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乱戦の後

「まずい、出るわよ!」

 南高チームの危機的状況に、シュトラールはすぐに駆け出しアサルトライフルで射撃した。小型ウイルスに命中し、そのウイルスは撃破した。

 続いてフェンリルとイェーガー2も飛び出して、同じようにフルオートで撃ちまくる。

 中野を攻撃していたクラッシャーが振り向いたかと思うと、今度はミユキの方に飛びかかってくる。しかし、冷静に狙いを定めたミユキの操縦するシュトラールは、正確にウイルスの弱い部分を撃ち抜き撃破した。

「たっ、助けてくれぇっ!」

 中野隊の二年生のABSが、ウイルスに掴みかかられ危機に陥っていた。

 イツキのイェーガー2はすぐに駆け寄ってウイルスに掴みかかると、コンバットナイフを鞘から抜き取り、その刃をウイルスに向かって突き立てた。コアを貫いたのかウイルスは力なく崩れ落ちた。

「た、助かった……」

 中野隊の二年生は、起き上がることなくその場で安堵した。

 イツキはこの二年生のデータを閲覧した。オペレーターの顔が表示される。ふと、この顔に見覚えがあった。


「あぁあっ! お前はっ! こいつは!」

 大河は驚き叫んだ。

 大河は中野の顔に覚えがあった。この間の日曜日、イツキが買おうとしたクラムを横から奪い取っていった奴だ。

「おい、てめえ! 俺の顔を忘れたわけじゃねえだろうな!」

 大河は残りのウイルスなど目もくれず、フェンリルで中野のABSにタックルを食らわせた。

 弾き飛ばされた満身創痍の中野のABSは、ろくに抵抗もできずに二度バウンドしてフロアに転がった。

「な、なんだお前!」

 わけがわからず大声で吠えるが、ディスプレイの向こう側の大河にまともに伝わるはずもなく、されるがままの中野。

「ロクでもねえことやってるから、こんな目にあうんだ! わかったかっ!」

 ひたすら吠えまくり、目の前のボロボロのABSに怒りをぶつける。

「ちょっとやめなさい!」

 残りのウイルスを撃破したミユキのシュトラールが止めに入る。

「あのっ、どうしたんですか!」

 大森と一緒に立てこもっていた一年も、殴りかかるフェンリルを止めようとした。

 シュトラールと、南高の一年のABSでフェンリルを抑えているとき、イツキに助けられた南高の二年生は、助けてくれたイェーガー2のオペレーターの顔表示を見て、見覚えがあるのに気がついた。

「お前はあの時の……」

 どうやら日曜日のイツキとの件を思い出したようだ。

「……さっきはすまねえ。助かったよ」

「いや、別に……」

「あと、この前も済まなかったな。中野が調子に乗ってて……」

「いえ、それも別にいいですから。とりあえず脱出したほうがいいと思います」

「あ、ああ。そうだな」

 南高の二年生は、残ったABS――全部でたった三機だけだが――を集めて、ミユキに「すまないが退却させてもらう。援軍は有り難かった」とだけ伝えて引き返していった。

 それを見送ったイツキは、自分たちはどうするのかミユキに尋ねた。

「先輩、この後どうしますか?」

「時間も時間だし、そろそろうちも退却ね」

 イツキに尋ねられ、時計を見て退却を決めたミユキは、ふと見れば呆然としている大河に「今日はもう終わりよ」と言った。


「なあ、先輩。あの――あそこらに散らばっているABSはどうなるんだ?」

「ああ、あれね……破棄だと思うわ」

「破棄? 破棄って……もしかして、捨てたままなのか?」

 大河は驚いて聞き返した。

「そう。修理できるものは持って帰ったらいいけど、それもキャリアまで運ばないといけないし。例えばあそこのABS、見るからに無残な状態だけど、あの胴体があらぬ方向にねじ曲がっているわね」

「あ、ああ。それが――」

「あれはもう『脊椎』が断裂しているわ。もうあのABSは死んでいるのよ」

「し、死んでいる? どういう……」

 衝撃的な言葉に驚いて目を見開き、大河は言葉を失った。

「ABSは様々なパーツを組み合わせて形作られているの。その中でも、そのABS個体を示すものがある。そのABSが、その個体である証ね。それが『脊椎』よ。胴体部の根幹となる部分で、これが破損すると、もう修復は不可能なの」

「不可能って――でも、その脊椎を新品に取り替えたら」

「それをすると、もはやそれは別のABS、別の個体になるわ。例えばあんたのフェンリルだけど、ジェネレーターでもブレーンでも、コアにしても何度取り替えてもフェンリルはフェンリルで変わらないわ。でも脊椎を変えると、それはもう別物、フェンリルではなくなるのよ」

「そ、そんな……」

「あんたも気をつけないさい。フェンリルがフェンリルであるのは、その胴体の中心で機体を支える『脊椎』が生きているからなのよ」

 ABSというのは、個体を登録して初めてワールドで使うことができる。その個体とは『脊椎』のこととも言える。この『脊椎』がその機体の証だった。

「こいつらのオペレーターはどうするんだ? このままABSを放置しているのか?」

「そうね。使えるパーツはあるでしょうけど、それを持ち帰る手間を考えたら、余程のものでないと難しいわ。大森のクリーガー4は高価だし、まだ部品取りに持ち帰ってもいいだろうけど、一年生の安いABSは、サルベージする費用には見合わないでしょうね。そのお金を新しいABSを買う費用にした方がいいわ」

 これはABSオペレーターの厳しい現実だった。

 ABSはデータの存在にもかかわらず、それをコピーしたり勝手にプログラムを書き換えて修復することができない。しかるべきプログラム修復を行わない限り修復はできない。

 とても厄介なことだが、ロウがそうなっている以上どうにもならない。従うしかなかった。

「大変なんだな……」

 大河は、先ほどまでの熱気は消えていた。ゲーム呼ばわりするにはあまりにも厳しい現実を目の当たりにして、いい加減な心構えでできるものではないと、改めて思い知らされた。

「今日はここまで。帰りましょ」

 もう午後六時を過ぎていて外も暗い。どちらにせよいつまでも帰らないと、そのうち教師がやってきて強制的に帰らされることになるだろう。

「明日はここから続きよ」

「え? ここからって、基地には帰らないのか?」

「ここでログアウトするわ。ほとんど消耗してないし、¥明日も来るんだから、いちいち東高の基地まで戻る必要はないでしょ」

「そんなことができたのか……」

 大河はまだわからないことが多く、こんなところでログアウトできるとは思っていなかった。ワールドは、好きな場所でログアウトできるが、次またログインすると、前にログアウトした場所からしかスタートできない。これは便利なように思うかもしれないが、補給やメンテナンスは基地に戻らないとできない。

「それじゃ、また明日」

 トーコはそう言って、ログアウトボタンをクリックした。

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