岡山ABS友の会
あれから東高情報技術部は、またいつもの活動を続けている。
大河は直感的な操縦はとても上達が早かった。しかし、やはり射撃はうまくならなかった。
また、機微で繊細な操縦も苦手で、うまくできないことには当然練習にも身が入らない。
「えぇ……またかよ……」
今日は射撃練習、昨日も射撃練習、一昨日も射撃……。
「先輩! いっつも射撃練習ばっかりじゃねえか!」
当然、大河の不満が爆発する。
もう実は一週間ずっと射撃練習をやっていた。しかも二時間の活動時間をフルに使って、ひたすら撃ち続けるのである。もううんざりして、ライフルを見るのも嫌だ! と叫びそうなくらいだった。
「その下手くそな射撃を、少しでも早く上達させなきゃならないからでしょ。いいから黙って撃ちなさい」
「だいたい撃つばっかでいいのかよ! 他にも格闘したりとか、ロープ使って登り降りとか、いろいろやることあるだろ!」
「その辺は問題ないわ、あんたの優れているところを上げるなら、そういうABS自身の動きに関する操縦は大したものね。もうイツキと同じくらいできてるわけだし」
大河はオペレーターを始めてまだ一ヶ月ほどしかならないが、フェンリルの操作自体は特に問題がないくらいに扱えていた。
真奈美が前に、「もしかしたら大河くんのために作られたのかも」と話していたが、ミユキはそれが、あながち間違ってはいないかもと、ちょっと真面目に考えていた。
実際に大河はオペレーターとしての適性が高い。普通はせめて半年くらい必死に練習しないと、ここまでうまくは扱えないものだ。ミユキはその才能には大きな期待を寄せていた。もちろんだが、フェンリルの特殊機能「アクセラレート・システム」にも。
「そ、そうか? いやぁ――ま、俺くらいになりゃ、そのくらいチョロいもんだぜ!」
ちょっと褒められると、すぐに有頂天になってしまう。
「そのすぐに調子にのる性格が治ったらまだマシなんだけどねぇ……」
ミユキは呆れて、天井を仰いだ。
六月の初め頃、ミユキはあるイベントに参加するために街へ出た。
これは、『岡山ABS友の会』なるABSオペレーターが年に数回集まって、意見交換や親睦を深めるというものだ。
オペレーター以外にもメンテナンス専門や、開発専門の人も少ないが何人かいる。別にかしこまったものではなく、幹事が告知して適当に人を集めて、昼間にレストランなどでワイワイやっているだけという程度のものだった。
昼間にやっているのは、未成年に配慮してのことだ。
オペレーターは、割と未成年の数も多い。ABSを操縦して戦うと言っても、ABSはデータであって実在するものではない。また、やられたとしてもオペレーターの命や健康に害が及ぶものではない。
それゆえ保護者も、オペレーターを危険なものとは見ていないためである。さらにその活動が、直接または間接でも人の役にたっているというのも、好印象を持つ理由の一つだった。
今回は市内の焼肉店で行われた。
ここはよく使われる店だ。岡山駅から近いこともあり交通の便がいいことに付け加え、奥に座敷があって、そこには三十人くらい入れることもあって、こういうイベントには都合のいい店だった。
「やあ、ミユキちゃん。久しぶり」
「あ、本郷さん。お久しぶりですね」
ミユキは声をかけてきた穏やかで大柄な男に、にこやかに返事を返した。
この男は本郷登といい、岡山県では大手の部類に入る民間チーム「ホライゾン」のメンバーだ
今年三十六歳になったばかりの会社員である。身長一八〇センチの恰幅のいい体格とおっとりした笑顔が素敵なオジサンだ。
「どう? 東高情技部の活動は。真夜中峠はどう?」
「もう七割か八割くらい攻略できてると思うんですけどね」
「うん。僕も久しく行ってないけど、結構停滞しているっていうのも聞いてるからね」
「ええ、自衛隊も全然来ないですから。なかなか進まないんですよね」
ミユキは苦笑いした。
「ははは、今は倉敷のアレ……コンビナートの方が大変だからね。でもチャンスじゃない? 君たちでゲート開けば本当に表彰ものだよ」
「それができたら苦労はないんですけど……うちの乏しい戦力じゃ、まだ難しいかなぁ」
ミユキはイツキと大河の顔を思い出して、ため息をついた。まだまだ素人に毛が生えた程度のビギナーたちだ。ゲート解放という大仕事を成し遂げるには、あまりにも心許ない。
「今は四人だって? なんか最近、一人入部したって聞いたよ」
「ええ、初心者ですけど、結構才能があるかも。射撃がてんでダメだけど、ABSの扱いは筋がいいし」
「そりゃよかったじゃないか。東高は今年二人になってさ、中学生の助っ人、何ていうんだっけ――その子と三人じゃあまりにも厳しすぎる。せめて五機くらいは数を揃えたいだろう」
「もっと入部希望者が増えてくれたら……いいんですけどね」
話し込んでいると、別のチームの知った人たちもやってきた。
「よう、ミユキちゃん。相変わらず可愛いね。このオジサンたちの中に咲く可憐な一輪の花、その名はミユキちゃん――なんてね。あはは」
「もう、よしてください。武井さんったら」
ミユキは笑顔で答えた。言いつつも、まんざらでもない様子だ。
彼の名は武井斗真。「チーム・トーマス」のリーダーだ。
八人という少数のメンバーで活動している民間チームで、過去には岡山市南部方面のワールドで、複数のAP解放の実績のある実力派だ。
彼らは普段南部方面で主に活動しているので、ミユキはそんなに会うことはないが、これまでもこういった場で会うことはあったのでよく知っていた。
普段の彼は、少しキザなアラフォーの警察官だったりする。三十二歳二児のパパだが、冗談なのか本気なのか、こういう場ではよく女性を口説いている。
さらに人がやってくる。今度は女性だ。
「あら、皆さんお揃いで。ふふ、椎名さん人気者ね」
「藤堂先生、どうも」
ミユキは軽く会釈した。
彼女は藤堂裕子という。岡山四校の一つである北高の教師だ。
北高にも情報技術部があり、岡山県でもっとも規模の大きいABSチームのある高校だ。しかも彼女は、部員数四十六名という大所帯を束ねる顧問であり副監督という立場にある。
こういう場に参加しているところからみても、民間チームにも顔が広く、また指揮者としても優秀な人物だ。
まだ二十代で若いが、貫禄もあり美人なので生徒の人気も高い。
「おお、裕子ちゃん。このむさくるしい荒野に咲く可憐な花よ! もしかしてボクに会いにきてくれたのかい?」
「何言ってるんですか、武井さん。さっき椎名さんにも似たようなこと言ってましたよね」
藤堂は呆れ顔で言った。
「あはは……それはそれ、裕子ちゃんは裕子ちゃんだってば」
「まったく、奥さんに言いつけますよ」
「うわぁぁ、それは言わない約束だって!」




