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影裏案件 -凍り鬼―  作者: greed green/見鳥望
二章 死人の手
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「で、御神さん」

「ん?」

「もう帰っていいすか?」

「駄目」

「さっきから無駄に時間が過ぎてるだけなんですけど」

「君は何もしてないから無駄なだけだ」

「何もって、何したらいいか分からないし」

「何をしたらいいか考えはしたのかい?」

「何を考えてもいいか分からないです」

「ゆとってるねー。自分で少しは考えなきゃ」

「いやこんなの考えても分かんないですし。残業代つくならいいですけど」

「ちゃんと申請しといてくれればそこは安心してくれていい」

「あざっす」

「給料泥棒」

「何をー!?」


 私はいまだこの部屋から出られずにいる。御神さんからは手伝えと言われたが、何も指示はなく、御神さんはずっといくつもの資料を並べて読みふけっているだけだ。


 ――何をどう考えろってのよ。


 資料に書かれていた事件内容はこうだ。

 この一ヵ月の間で二人の人間が死亡している。一人は次沢兼人つぎさわかねと。もう一人は内原直樹うちはらなおき。ここまでは普通の内容だ、というのは死んだ人間に対して失礼だが問題は二人の死に方だ。


 一人目の次沢兼人。

 いつものように夜のジョギングをしていた男性が、ベンチに座っている次沢を発見。不審に思って声を掛けたが反応がなく、様子がおかしいと思った所で警察に通報。駆け付けた警察が確認した次沢の状態はベンチにぼーっと腰掛けた姿勢で、それだけ見れば生きているようにも見えたが既に脈はなく死亡が確認された。


 二人目の内原直樹については、夜道を歩いていた女性が電信柱に不自然に寄りかか

って立っている内原を見つけ通報。こちらも同じく既に絶命している状態だった。

 

 二つの不審死。不自然な死体には共通点があった。二人とも窒息死だった。

 

 一人は静かに座りながら、もう一人は立ちながらその場で窒息死。首を絞められたり争った形跡も一切なし。事件なのか事故なのかも分からない死。だがいずれにしても説明がつかない。二人ともあり得ない死に方だ。


 読み終えてみれば、まさにこれは影裏案件と言わざるを得ない内容だった。

 必ず死には理由があるはずだが、少なくとも二人の死は数多の事件を解決に導いてきた通常の警察の力を持ってしても解明出来ないと一度は判断されたのだ。

 そんなものに対してこんなペーペーの新人刑事に考えろと言われても無理がある。そもそも超常的なものなど出会った事もなければ信じても来なかった自分に、急に糸口を見つけろと言われても分かるわけがない。


 ――あー、帰りてぇ。


 せっかくの時間が無駄になっていく。残業代が出るにしても、家に帰ってごろごろ出来た時間が台無しだ。苛立ちが貧乏ゆすりとなってかたかたと膝が揺れた。

 そんなふうに膝を揺らし時間を浪費していたが、やがてパタンと御神さんは開いていたファイルを閉じた。


「さて、どうしたものか」


 御神さんは言いながらもさして困った顔をするわけでもなく椅子にもたれかかった。


「御神さん、私いつ帰れます?」

「ん? なんだまだいたの?」

「はぁー!?」

「うそうそ。でも今日はもう帰っていいよ」

「あ、そっすか」

「明日は行くところがあるから君も退屈しないよ」

「へ?」

「僕から上には伝えておく。君は期間限定で影裏として動いてもらうよ」

「え、いや、そんな急にそんな事言われても!」

「急に決めたんだから仕方がないね」

「うわぁ……」

「まあまあ、どうせお茶を汲んだり書類片づけたりぐらいしかしてないでしょ? それよりは退屈しないよ」

「え、何でそれを?」

「新人なんてそんなもんさ」

「まあそうですけど……」


 別に私は刺激なんて欲しくない。楽にお金がもらえて定時に帰りたいだけなのだ。これはいよいよ面倒な事になってきた。


「とりあえず、明日もここに来て。九時にはここを出るからそれまでに来るように」


 もう私は何も言わなかった。

 言っても無駄だ。もう知らん。なるようになれ。


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