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第三十五話 渦巻く陰謀

今回は悪役サイドの話です。

第三十五話 渦巻く陰謀


何処とも知れぬ山の中、あらゆるものが凍りつく場所。吹き荒れる吹雪の中、巨大な要塞が佇んでいた。その要塞は山にそうようにして建られていて、高い壁と搭がそびえている。そのいずれも黒くて滑らかな石のような材質で、かなり年月を経ているようだが、傷一つとしてついていない。

 その要塞の地下深いところに一人の女がいた。女のいる地下室はほの暗く、中央に水槽がある。水槽には人型の機械が入っていた。西洋甲冑のような形をしたその機械からはコードが無数に伸び、胸部に緑色のクリスタルが嵌めこまれている。クリスタルは怪しく揺らめく光を放っていた。その微かな明かりを女は恍惚とした表情で見ている。長く艶やかな紫の髪を横に流し、潤んだ赤い瞳は穏やかに水槽を見つめる。


「ほぅ……。後少しだわ……」


すうっとしたの良い唇から吐息が漏れる。官能的なそれは聞くものを魅了する魔力があった。

空気が漏れるような音がした。さらに暗い室内に光が差し込む。女がけだるそうな動きで扉の方を見ると三人の男が立っていた。それぞれ黒い学生服のような軍服とマントを着用している。


「失礼いたします、ドクターソノラ様。緊急事態が発生しましたのでご報告に参りました」


 真ん中に立っていた男が恐縮したように話す。女は苛立たしげに髪をかきあげた。


「報告? なんなのそれは。早く言いなさい」


ソノラは良く通る高い声で言う。その声には機嫌の悪さがありありと表れていた。男は小さくなりながら報告をする。


「無の精霊の回収に向かっていた第七小隊が壊滅しました」


ソノラの目が細まった。そしてその鋭い眼差しで男を睨みつける。


「全滅ですって? 原因は?」


「無の精霊を発見した際にその仲間と思われる三人と無の精霊の合わせて四人と交戦。その結果敗北し全滅しました」


ソノラの瞳の色が変わった。赤い瞳が金色に染まる。その髪はにわかに逆立ち、黒紫色の稲妻がスパークした。


「負けた? 十分な戦力は与えてあるはずだけど」


「は、それが敵の戦力が想定外なほど高くてですね……」


 男は言葉に詰まった。さらに男は顔色を悪くする。それをソノラは見逃さなかった。


「言い訳は良い。見苦しいわ」


男の身体が宙に浮かび上がった。男は衿元を苦しげにつかみ、足をばたつかせる。顔から血の気が引いていき、身体の動きも緩慢になっていった。


「もう良い」


男の身体が解放された。男は床に向かって盛大に尻餅をつく。脇にいた男たちがすぐに彼に駆け寄った。


「ワグナ、アルカデが出来てから何年になる?」


「はぁはぁ、今年で十五年になります」


ワグナと呼ばれた男は部下に支えられながらもすぐに答えた。息は切れ、顔面蒼白としている。


「そうだワグナ。正確には十五年と二ヶ月と三日だ。これが何を意味するかわかるか?」


 ソノラは子供に問い掛けるような口調で尋ねた。聞かれたワグナは答えが分からずに戸惑うものの分からないものは分からない。彼はやむを得ず分からないと答えることにした。


「い、いえ」


「我々がいかに貴重な時間を無駄に使ったかだ! 我々に与えられている時間は限られている。今しか機会はないのだ、今しかな。それなのに……」


ソノラの顔が憎悪に歪んだ。瞳が再び金を帯びる。


「我々は何の目的も達成できてはいない! そう何の目的もだ。分かるかワグナ! 私は長い長い冷凍睡眠から目覚めて五十年後、満を侍してこのアルカデを設立した。だがこの様はなんだ。あんな簡単なお使いすらできないとは。私は馬鹿と愚か者は大嫌いだ。……そうだなもし次に私を失望させたら……」


ソノラがワグナの方をキッと睨む。ワグナは心臓をソノラに掴まれたような心地がした。背筋を冷や汗が流れる。

ソノラが黒いエナメル質の手袋をした手を振った。バシャリと水が飛び散るような音がした。


「ぬわああああ!」


ワグナは目に写った衝撃的な”物”に驚愕した。さらに彼は血まみれになっていた自分の身体を見て喉が裂けるほどの悲鳴を上げる。


「そうなるわ。死にたくなかったらせいぜいしっかり働くことね」


ソノラは首から上が消失したワグナの部下とそれを見て狂ったように叫び続けるワグナの姿を見てささやいた。そして妖艶に微笑む。


「ふふ、良い感じよ。もっと見ていたいぐらいだわ。でもそろそろ働いてもらわなくちゃ」


ソノラは手を上に向けた。それに合わせてワグナの身体が直立不動の姿勢を取る。


「ドラグナー王国への侵攻時期を早める。準備しなさい」


 ソノラはそっけない態度でそう言った。それを聞いたワグナの顔が露骨に引き攣る。


「む、無理です。あそこは古代竜が守護しております。今の戦力では……」


ワグナは恐怖に怯えながらもソノラの命令を拒否した。しかしそんなことなどソノラには想定済みだ。彼女はワグナに近づき、彼を指差して言う。


「飛行戦艦を使えば良いわ。戦力はこれで足りるはずよ」


「飛行戦艦ですか? あれは発掘は出来たのですが復旧に手間取っておりまして。使うには後一ヶ月は見ていただかないといけませんが」


「なら一週間でなんとかしなさい。完璧でなくてもいいから一週間よ。最近魔族も騒がしくなってきたし、いよいよ時間がないから」


ソノラはそういうと部屋の中央に戻った。そしてさらにワグナに告げる。


「もし、死にたくないのならば確実に一週間でやることね。そうでなければ死あるのみよ」


そういうとソノラはワグナを自由にした。ワグナは任務を遂行するべく、廊下を血相を変えて飛んで行く。ソノラは彼がいなくなったところで扉をしめ、再び水槽の中を見つめはじめる。


「やれやれ。使えない部下を持つと苦労するわ。でもそれもあとわずかだけどね。ふふ、ふふふ、あーははは!」


他に誰もいなくなった部屋に、ソノラの高笑いだけが響きわたった……。



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