練習練習、また練習
「何だよ、先輩?」
「あんたねぇ……それじゃ当たるわけないでしょ。ちゃんとストックを肩に当てなさい。こうよ、こう」
ミユキはABSで最も基本的なライフルの構え方をして、正しい構え方のお手本を見せた。
大河と違って、前方に銃口を向け、肩にストックを当てて安定させると、頰をライフルのチークパッドに添わせてドットサイトを覗くように構えた。腰は少し落としてドッシリ構える。
しかし、その射撃体勢を見て、大河は少し不満げだ。
「でもなあ、この方がカッコいいじゃん」
それを聞いたミユキは、向かい側からディスプレイ越しに顔を覗かせると呆れた顔で言った。
「はぁ――それのどこがかっこいいのよ。幼稚ね」
「なっ、幼稚って――どうしてなんだよ!」
「SF映画なんかでは、見栄えのよさで拳銃の横撃ちとかやってるけど、それは映画の話でしょ。実際に狙って撃つには、ちゃんとした構え方で撃たないと当たるわけないわ。そもそも照準を使わずに撃って、簡単に当たるもんですか」
ミユキが、広場の向こうに見える的に向かって撃った。静かな空間を乾いた音が鳴り響き、そしてまた元の静けさに戻った。
「命中ですね、さすが先輩」
イツキはイェーガー2に望遠鏡を持たせて覗き込むと、的の真ん中に弾痕があるのを確認した。
「どう? これが基本の撃ち方よ。ちゃんと練習すれば難しくないわ」
「よっしゃ、やってやる。見てろ、俺も真ん中に――」
「待ちなさい、火縄撃ちになってるわよ!」
「火縄撃ち……ってなんだ?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返した。
「そういう撃ち方のことをいうのよ。それじゃ腕だけで支えてて、安定しないでしょ」
火縄撃ち――要するに、火縄銃の撃ち方だ。
ストックを使わず、真横に構えるようなスタイルになる。ちょうど、弓矢を構える姿にも似ている。戦国時代、日本にやってきた火縄銃はそもそもストックがないので、撃ち方もそれに応じた特殊な構えになる。しかし、それは現代の銃器にはそぐわない。
日本のロボットアニメの影響で、ライフルは片手で撃つものと勘違いしている人もいた。また、ストックが何のために装着されているか理解していない人もいる。そういった人たちのヘンテコな撃ち方を嘲笑する意味で「火縄撃ち」なる言葉ができた。
こういう撃ち方は海外でもやってしまう人もいるが、日本でこういう言葉ができてしまったために、世界中に普及してしまっている。
今ではストックどころか、ライフルの構えがちょっと「おかしい」だけで火縄撃ちだと馬鹿にする人までいる。
「難しい話だな、めんどくせえ」
「ばかなこと言ってないで、ちゃんとやりなさい。ほら、こう!」
「だぁああっ! 難しいっ!」
大河は、思わず吠えた。なかなか当たらない。ちゃんと構えても全然うまくいかない。
さっきからミユキにこっちはこう、あっちはこうと指摘されたがダメだった。三十発ほど撃ったが、かろうじて的に当てられたのは、三発だけだった。
「最初からうまくできるわけないでしょ。毎日練習すれば大丈夫。頑張りなさい」
ミユキは、とにかく練習あるのみ! と厳しく大河を指導するのであった。
それから約二時間、みっちり練習させられた。ミユキに横からガミガミ言われながら。イツキは苦笑い、トーコは外す度にクスクスと小さく笑うのであった。その度に大河の顔は真っ赤になって向きになる。
「今日はここまで。また明日ね」
「やっと……終わった」
ぐったりとした大河は、そのまま椅子の背もたれに体を預けて呻いた。
「先輩、明日も大河くんの練習ですか?」
「もちろんよ。でも明日は大河は公園で、私たちはウイルス駆除に向かうわ。市役所から連絡があったのよ。平井AP方面で出没してるらしいわ」
東高情報技術部は、このように役所などからのウイルス駆除依頼も受けている。いかに安全地帯化できているワールドでも、放置したまま時間が経てばウイルスは再び出没するようになる。
ウイルスはファクトリーから現れるが、このファクトリーは放置したままだと、雑草のようにいつの間にか自然にできてしまって、またウイルスが生み出されてワールドを荒らしていくのだ。
定期的な点検が必要だが、どこも人手不足で細かく見張ることはできないのが現状だ。各高校などでABSを運用しているクラブなどがあると、活動の一環として、こういった依頼がきて行動するのだ。
「俺もそのウイルス駆除に行きたいんだけど」
大河は側で二人の会話を聞いていて、そちらの方に興味が湧いた。しかしミユキに「あんたには、まだ無理ね」と言われ、イツキにも「ウイルスは止まっててはくれないよ」と言われ即座に拒否された。




