花眼鏡
「お兄さんのメガネ変だね」
花柄のパーカーを着て目がクリクリとした可愛らしい少女が言った。
僕の目の前に花柄の少女が現れる一時間前。
僕の心は荒れ果て、暗い部屋で殺人事件の現場が映ったテレビ番組を観ていた。
目を細めて薄暗い部屋の鏡に映る自分の顔を見ると、美容師に髪の色を抜かれすぎた不健康な男が映っていた。
テレビ中継がされるほどの事件が発生する動機や過程は。僕が学校のグラウンドに転がっていたボールを何も考えずに蹴り上げて真冬の青の中に吸い込まれたボールが教室の窓ガラスを割るのに動機なんてなかった。
僕は唇を震わせ顔を曇らせ気がつけば停学させられていた。
僕は適当に部屋に転がっている服を着てから部屋のカーテンを開け、夕日の明かりを部屋の隅々まで入れてから公園まで歩いて、四つ並んだうちの青色のブランコに座ったのだった。
夕暮れの公園は凍えるような寒さが和らいで心地よい風が吹き、ひからびた金色の髪を優しく撫ぜていった。
ブランコに寂しそうに座っている僕だけが公園にいると思っていたのだけど、少女はさっきから一緒にいたかのように僕の目の前に立っていた。
「これかな」
僕は少女に変だと言われた自分の目の辺りを指差した。
その場所には黒縁のメガネに大きな鼻と髭の生えた鼻メガネが掛けられていた。
「うん。変なの」
「そうだ変だ。でも、大人になると鼻メガネを掛けたくなるときがあるんだよ」
僕は鼻メガネに生えた人工的な髭をモシャリと撫ぜた。
花柄の少女は薄く笑うと僕の隣のブランコに腰を下ろした。
「ないよ。家のママやパパはそんな変なの掛けないもん」
「知らないだけさ。きっと君のママとパパもマイハナメガネを持っているよ。君も大人になる手前ぐらいに鼻メガネをプレゼントされると思うぜ。君の名前は?」
「花」
「花つながりじゃん」
僕は自分の掛けた鼻メガネを指差してみせると、花は露骨に嫌な顔をして、「変なのー」と口を尖らせた。




