第七話 猪を狩れ!
初めての依頼です。
第七話 猪を狩れ!
リンドンから王都ルミウスまで続くアーク街道を僕らは地図を片手に歩いていた。
街道を荒らす角猪と言う魔物を倒すためだ。
「リーナさんに貰った地図だとこのあたりに良く出没する見たいです」
地図に書かれた×印の場所に到着したところで僕は足を止めた。辺りは一面の草原でリンドンの街が小さく見える。
「結構歩いたな。角猪が出るまで一休みしようか」
スフィアは座り込むと、リュックから水筒を出した。ちなみに水筒やリュックなどは金塊を博士にわけて貰ったときに、ついでに貸してもらったものだ。
「角猪が良く出没するのは夕方らしいですから、もうそろそろ出てくるはずですね」
太陽はすでにかなり傾いていた。夕方と言って良い時間だろう。
「あれかな?」
スフィアが草原の向こうから迫ってくる影に気づいた。僕はスフィアが指差す方を向く。茶色で角の生えた猪の姿がいくつか見えた。あれが角猪だろう。実に名前どおりのわかりやすい姿だ。
「奴らは基本的に突進しかしない。だがその威力はすごいぞ! 油断するな!」
スフィアは僕に注意をすると角猪の群れに切りかかっていった。スフィアは猪の突進を舞うようにかわし、体の横に素早く切り付ける。角猪は血しぶきを上げて倒れる。そうして角猪の数はみるみる減っていった。僕も負けてはいられない。
僕も角猪に戦いを挑んだ。速い突進が僕に向かってくる。僕はぎりぎりでかわすとスフィアと同じように切り付ける。角猪の体から血が噴き出した。角猪の体は慣性にしたがい勢い良く地面に突っ込む。
一頭倒した。余韻に浸る暇もなく、別の角猪が向かって来た。僕はさきほどと同じように、いや、ほんの少し手際よく倒した。
スフィアは僕が二頭倒しているうちに他の角猪をすべて倒していた。素晴らしく強い。強すぎる。スフィアをこれからは怒らせないようにしよう。
その後僕は角猪の死骸に手を合わせた。僕なりのけじめだ。
「故郷の宗教なのか?」
角猪の角を剥ぎ取っていたスフィアが死骸に手を合わせている僕を奇妙な顔で見る。
「そんなところかな。一応お祈りしておきたかったから」
僕はこう言うと角を剥ぎ取る。角を組合に持って行って初めて依頼達成と見なされるのである。
剥ぎ取りを終えるころには辺りはすっかり日が沈んで暗くなっていた。遅くならないうちに街へ急いで帰った方が良いだろう。
僕らは戦いで疲れた体にあと少しだけ頑張ってもらうことにした。
「地面が揺れている……」
帰り道でスフィアがつぶやいた。地面が揺れている? 僕は目を閉じて感覚を研ぎ澄ました。小刻みに震えるように地面が揺れている。揺れはだんだんと近づいてきていた。何か、巨大な何かが近づいている! 僕は悪いことが起きそうだと直感した。
「大角猪だ! どうしてこんな街の近くに!」
スフィアは青ざめた顔をして喉が張り裂けそうなほど叫ぶ。僕には夜の闇で何も見えない。スフィアが呪文らしき言葉を紡ぐ。急に辺りが見えるようになった。辺りを見回すと、なんとトラックぐらいの大きな猪が巨体に似合わぬ速度でこちらに迫って来ていた! まだかなり距離があるが追いつかれるのももうすぐだろう。
「白河、あいつには剣が効かない! しかも知恵もある。さっきの奴らがただ大きくなっただけではないぞ!」
説明してくれた後でスフィアは、期待を込めたような目でこっちを見てくる。
なんでだろう
「さあ、白河。今まで出し惜しみしていた魔法を使う時だぞ!」
どうしてそうなるんだ! 僕は魔法なんて使えません!
「あのね、僕は魔法使えません!」
スフィアはなぜか爆笑した。
「またまたー。もったいぶって。使えるんだろう? 魔法で大角猪を格好良く倒してくれ」
「だ・か・ら使えません! 本当の本当に使えません!」
スフィアは笑うのをやめて僕の顔を覗いてきた。
「う、嘘だよな。あんなに魔力あるんだから使え無いなんてありえないよな」
「僕は異世界から来たって知っているでしょうに。向こうじゃあ魔法なんて無いんです!」
スフィアはまた余裕のある表情に戻った。
「魔法がないならどうやって生活するんだ。ありえないだろ。やっぱり嘘だったのか」
「あなたはどっかの貴族ですか! とにかく僕は魔法を使えないんです!」
僕は何年ぶりかと思ったほどの大声を出した。
僕のあまりの剣幕にスフィアは僕の言っていることがようやく本当だと理解した。
「ま、まずいぞ。白河の魔法が無いと大角猪は倒せない! 逃げるぞ!」
僕らは慌てて逃げ出した。大角猪はすぐ後ろまで迫って来ていた。
大角猪は大地が揺らぐような咆哮を上げて、僕らに突進して来た!
「大丈夫か!」
「なんとか!」
僕は突進をなんとか回避した。スフィアが僕の様子を確認してくる。
大角猪はしばらく進んだところでくるりと反転し、僕らの行く先を壁のように塞いでしまう。
「どうする?」
「どうするって言われても……」
どうすることも僕にはできない。僕らは大ピンチに陥ってしまった!
感想・評価お願いします!