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第77話 わんわん!

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――十一時過ぎ。

 千尋は児童医療センターの回転ドアをくぐる。右隣にはあおいがいる。いつものように手を握り、千尋の不安を紛らわせる。

 その隣には、めぐみ。千尋の腕を抱きしめて、「ちーちゃんが倒れそうになったら支えてあげるっ!」と、息巻いている。大きな胸が千尋の腕に当たる。胸の感触には慣れたが、いつ触れても不思議な感覚がする。


「千尋は病気ね。女の子の心を奪う病気」

「そーだよちーちゃん! あたしはちーちゃんが浮気症でぷんぷんなのです!」

「いや……、そんなこと言われても」


 狭山市駅にて、深紅や未来に囲まれていた千尋を指して、めぐみやあおいは怒っている。

 文化祭の準備、という理由があり深紅たちを追い払うことが出来たが、あおいたちには死活問題であった。

 

「千尋は私のものなんだから、だめだよ。そんな変な力使ったら」

「そーだよちーちゃん。ちーちゃんは、うちの子なんだから。どこにも行ったらだめ~!」

「そんなこと言われても……」

「うるさい。これ以上、女の子と仲良くなったら、監禁するから」

「え? か、監禁!?」

「そうね。首輪をつけて犬小屋に監禁」

「あ~、ちーちゃんだったらきっと似合うよ~、ネコミミもつけて……」

「犯罪じゃ……」

「いいえ。同意の上だったら犯罪にはならないわ。千尋は私に縛られるの好きだし」

「うんうん! ちーちゃんは可愛いからなにしても可愛いからオッケーだよね!」

「二人とも論理破綻じゃ……」

「じゃあ、早速、見学が終わったら首輪を買いに行きましょうか」

「うん! あ~、あたしね、ちーちゃんには水色の首輪がにあうと思うんだ~」

「僕の意思は無視……」


 一階のエントランスで受付を済ます。一万平米を誇る巨大病院は、完全予約制で常に人影は疎ら。大きな窓。ちいさな窓。多数の窓から外光が射し込む設計は、まるで美術館のよう。

 千尋たちはエレベーターで三階へ向かう。吹きぬけたフロアを覗き見る。たまゆらが浮かんで、思い出たちが昨日を追い越している。

 白昼夢だ。千尋は思う。ちいさな少年と少女が歩く風景は、フラッシュバックに似ている。


 小さなあおいは変わらずの美少女で、人形のように無表情。あおいを追いかけるのは、下を向いた千尋。恵那は千尋の手をとって、無邪気にはしゃいでいる。


 千尋たちは三階に着いた。三階は精神、神経内科のフロア。

「あら、待ってたわ、みんな」

「先生……」

「ふふふ、今日はみんなで宝探しをするんだって? 先生も混ぜて~」

「宝探しじゃないです。見学ですよ。見学」

「違うでしょ。千尋が恵那ちゃんの匂いを嗅いで、居場所を探すの」

「ちーちゃんワンちゃん? わんわん!」

「まぁでもいいんじゃないかしら。千尋くんにとってもね……、ここは思い出深い場所だと思うから」

「ちーちゃんここにいたんだってね~っ、なんかあたしだけなにも知らないノケモノみたいですっごいショックだったよ~!」

「ごめん……」

「まぁ、でもいいじゃない。奏もめぐみも千尋のことを知った。一層、絆が深くなったでしょう?」

「絆の会だけに……、ね。千尋」

「僕は絆の会じゃない」

「じゃあ、傷名の会かしら。心に傷をおった少年少女の会」

「わぁ~わかりやすくてい~ね~! あおちゃん!」

「ふふふ、私の宗教はその名前にしようかしら。どう思う? 千尋」

「え……、いや、わかんないけど」

「やっぱり千尋は、あおい様の足をひたすらに舐める会、のほうがいいかな?」

「いや、どこの変態だよ」

「え? だって千尋変態でしょ?」

「うんうん。ちーちゃんはおっぱい大好きの変態!」

「……、違います」

「だってすぐ震えちゃうし……、手を握ってないと外にもでられないし……、それって、禁断症状でしょ?」

「なんの禁断症状だよ」

「え? 女性禁断症状。千尋は女の子依存症でしょ?」

「なわけあるか」

「え~、あたしもちーちゃん依存症~? ――ぎゅううう」

「あ……、や、やめろ……ぐふ」

「にしし~っ、ちーちゃん抱きしめてないと死んじゃう病~」

「こらめぐ~?。病院では騒がな~い」

「え~っ、だってちーちゃん抱きしめてたくて……」

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