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第19話 小江戸川越

19


 埼玉県川越市。埼玉県南西部に位置する人口三十二万人の巨大都市。東上線、埼京線、西武線が乗り入れる。かつては川越藩の城下町として栄え、「小江戸」と呼ばれた。空襲を逃れたため、歴史的建造物が数多く残る。その数は関東では神奈川県鎌倉市、栃木県日光市に次ぐ。

 近年では観光都市として有名だ。蔵造りの街並みが残る一番街、関東随一の交通量を誇るクレアモール商店街、恋人と鳴らすと未来永劫の愛で結ばれる時の鐘、菓子店が並ぶ菓子屋横丁など……。

 海外からの観光客も多い。雑誌やHPで紹介され、人に溢れる。

 小江戸川越。

 

 池袋から所沢で新宿線に乗りかえ、終点、本川越へ着いた千尋たち。

 あおいとは途中、新井薬師駅で別れた。あおいは中野区に住んでいる。

 

 本川越で降りためぐみとあおいは西武バスに乗る。本川越発かすみ野行。

 時刻は午後三時過ぎ。駅前のロータリーは人が多いが車内は空いている。

 川越県立児童医療センターは、市街から少し離れたところにある。

 畑が広がる川越の田舎。

 車内、真ん中の席に二人は並んで座る。

「ちーちゃんもあたしも障害者だから、優先席に座ってもいーかな?」

「いや、手帳は持ってないし……」

「でも、メンヘラ社会不適合者だから、いーじゃない?」

「かなぁ」

 

 優先席の定義に千尋は悩む。一般的には年寄りや障害がある人。妊婦等が優先される。それは、長時間立つのが大変だったり、体によくないからだ。

 めぐみは薬物依存の後遺症で自律神経がおかしい。何でもないところでよく転ぶ。真っ直ぐに走れなかったり、呂律が回らなかったり。記憶もよく飛ぶ。認知症のような症状がでている。

 千尋は、パニック発作が起きる。長時間、人と同じ空間に居たり、密室にいると、動悸がする。呼吸が荒くなり、発熱する。視界が暗くなり、昏倒する。電車やバス、教室……、狭いところは家を思い出す。犬用の檻。千尋が監禁されたしつけ部屋だ。


 自分たちは、長時間立つのが苦手だ。困難ではないが、座っていることは望ましい。であるなら、僕らも優先席に座ってもいいのではないか、と思う。しかし、普通席に座ったまま、動かない。あえて人目につくような行動をしたら、余計に、不安定になる。視線は恐い。見られている、という意識が発作に繋がるのだ。


 考えると吐き気がした。呼吸が荒くなる。

「だいじょうぶ?」

 めぐみはそっと千尋の手を握る。めぐみはカウンセリングする予定はない。診察は別日だ。しかし、千尋のことを心配し、着いてきた。一歳とはいえ年上。ひきこもりの千尋と違い、社会経験は豊富だ。夜の世界。多くの人と出会い、色んな場所へ行った。外出は得意。どこへでも行ける。知らない街で、知らない人と仲良くなるのも得意。めぐみは社交的。そんな自分の長所を誇りに思っていた。

「ねえねえがちゃんと一緒にいたげるからね。がんばって」

「うん……」

「よしよし」

「ありが……、とう」

 

 めぐみは、人の役に立ちたい。自分は、非行少女。まっとうな育ちかたをしていない。けれど、救われた。琴音や千尋たちと出会い、変わった。

 二年前、あの日、ゴミ捨て場で琴音と出会った時、めぐみはボロボロだった。脳は妄想でいっぱい。体は薬物に汚染されていた。禁断症状で体が震える。真っ直ぐ歩けず、冷や汗が止まらない。悪寒がする。恐い。精神も不安定だった。

 琴音に紹介され、薬物の更生施設へ行った。めぐみはなにも持っていなかった。お金もない。友達も失った。家族もいない。薬中になっためぐみは仲間グループからも見捨てられた。

 自暴自棄になり、絶望。死を覚悟したこともある。けれど、三ヶ月の施設暮らしの後、琴音の家に来た。当時は、あの入間川の自宅ではなく、高層マンションの一室。

 そこで琴音と暮らすうち、めぐみはせんせーを母のように慕うようになった。

 やがて、あおいを紹介され、引っ越しをし、千尋が来て、奏とも出逢った。

 自分もせんせーのようになりたい。

 めぐみは夢を持っている。

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