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花眼鏡  作者: さとあき
2/2

 夕暮れの柔らかな光が差し込んで、ブランコに漂い乗っている僕達の影を長くした。

 

 昔は馬鹿みたいに高くブランコを漕いでいた。

 

 横に乗った奴よりも高く、もっと高くと漕いで空を見上げた。


「よし、日も暮れてきたしそろそろ帰らないと花のママが心配するよ」

「待って。今家でママとパパが喧嘩してるの」

 

 花は不安な顔をしてブランコから立ち上がった。花のちいさな顔が見る見るうちに沈んでいくのが見て取れた。


「そっか子供も大変だ。じゃあ、この鼻メガネを花にプレゼントするよ。これを掛けて花がママとパパが喧嘩している間に立って、喧嘩はやめましょうって言えば不思議と解決するんだ」

「いらない」

 

 プイと顔をそむけた花はどこか寂しそうな目をした。


「いいからいいから。ママとパパも鼻メガネを掛けた花を見れば喧嘩なんかしてるのが馬鹿らしくなるはずだって」

 

 僕はブランコから立ち上がり自分の顔から鼻メガネを外して花に手渡した。


 しかし、花は鼻メガネを掛けようとはせずただちいさな手で受け取っただけだった。


 僕は鼻メガネを掛けたマヌケな雰囲気が好きだったのでとても落胆して、僕ら二人は互いに落ち込んで会話すら失ってしまい、雪が少しだけ積もっている公園を見渡してから大きな溜息を吐いた。

 

 今から家に帰り明日から一週間、あの息が詰まるような暗い部屋での停学生活が待っているのだと思うと、花と話すことで和らいできた気持ちがまた暗くなってきてしまった。

 

 そんな僕をいつの間にか花が下から覗き込んで、素顔を晒した僕の目を見て、「目が真っ赤だよ?」と言ってきたので、僕は鼻メガネを外した顔を見られていることに気づいてすごく恥ずかしくなった。


 僕は咄嗟に花から背を向け一歩公園の出口の方に足を向けた。すると「帰るの?」と言う花の声を背中で聞いた。僕はうんとだけ頷いて公園の出入り口を目指した。

 

 ガラスの割れていく音が耳から離れなくて。僕が馬鹿みたいな鼻メガネを掛けて自分だけの世界に浸っていてもそれを外してしまえば今日一日の不満を溜め込んだような窮屈な顔を晒してしまい、花に笑顔のひとつみせられない。感情が暗いところに閉じこもってしまいそうになっていた。


 そんな弱弱しい鼻メガネを掛けていない僕でもやっぱり花にさよならも言わずに去るのは心苦しくて、歩幅を緩めて公園の出入り口の手前で立ち止まった。


「ありがとう、花。花のママとパパが早く仲直りするといいね。それにやっぱり鼻メガネを掛けた姿をママとパパに見せたらさ、きっと花が嬉しくなるような笑顔をみせてくれると思うんだ」と言いながら後ろを振り返った。

 

 すると僕たちが先程まで乗っていた青色のブランコの前で、僕がプレゼントしたばかりの鼻メガネを顔に掛けた花が夕暮れの茜色の光のなかでぽつりと立っているのが見えた。

 

 花のちいさな顔に大きな鼻と人工的な髭が物凄く不釣合だった。

 

 鼻メガネを掛けた花は僕が振り向いたことに気づくと手を高く振って、ずっとずっと手を振っていて、僕は花の鼻メガネ姿のシュールさに少し微笑んだあとに、目頭が熱くなってしまい自分でもなんだかよくわからない泣き顔をして花の立っているブランコのある場所まで歩いた。


「ごめんね、花。家まで送っていくよ。僕も最近辛いことばかりが起こったんだ」

「うん」という花の声が冬の公園いっぱいに響いた。

「でも、その鼻メガネすごく似合ってるよ!」

 

 僕の声も冬の静かな公園いっぱいに響いたけれど、その後に花が「えーやだー!」と口を尖らせて笑った声が一番公園に響いた。



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