第三十四話 新たなる敵、その名はアルカデ!
第三十四話 新たなる敵、その名はアルカデ!
森の広場で僕らは謎の集団と睨み合っていた。敵はかなりの熟練者のようで、なかなか攻撃をしてこない。シンっと静まりかえった空気が辺りを包んだ。互いの息遣いさえ聞こえる。その静寂はしばらく続いたあと、黒い装甲を着た敵によって破られた。
「そりゃあ!」
気合いと共に敵は一斉に攻撃を仕掛けてきた。怪しく光る剣が二振り、僕に向かって振り落ろされる。僕はその剣を杖で受け止めた。激しい火花が飛び散り、ギイっと言う耳障りな金属音がした。さらに手に微妙な振動が伝わってくる。嫌な気がした僕は魔力を腕に集めて、強引に剣を弾き返す。後ろから気配を感じた。杖を後ろに向かって突き出す。杖は後ろに回り込んでいた敵に命中した。敵の硬い装甲の隙間に杖が入る。
「うがぁ!」
敵は聞くに堪えない呻き声を出した。そして、その身体は地面に崩れ落ちていく。
「ちっ、やはりエナジーレベルが高いだけあって強いな!」
僕の前にいた敵が倒された仲間を見て舌打ちをした。さらにそいつは周りを見回して後ろに数歩下がる。僕も周りを見てみると、咲たちはすでに残りの敵を倒していた。
「残りは二人だけ。さあどうする?」
僕は目の前にいる隊長とか呼ばれていた奴に聞いてみた。もしここで降伏するなら痛め付けるつもりはない。
「仕方あるまい。撤退だ!」
隊長らしき奴は味方一人を引き連れてその場からすばやく逃げ出した。僕は魔法を使い、二人の足を凍らせる。二人は派手に転倒する。だが、二人は手を上手く使いほふく前進で逃げていく。でも当然ゆっくりなので僕らはすぐに追いついた。
「逃げられないぞ。お前たちは一体何者なんだ?」
咲が刀を突き付けて二人を問いただした。しかし二人は沈黙して何も話そうとはしない。
「魔法を使えばあなたたちを自白させることは簡単。ただし、それをすると精神は確実に壊れる。それでも話したくないの?」
今度はナルが凄みを効かせて言う。二人は若干動揺し始めた。顔色が悪くなり、小刻みに震える。
「わかった。話してやる」
ナルの脅しに堪えかねた隊長の方がそう言った。そしてぽつぽつと長い話を始める。
「我々はドクターソノラ様の率いる結社アルカデに所属している特殊部隊だ。ちなみに俺が隊長。そして今回は任務でそこにいる精霊をさらいにこの森に来た」
「アルカデ……。古代の国の名前か」
僕はアルカデという名前に聞き覚えがあった。確か、数万年前に滅びた伝説の古代国家だとか座学の時間に師匠が言っていた。
「そうだ。よく知っているな。我々の目的は古代国家の復活。それを成し遂げるために日夜様々な活動を水面下でしているのだ」
男は誇らしげに言う。自分たちの理想が正しいと思っているからだろう。まったく良い迷惑な連中だ。
「そうだとして、なぜ私を捕まえる必要があった? 私はそれほど強い精霊でもないし……」
スフィアが男に向かって尋ねる。まったくにその通りだ。スフィアをさらうより貴族の令嬢でもさらった方が利益になるだろう。
「それに関しては俺は良く知らん。何でも魔族に対抗する兵器の鍵になる存在だから連れて来いと命令されただけだ」
「なるほど。ではさっき言ってた無の精霊というのは何なのだ? よくわからないのだが」
咲が男に向かって問い掛ける。すると何故かスフィアが顔を赤くして答えた。
「それは私が答える。その、すごく恥ずかしいことだが……私は属性なしの精霊。だから無の精霊なんだ」
無属性だから無の精霊なのか。なるほど結構単純だ。僕がのんきにそう思っていると、咲とナルが目を真ん丸にして驚いていた。
「無属性の精霊なんているんだな。初めて聞いた」
「私も。やたら力持ちだから地属性だとずっと思ってたの」
ふむふむ、無属性というのは珍しいようだ。そう思った僕はスフィアの顔を覗き込む。
「や、やめてくれ。そんなに見られると恥ずかしい」
スフィアが慌てて後ろに飛びのく。それを咲とナルは呆れたように見た。
「はあ、今はそんな場合じゃないぞ。おい、他には知らないのか?」
咲が再び男への尋問を再開する。すると男は狂ったように笑い始めた。おかしくなってしまったのか……? 僕らがそう思ったところで男は笑うのをやめて話しはじめる。
「ははは、もう知っていることなどほとんどない。我々など下っ端も良いところなんだからな。ふふ、お前たちと楽しく話している間に本部に通信が取れた。おめでとう、晴れてお前たちはアルカデの敵になった。せいぜい気をつけることだな。幹部や精鋭、さらにドクターソノラ様は恐ろしいぞ。ふはははぁ!」
隊長の男とその後ろにいた奴は装甲の隙間から試験管のようなものを取り出した。なかには蠱惑的な緑色の液体が入っている。それを男たちは一気に飲み干した。男たちの身体から湯気が溢れでて、その口からは割れんばかりの叫びが漏れる。装甲から僅かに見える皮膚は赤く爛れて、焼かれたようになった。そして信じられないことに男たちの身体が溶けていく……。
「い、いやああぁ!」
ナルが衝撃的な光景に泣き叫ぶ。咲とスフィアも泣きはしないが茫然自失として、言葉を失っていた。その額からは嫌な汗が噴き出している。
「なんて死にかただ……。信じられん、こんなことあって良いのか……」
しばらくして、咲は液体と化した人間だったものを見て小声でつぶやいた。
なぜ、男たちはこんな残酷極まりない死にかたをしなければならなかったのだろう……。他にも死にかたぐらいあるだろうに。
「……多分、魔法使いが死体を調べるのを恐れたから。そうとしか考えられないの……」
恐慌状態から回復したナルがそう言った。その通りなのだろう。だがそれにしてもあんまりだ。
長い沈黙の後で、僕らは気絶していた他の敵を魔法で完全に拘束すると、リンドンまで連行していった。そして組合に身柄を預ける。疲れきった僕らはあらゆることを後回しにしてその日は眠りについたのだった。
感想・評価をお願いします。




