート・システム搭載機を見るのも初めてだが、それに適応したオペレーターを見るのも大河が初めてだった。

 武井は物珍しそうに、ディスプレイの向こうに見えるフェンリルを眺めている。

「なあ、ミユキちゃん。思ったんだが――アクセラレートは使い物になってるのかい?」

「いえ……正直イマイチですね。簡単には移動できない場所にすぐ移動できるのはいいですが、それくらいしか今のところ……」

 アクセラレートは高速移動の機能だ。単純に考えて、移動する際の活用しかない。武井は、フェンリルがアクセラレートを搭載しているにも関わらず、大河はろくに使っていないことを考えていた。

 しかし、やろうと思えば様々な使い方があるだろうが、様々な使い方を研究している軍や研究機関ならまだしも、ミユキたち一般人にはその珍しい機能を十分に活用するのは難しかった。

「せっかくなんだから、何かいい活かせる手段を見つけた方がいいと思う。それだけじゃあ勿体無いよなあ。……それじゃ、俺たちもそろそろ帰るわ」

「ええ、それじゃ」

 武井とチーム・トーマスは自分たちの基地に向かって去って行く。ミユキはトーマスを見送りつつ、アクセラレートの可能性について考えを巡らせていた。

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