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習作あるいは劇場  作者: じじ
12/12

閉幕





朝の市場にて、女たちが集まって噂話をしている。


「あの場所、出るんですってよ」


「それってあの古い劇場跡のこと? 」


痩せた女が声を潜める。


「出るって幽霊でも出るっていうの?」


恰幅の良い女が尋ねた。


「そうよ。時々灯が見えたり、笑い声が聞こえるんですって」


「あんたのとこにいたあの人、あそこで見つかったんでしょ? 冷たくなってさ」


 最初に口を開いた女が言う。


「おお怖い。呪われたりなんかしたら嫌だわ。あんたも近づかない方がいいよ」


「私が呪われる理由なんてありゃしませんよ。無理に追い出したわけじゃないんですから。あの人が勝手に出ていったのよ。それに、笑い声ですって? じゃあ、あの人ではないですよ。だってあの人ったら、ずっとしかめっ面で、文句ばかり。笑ったところなんて見たことないんですから。もし、ホントに幽霊が出るっていうんなら、きっと別人ですよ。それとも、死んだ方が楽しいなんてことがありますか? 」




 … …




 私の言うことは皆、妄言。都合の良い妄想です。物語なんて全部嘘っぱちだ。私が心底軽蔑する奴らと何も変わらない。誰の心にも響かない。残らない。だって己の心すら動かせないんだから!

 それでも、必死になって身振り手振りし言葉を吐き続けて、いったい誰に何を訴えているのか?

 天に住まう全知全能の何者かに?

 俺の生涯はお前にとって取るに足りないものだろうが、決して無駄ではなかったぞ、無価値などではなかったぞと、そいつに訴えたいのか……いや、きっとそれを訴えたいのは他ならぬ自分自身。灯が消えるまでの束の間を無に等しいなんて認めたくないのです。舞台を下りればただの影法師にすぎないと認めたくないのです。

 さぁ、彼の舞台もこれまでです。また新たな者がここに立ち、誰も知らない物語を語るでしょう。

 彼が見たものは、夢か幻か、奇跡か魔法か、それはあなた方にお任せすることに致しましょう。





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