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アサルトライフル

 東高APからアクセスするワールドは、広めの住宅街の中にある。大きな通りが南北に通った大きな市街地だ。地震か、もしくはここで戦争でもあったのかというくらい、あちこちが崩壊し荒れた光景が広がっている。荒廃した街のワールドだ。

 ここから西に行くと大きな川が流れ、鉄筋の大きな橋がかかっているが、凄まじい瓦礫とあちこちの破壊と崩壊が橋を通行不能にしていた。

 東に向かうと、こちらは山が連なっている。樹々の覆い茂る深い森でもある。

 この山の峠には道が一本通っており、その先には大きな鉄の門で塞がれていた。これは「ゲート」といい、このゲートの先には別のワールドと繋がっている。

 ワールドは一つの大きな世界ではない。小さな……いや、小さくはないが小規模なワールドが所々にあるゲートで繋がっているのだ。

 この荒廃した住宅街の一角に東高情報技術部の基地がある。部室からアクセスすると、この基地の中に現れる。

 基地と言っても、小さな自動車整備工場のような建物だ。実際は基地と言えるほど大層なものでもない。


「あれ? 先輩、そのABS……なんか前と違わねえ?」

 大河はミユキのABSを見て、何か違和感を感じていた。あのエトワールと似た感じではあるが、全体的に様々な箇所が違うように感じた。何やら洗練されているように思えて、どうも印象が違う。

「当たり前でしょ。エトワールは部の備品だったでしょうが。これは私個人のABSよ」

 言われてみればその通りだった。あのエトワールは美品だった。

「そういや、そうだった。でも、それってなんていうABSなんだ?」

「先輩のはカガヤの『シュトラール』だね」

 イツキが、ミユキのABSについて簡単に説明した。

 JSーM5「シュトラール」。それが彼女の愛機だ。

 国内大手のABSメーカー、カガヤソフトウェア製で、随所に新しい技術が散りばめられた第三世代の高性能機だ。第四世代が出揃っている現在においては少し古い機体となるが、まだまだ民間オペレーターの間では高性能ABSの一つとして知られている。

「へぇ、そんなにいい機体なのか?」

「何せ、先輩はお金持ちのご令嬢。まさにお嬢様だからね。高いABSだって買えるのさ」

 イツキは得意げに語った。ミユキはその通り、岡山県に本社を持つ電気機器メーカー「椎名エレクトロニクス」の社長令嬢だった。

「マジ? 先輩って金持ちなの?」

 それを聞いた大河は驚いて、向かいの席にいるミユキに聞いた。

「何を馬鹿なことを言ってんの。それはいいから、さっさと準備しなさい」

 自分がお嬢様であることを自ら口にしたくないのか、話を逸らした。大河もそれほど興味があるわけでもないので、特には追求しなかった。

「へいへい……で、何すんだ? 椎名お嬢様」

 大河のからかい混じりの質問に、ミユキは無言で睨んだ。そして一呼吸置いて冷静に話し始めた。

「向こうに公園があるでしょ。あそこで射撃訓練ね。あんたは始めたばかりなんだから、基礎からみっちり習得させなきゃ」

 そう言ってミユキは、自身の操縦するシュトラールで、基地の前方にある寂れたボロボロの公園のような広場を指差した。


「僕のは、メスナーの『イェーガー2』だよ」

 イツキは、部室で隣に座る大河に、自分のABSを紹介する。

 ドイツの大手メーカー、メスナー&リュッカー社のABS「イェーガー」。非常に優秀なABSで初代登場から十年近くなり、モデルチェンジも早く最新型で五代目になる。

 イツキのものは、「2」とあるとおり二代目モデルだ。もちろん旧型で、軍などABSを運用する大きな機関では、もうすでに使用されていない。しかし実は未だに人気があり、民間向けのみ新規販売されている。イツキのは中古だが。

「ちょっと古いんだけど、扱いやすくて、とても優秀なんだ」

 イツキはABSが大好きだ。小学生の頃に初めて操縦してみて、中学生で初めて自分のABSを手に入れた。それがこのイェーガー2だ。以前から一番大好きなABSだった。

「へえ、イツキのも結構かっこいいな」

「でしょ、僕はやっぱりイェーガー2のこの辺のね、こことか――」

「無駄話してないで、さっさとライフルを用意しなさい。大河、あんたアサルトライフルは撃ったこと――は、ないか」


「へえ、これがライフルか……」

 大河はディスプレイ越しにライフルを眺めた。このライフルは、フェンリルが収められていたメモリーカードにあったものだ。

 ABS用銃器の最大手、米ウェルナー社のアサルトライフルで、もっとも多くのABSに使用されているアサルトライフルの一つであり、とても有名な銃である。

 あのメモリーカードには、ABSであるフェンリル以外にも、アサルトライフル、ショットガン、ハンドガン、グレネード、交換用の予備パーツなど、様々なものが一緒に収められていた。

 ライフルは三丁あり、そのうちの一番扱いやすいであろうものを、とりあえず使ってみることにした。

 大河は、フェンリルにあれこれポーズをとらせてみた。ABSの操作モニターは、サブウィンドウにABSがどういう状態にあるか、少し離れた所からのカメラワーク表示ができる。大河はクラムをグリグリ動かしながら、ABSもそれに応じてグリグリ動いている様を見ている。

「基本の構え方もあるけど、とりあえず色々やって見たら? ここをこうやって動かしたら、腕をこう持っていけるでしょ。それでね……」

 割とおせっかい焼きなイツキは、大河の隣からことあるごとにアレコレ口を挟んでくる。

「なるほど、そりゃいいや。じゃ、これをこうやって……」

 大河は格好いいポーズを決めてやろうと思って、いろいろといじり始めた。

 腕をいっぱいに伸ばし、片手でライフルを構えようとした。アニメのロボットでは、よくあるキメポーズみたいなやつだ。しかしフェンリルは、構えようとしても銃身がフラフラしてうまくポーズがとれない。

「結構難しいな……なんでこんなにフラフラすんだ?」

 頭を捻る大河の横から、イツキが声をかけた。

「あの、大河くん……ライフルは結構重いし、片手じゃ無理だよ」

「そうなのか? でもロボットってアニメじゃ……」

「いや、アニメじゃそうかもしれないけど……ワールド内では、そうはいかないんだ」

 ABSのパワー――腕力はジェネレーターの出力に影響する。

 ジェネレーターから出されるパワーは全身に行き渡るが、体を支えて、俊敏な行動を取れるよう出力される。残念ながらアサルトライフルを片手で軽々と構えられるほどのパワーはない。やはり基本は両手で構える必要がある。

「……クスクス。アニメって……」

 イツキの席の向こうにいる、中学生のトーコが先ほどの大河とイツキのやりとりを見て笑っていた。おとなしいようで意外と手厳しい。

「大河くんはまだこれからだし、トーコちゃん、笑っちゃ悪いよ……」

「へんっ! チューボーに笑われんのも今だけだぜ。見てろよ、ガキンチョ!」

 大河は気を取り直して、イツキやミユキがやっている構え方を真似してみた。なんかちょっと違うようだったが、まあ気にしない。なかなかいい感じだと思ったら、今度はもっと格好良く決めたくなって、いろんなポーズを試してみた。ストックを肩に乗っけて、担ぐように持ってみる。今度は、ライフルを体に対して横方向に構えてみる。さらに真横に構えてみたりもした。ちょっと満足げである。

「ちょっと待ちなさい」

 ミユキは、大河の格好つけたライフルの構え方に、待ったをかけた。

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