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第二章19話 『たった2人の殲滅戦』

 大通りから混乱の叫び声と衝突の音、魔物の熱が街を壊し鮮血と瓦礫で大通りが埋まっていく様を、無力な夕暮れが赤く照らす。気付かれないように廃墟へ向かうその途中、変わり行く街の光景を眼に焼きつけていく。


「大丈夫。向こうは向こうでアシュレイが上手くやってる」


 その光景で立ち止まった私の背中を、セレンが隣から押していく。今大通りに出向いても、私が魔物を全て倒せる腕を持っている訳じゃない。だから、今は信じるしかない。


「あそこから一番近くで、人のいない廃墟はここよ」

「……少し遠い」


 その廃墟は3階建てで、かつて人が住んでいたであろう建物。だが、既に3階部分は階段を残して風化しており、2階部分も風化で所々欠けているボロボロな状態。そして魔物を発生させている装置からの距離は、大体30メートルぐらいか。決して近くない距離だが、この廃墟と装置の間には崩れ切った瓦礫しかない。これなら、


「でも、多分届く」

「多分なのね……。私は2階で準備をするから、それが終わったら土台を渡した剣で切って頂戴」

「準備? 詠唱なら狙われるんじゃ?」

「普通ならね。でも、あそこに魔力があるなら、秘密兵器が使える」


 そう言い残して階段を上がろうとするセレン。ただ、流石に雑な説明が過ぎるので少し呼び止める。


「あの、投げ飛ばした後に助けとかいる?」

「あー……全く考えて無かった」

「嘘でしょ……どうするの?」

「ベルが建物投げ飛ばした後、私を助けに飛ぶとか」


 また1つ無茶が追加された。それに、空中にいるセレンを助けられるぐらいの勢いで飛んだら、


「それ、飛ぶ勢いでセレンが死なない?」

「そこは上手く足場を作るわよ」

「そんな事可能なの?」

「出来るわ。でも、ベルが思った場所に足場を作らないといけないから……息を合わせないと」


 軽く言ってくれるが、要するに――私が助けないとセレンはそのまま落下して死ぬという事だ。私を信頼してくれる事は嬉しいし、私も今ならセレンを信頼出来る。だけど、


「何でそんな簡単に命を私に渡すの」

「え? それは簡単よ。あんたを信じてるから」

「……軽く信じるとか言わない方が良いんじゃないの? 騙されるよ?」

「お人好しが移ったのかもね」


 セレンの決心は固い――なら、もう信じるしかなさそうだ。



「秘密兵器の準備は?」

「もう終わったわよ。始めて頂戴」


 作戦の準備が整い、セレンから貸してもらった大剣を握りしめる。まずは作戦の第一段階、ここが出来なきゃ始まらない。

 剣を鞘から抜き、イメージを固めていく。柱は石で中に補強用の金属も入っている。柱は12本程あったが、風化で崩れているのを除外すると、切るべきは5本。


『――君は全身を1つに纏める動きが出来ていないんだよ』


 アシュレイから言われた助言。これを実現させなければ、これから先でも苦戦を強いられる。逆に、この柱を断ち切る事1つに全力を注げば、何か掴めるかもしれない。これは一種の賭けだ。

 気持ちを静め、感覚を剣に集めていく。腕も、肩も、足も、全てを――込める!


「ダメだった……」


 手から離れる大剣と、強く高鳴る金属音。痺れた手の先にあったのは、少し切れただけの柱だった。


「ベル! もう1回!」


 セレンの後ろ声と共に再度構え、同じように全てを込めて振る。が、結果は同じ――、


「何で……切れないの」

「ベル! 諦めないで。もう1度だけ」


 後ろから轟く雷鳴。その音で振り返ると、魔物は既に私達に気付き――それをセレンが止めていた。魔術を使えば、魔物は更に寄ってくる。それを承知の上で、私に全てを託して止め続けている。

 そして、セレンの苦しそうな表情からもう猶予は残されていない事も悟る。別行動を取っていた時も、ここまで来た時も戦闘続きで、セレンの魔力はもう残り少ない……次で切らないとセレンの魔力が切れて、失敗に終わる。

 集中しろ。今までよりも、もっと――


『本来の君なら、基礎も出来て――』


 いや、違う。アシュレイは集中しろとは一言も喋ってない。ジェフも、あの速度を出す為にここまで集中していた訳じゃない。()()の動き、それを1つ1つを完璧にこなせばきっと、切れる。

 まずは一歩踏み込み、体重を前に落としこむ。同時に剣を横に構え、後ろへ腕を引く。一歩目を踏み込んだら、更に前へ姿勢を落とし、二歩目を前に出す。最後に二歩目の足を軸に全ての体重を乗せ、全身の力を横へ乗せて腕を振るう。

 この時だけは、少し重く感じた大剣の感覚が腕から消えていた。


「ベル! ちょ――!」


 瞬間巻き上がる風圧と衝撃。周囲の小物は剣圧で吹き飛ばされ、振るった剣は勢いが付きすぎて一回転を起こした。それが却って柱を5本全て切り、建物は支えを失って崩れ始める。


「もう一度!」


 傾き始めた廃墟へ触れながら、さっき切ったあの感覚を呼び起こす。今度は廃墟を投げ飛ばすように。ズレて落ち始めた建物の感覚を手に覚えつつ、その勢いと共に足を曲げて、腕だけでほんの少し廃墟の崩れる勢いを殺す。そして、下に掛かる負荷が少し無くなった所で全ての力を一気に開放、勢いで上に撃ちこむ。

 掌底を撃ち込んだ建物には掌状の穴が残されているが、それでも余波で装置の位置に瓦礫として飛んでいく。


「よし! 次は」

『――私の番!』


 飛ばされている瓦礫の中に視える魔力の奔流。それは()()()()()()()()()()を巻き込み、一つの紋様を描いていく。だが、ここまでは予想できた部分。これじゃまだ火力が足りない。


『ベル! 見とれてないで私を助ける準備!』

「火力はまだ足りないけど!?」

『こっから、火力を足すの!』


 弾かれた瓦礫が、装置の魔力に反応して紋様を展開。そして、セレンの出した紋様と繋がり1つの巨大な紋様が組みあがっていく。これは――、


『目には目を、歯には歯を、スクロールにはスクロール!』


 装置全体を覆う紋様。そこを通った瓦礫が魔力を帯び、魔物へ降っていく。その中を全力で走りながら、既に鞘へ収めた大剣を最初の足場として飛ぶ。セレンが私のいた屋上へ飛んだ時と同じ動き、それなら息を合わせやすいはず。


『その動きなら!』


 私の意図に気付いたセレンも、あの動きの通りに足場を作り上げる。下には既に落ちてきた瓦礫で潰された魔物が、熱を噴出させ始めていた。そして、その熱から飛び出してくる多数の球体――


「あれは、不味いんじゃ」

『ベル! 私を信じて!』

「――ちゃんと止めてよ! セレン!」


 セレンの言葉を信じて、飛んでくる球体を全て無視。背中から聞こえる風を切る音、おそらく私を狙った球体の牙。その音に向かって魔力の纏った瓦礫が私の後方へ飛んでいき、背後から熱風を感じる。


「ベル! あれは流石に避けて!」


 既に下は熱源と化し、装置ごと溶け始めていた。その中から生き残った二足歩行の魔物が、胸部の口を開いて周りの熱を吸収し始める。素人目で見ても、流石にあれはヤバい。


「ベル! 下!」


 直前で足場を下に渡され、意図を理解。放たれる直前までほんの少し待ち、あの魔物が放つであろう熱のタイミングをずらす。放たれた熱光線と同時に下へ飛び攻撃を避けるが、あまりに強い温度は周りを溶かし、威力の強さが伺える。


「そのまま上!」

「了解!」


 下に飛んでセレンと合流。両腕でセレンを抱えながら、今度は全力で上に飛ぶ。浮き上がった身体は急速に熱源から離れ、近場の建物まで一直線だ――。


「ちょ、ベル! 勢いが強い!」

「ちょっと我慢して」


 私の胸元にある布を必死で握りながら、身体に掛かる風圧に耐えるセレン。近場の建物まで登り切った時には、装置がある一帯は熱で真っ赤に染まっていた。それでもまだ生き残りの魔物がいるようで、両腕に抱えられたままのセレンがトドメの一撃を巨大な紋様から放つ。

 轟音と共に巨大な光が一帯に降り注ぐ。残された魔物も雷鳴に撃たれ、熱と共に弾け飛んでいく。その様を視ながら、一旦の目的達成に2人で安堵の表情を浮かべていた。

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