祭
ある日、小さな町で開かれる祭りの日。たくさんの風船が飛び交い、人々は楽しげに歩いています。
そんな中、ひとりの少年が膝を抱えて座っていました。彼の名前はケンタロウ。お祭りの賑やかさに触れながらも、少し寂しげな表情を浮かべています。
すると、そばにいた女性が優しく声をかけました。
「大丈夫? お膝痛いの?」
ケンタロウが驚いて顔を上げると、そこには女性の笑顔がありました。
「さくらさん。ぜんぜん、大丈夫だよ」
ケンタロウが答えると、さくらは手に持っていた、まだ膨らませていない風船をケンタロウに差し出しました。
「これ、君にプレゼントね。思いっきり風船を飛ばして、元気になってね」
さくらが微笑んで言いました。
ケンタロウは、風船を手に取りました。彼は風船に力いっぱい息を吹き込みます。大きく膨らませ、口を結び、空へ放り投げると、風に乗ってどんどん高く舞い上がっていきました。
見上げるケンタロウの目には、悲しみや不安が宿っていましたが、風船が上昇するにつれて、彼は自分の心が少しずつ軽くなっていくのを感じました。
その日から、ケンタロウは風船を飛ばすことが大好きになりました。風船が舞い上がるたびに、彼の心は自由な空に向かって羽ばたいていくのです。
★
出口のない書斎でキーボードを叩いていたケンタロウは、小さな窓の外を見つめます。風船を外に飛ばすこともできなければ、誰に会うこともできません。
風船の力で空飛ぶ書斎のなかで、ケンタロウは,根本的な治療にはなりえないながらも、絆創膏を書き続けていたのです。
彼の心は傷つき、根本的な治療を必要としていました。絆創膏は傷を守るものではありますが、本当の解決にはならないという思いが彼を襲っていました。
そんなある日、ケンタロウの窓の外に小さな風船が現れます。それは孤独な彼にとっての希望の光のように思えました。
――もしかしたら、自分に向かって飛ばしてくれた誰かがいるのかもしれない。
書斎のなかで絆創膏を書き続けるケンタロウは、自分の傷を守り続けてきました。しかし、それだけでは本当の解決にはならないとも感じていました。
ケンタロウは桜の木について書きました。大きな大きな、天まで届きそうな桜の木です。巨大な幹から、枝が伸び、優しい色の花が満開になりました。
そして、しばらくして、桜の花びらが舞い散る中で、風船に吊り上げられて飛んできた書斎が、枝に引っかかるのです。
枝は書斎の壁を突き破り、ケンタロウは外の光を浴びます。
桜の木の下は、薬箱のない大自然。
さあ楽しげに歩きましょう。
小さな町のお祭りは、これから始まっていくのです。




