第33話 ぷるぷる……
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「ふーん。なるほど。きみたちが山吹のお客さん、と」
「はい。川澄あおいです」
「あ……、えっと僕は……」
「ん? きみは……、小学生か?」
「あ……、うぅ……」
「いいえ。高校生です。二年生です」
「あ、あぁ。そうなのか! 中々、童顔だな。きみ」
「あ……、うぅぅ」
「よく言われます。ここに来る時も子供に間違われました。ちなみに私は千尋の彼女です」
「千尋?」
「はい。名前です。優木千尋と言います。人見知りなので、知らない人相手だとこんな感じでオロオロしちゃってまともに話せないので、私が通訳します」
「う……、プルプル……、うぅ……」
「そ、そんなに震えなくても……。私そんなに恐いか?」
「ごめんなさい。千尋はこういう性格なので、気にしないでください」
「うぅ……、す……、すいません……」
職員室。新聞部の顧問。花村麗奈と話をする。麗奈は身長一七〇㎝。黒髪のポニーテール。学生時代は幅跳びの選手としてならした。がっしりとした体型。低い声。二十七歳。顔立ちは整っているが、結婚はしていない。性格は淡泊で豪快。難しいことはあまり考えない。聖愛学園に勤務して三年目。元々は他の教員と共に陸上部で顧問をしていた。が、未来に頼まれて、新聞部を担当することになった。報道や記事、小説……、文章に興味はないが、「なにもしなくていい」という未来の出した条件がよかった。
「じゃ、、まぁ部室まで案内するのでこちらへ」
「う……、ぷるぷる……」
「きみ、千尋くん? 大丈夫?」
「あ……、うぅ、だ、大丈夫です」
「へーきです。千尋はいつもこんな感じなので」
「ほ、本当に? 随分震えてるけど」
「かわいい人を見ると興奮して震えちゃうんです」
「お、おい……こら! うぅぅ……」
「千尋は性欲を抑えられない変態なので」
「へ、へぇ~。そうなんだ」
「ち、違います……!」
「きみ、そんな容姿なのにいやらしいんだな。人は見かけによらないなぁ」
「さっきもここの生徒を見て、ハァハァしてました」
「ち、違う!」
「ま、それはいいが」
「いいんですか!」
「しかし……、きみは声も、子供みたいだなぁ。声変わりしてるのかい?」
「し……、してます……、うぅ! けど……、でも……ゴニョニョ……」
「そういう子もいるんだなぁ。うちの制服着て化粧でもしたら、女子高生でもいけそうだな」
「千尋は女装も好きです」
「す、好きじゃない!」
「おお。そうなのか。いやいや……、なかなか……、これはいい素材……ブツブツ……」
「なに考えてるんですか。花村先生」
「いや……、私もね、普段、女とばかり接しているからねぇ、ちょっとばかり男性が苦手でね。男性のする女装っていうのに興味を持ち始めてね……」
「いや、赤裸々になにを話してるんですか」
「きみなら上手くいきそうだな、と」
「千尋はきっと女装も好きです」
「好きじゃない!」
花村麗奈は、いたって普通の女性である。ショタコンでも変態でもない。が、女子校に勤務して三年。男性との出会いがなく、性的嗜好が変化してきた。女性ばかりの日常。女性に興味を持つのは自然だった。性的な関心。同性愛に傾倒しかけたこともある。が、発展せずに終わった。だが、女性の美しさへ執着を持つようになった。男性を性的な対象として見られない。男性は汚い。だが、キレイで美しい男性。女装した男性に快感を感じる。
交際相手は居ないが、ネット上で趣味を共有するサークルに加入している。
千尋は格好のターゲットだ。男だが、子供のように中性的。なにを着させても、化粧させても、よく似合うことはすぐに分かった。
「うーん、よかったら、スカート、履いてみる? 倉庫にあるから」
「いんですか? わー、よかったね~! 千尋。JKコスプレさせてくれるって~」
「いや……ぷるぷる……、よ、よく……、うぅ……、な、……い」
「嬉しいそうです」
「お~、そうか~。じゃあ、後で持ってきてあげるからな」
「う……、うぅぅ……、な、なんで……」
千尋の震えは治まらない。足がガクガク。体が左右に揺れる。落ちつきがない。昏倒しそうだ。あおいが側にいなければ、今にも失神している状態である。
クラス棟から渡り廊下を通り、部室棟へ向かう。広い敷地。一〇分ほど歩き、麗奈は止まる。
「ほら、着いたぞ」
新聞部。と書かれた教室の前に着く。ドアを開けると、所狭しと置かれた本棚が目に入る。八段はある大きな本棚。中はファイルや本でぎゅうぎゅうだ。中央には大きなデスク。イスが三つ。パソコンが三つ。デスクトップとノートPC。書類は丁寧にまとめられて、脇に置かれている。
西日が射し込んでいる。イスに座って眠りこけている少女。オレンジの髪が光って綺麗。山吹未来。千尋たちを「取材」と称し、ここに呼んだ張本人である。
「おいっ! 山吹~。お客さんが来たぞ~。なに寝てるんだ~?」
「むにゃ……、ん? せんせい~? お客……、さん?」
未来は眠い目を擦りながら起きあがる。昼寝でもしていたのか。僕らを呼んだくせに。背が小さいから舐められてる? 童顔だから、適当に対応してもいいと思ってる? と千尋は思うが、口には出さない。それどころではないからだ。
「あ~、千尋さん~、お待ちしてました~」
「あ……、うぅ……、ぷるぷる……」
「ぎゅううってしてもいいですか~?」
「だめ。千尋は私のものなので」
「え~? いいじゃないですか~? スキンシップですよ~?」
「だめです。ぎゅうは許可制です」
「千尋さんは誰のものでもないです~。みんなのものですよ~?」
「いいえ。私のものです」
「あ、スカート持ってくるな。待ってろ」
「……、うぅぅぅ……、ぷるぷる……」




