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プロジェクト・ラグナロク  作者: 和瀬井藤
ホテルの秘密
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顧問の先生

「――ということで、大河もいくらか慣れてきていることだし、少しづつホテルの調査を再開しようと思うの」

 ミユキは今日の部活動に入る前に、大河とイツキに今後の方針を説明した。

「よっしゃあ、早く行こうぜ!」

 大河は声をあげてやる気満々だ。そうして準備しているときに、部室のドアが開いた。

 失礼します、と言って入ってきたのは真奈美だった。

「あら、真奈美ちゃん。いらっしゃい」

「先輩、頼まれてたもの用意できましたよ」

 真奈美は何かを頼まれていたらしい。ミユキは真奈美からメモリーカードを受け取った。

 メモリーカードによるデータの受け渡しは、意外に思うかもしれないが、この時代にもよく使われている。ネットワークがワールドに置き換えられたせいで、通信環境が不安定だったりする場合も多々あり、この方が確実だったりする。

「あら、早かったわね。きっとお父様に負けないプログラマーになれるわよ。どれどれ……」

 ミユキは受け取ったメモリーカードを自分のパソコンに差し込んでファイルを開いた。すぐに中のデータが一覧で表示される。

 中には機関銃があった。オーストリアの銃器メーカー、ベルツ・フリーデル製のM12機関銃という。

 昔からある汎用機関銃で、ABSが携帯するだけでなく、キャリアに据え付けて使用されることも多い。この真奈美が持ってきたものもキャリアに設置するタイプのものだ。

 しかしどうやら、この機関銃は本来ABSの携帯用のものだったものを、真奈美に据え付け銃架を作ってもらったようだった。

「わあ、これどうしたんですか?」

 イツキは少し興奮した様子で尋ねた。

「安いのがあってね、思い切ってキャリアに装着してみようかと思ったわけ。それで真奈美ちゃんにこれ用の銃架を制作依頼してみたのよ。なかなかいい感じでしょ」

「ですねぇ。でも高村さん、これ本当に自作したんですか? これは結構すごいことですよ」

「そ、そんな――そこまでのものじゃないよ。こういうのは何年か前から、お父さんに教えてもらってプログラムを作ってみたりしてたの」

「いやはや、さすがですね。さすが高村さん」

 イツキは尊敬の眼差しだ。イツキなど、プログラムもろくに組めない。しかもどちらかというと、授業でもプログラムは苦手な部類なのだ。

「まあ、それはそうと……どれどれ、トーコ。ちょっと付けてみて」

「了解」

 トーコは、東高のキャリア「スルガ・グランドランナー4」トラックの荷台に銃架を取り付け、それにM12機関銃を装着した。

 そしてABSのシルエットをもっともらしく周囲に仮置きすると、その姿を部室のモニターに表示させて、みんなに公開した。

「どう? こんな感じだけど」

「なかなかいいわね――でもやっぱり前にあったほうがいいんじゃない?」

 ミユキは、荷台後端に置かれた状態を見て意見を言った。

「僕はこの方がいいと思いますけど。前って、奥まったところに設置するとABS乗せている時に邪魔になったりしないですかね」

「まあそれもあるけど後端じゃ、荷物の積み下ろしに邪魔になるわ」

「でも、やっぱり付けるなら使いやすいように――」

「キャリアでの戦闘は限定的よ。あくまで補助。装備はしても使わずに済むならその方がいいわ」

 ミユキとイツキは、荷台の前か後ろのどちらに付けるかで意見が分かれた。

 通常ならミユキの意見がすぐに通るが、イツキも何かこだわりがあるようで譲らない。珍しい光景だった。

「やれやれ、そんなもんどっちでもいいじゃねえか」

 大河はどちらでもいいようで、二人の様子を素っ気なく眺めている。真奈美は苦笑いしかなかった。


 そんな時、部室のドアがふたたび開かれた。何事かと一斉にドアの方に注目する。

「みんなぁ、元気にやってるぅ?」

 そう言って部室に入ってきたのは、大河とイツキのクラスの担任、鈴原エミだった。

 驚いた大河は、鈴原に尋ねた。

「あれ? 先生、どうしたの? 俺、別に何も――」

 呆れた顔をして、鈴原は言った。

「どうしたもこうしたもないでしょ。この情報技術部の顧問である私がここに来て、何か問題ある?」

「へ? こ、顧問っ――!」

 大河はのけぞるくらいに驚いた。まさか、自分のクラスの担任がこの部の顧問だったとは。ミユキは何を今更という顔をしている。

「そうよ。鈴原先生はこの情報技術部の顧問よ。今年の春からね。――って大河、あんたがどうして知らなかったのよ。入部届けを提出したんでしょ?」

「ああ、そういやそうだ。……って、その時先生休んでなかったっけ?」

「そうそう。先生は二、三日休むことになってて、代わりに三組の筒井先生に提出したよね」

 イツキも思い出して言った。

「そうよ。私もびっくりしたわ。後日、筒井先生が、葛城くんが情報技術部の入部届けを持ってきたって言って――」

 しかし、大河は重要な点を突いた。

「でも、じゃあなんで先生は全然部室に来ないんだよ。俺、一回も見たことないぜ」

「ま、まあ、それは……椎名さんが素晴らしいでしょ。私なんて別にねえ……」

 あははは、と苦笑いしてごまかす。

 鈴原は、ワールドやABSについて詳しくないし、興味も乏しい。部員が少なくとも、情報技術部は学校に必要なクラブであるが故に廃部にはできず、誰かが顧問をしなくてはならないという時に、若いからという理由で押し付けられた。

 もちろんだが、通常業務が忙しくてクラブ活動をみている暇がないというのもある。

「まあ、それはいいですよ。先生はそれほど詳しくないのに、この部の顧問を押し付けられているんですもの。でも鈴原先生が来るのは珍しいですね。何かご用ですか?」

 ミユキは鈴原を擁護するが、サラッとキツいことを言ったような……。

「そう。用があって来たのよ。実はね、八月に大会があるでしょ。七月から予選が始まるそうなの。だからそれについて相談に来たのよ! 手続きについては私がやるから、みんなは試合に集中してちょうだい!」

 どうやら鈴原は、夏の全国高校ABS競技大会のことで来たらしい。ようやく顧問らしいことができそうで、張り切っているようだ。

 しかしこの大会は団体戦のみで、人数が足りない東高情報技術部は出場資格がない。

「先生、その大会は……私たちは出られないんですよ」

「え? ――ど、どどどうしてっ? どうして出られないの?」

 鈴原は目を丸くして叫んだ。まさか出場資格がないなんて、夢にも思っていなかった。

「一チーム、五機編成が決められています。それに満たないチームは出られないんですよ。うちは三機だけだから出られないんです」

「な、なんと……そんな酷い話ってないじゃないの! それじゃ、出られる高校と出られない高校があって不公平だわ! そんなのってないわ! うん、ないっ!」

 ハンカチ咥えて悔しがるその様を見て、大河は鈴原のことを美人な人だと思っていたが、割とひょうきんな人でもあるなと思った。

「私たちはいいんですよ。試合は二の次ですから。やらなくちゃいけないことが、山ほどあるんです」

「そ、そう……。で、でもね。これは教育上よくないわ。うん、よくない! せめて抗議しなきゃ!」

 鈴原はそう言って、すぐに教室を飛び出していった。その姿を呆然と見送る大河たち。

「な、なんだったんだ……」

「……まあ、考えてくれているのよ。私たちのこと」

 ミユキは苦笑いでつぶやいた。

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