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【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


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39頁目 観葉植物その2

39頁目です!

また観葉植物が出てきました!


男は今日も、いつものように工房に着くと、鍵を開けて風鈴を鳴らして入る。


荷物を降ろし、お湯を沸かして、雨戸を開ける。


そのまま水をやろうと観葉植物に近づくと、ふと違和感を覚えた。


鉢のそばに葉っぱが一枚落ちている。


「…ん?」


拾い上げ、葉の表と裏を確認した。


「葉が一枚…落ちている…?」


鉢を持ち上げて、全体を確認する。


「……病気か?」


鉢底は変わりない。土もそこまで変わらず、他の葉っぱも色の変化も無い。


水は毎日やっている。肥料だって買ってきた。


「何が原因だ…?」


リーン


工房の扉が開き、弟子が入ってきた。


「おはようございまーす。」


いつものように荷物を降ろし、自分の買ってきた朝ごはんを机に広げる。


「お湯いただきまーす。」


カップを用意して、茶葉をポットに入れてお湯を注ぐ。パンを食べるためのいつものルーティン。


「ルリ、ちょっといいか?」


「ふぇ?どうしたんですか?」


少女はパンをかじったまま男の元へ行く。


男は真剣な表情で観葉植物を見ていた。


「これを見てくれ。」


「…葉っぱ?あぁ、一枚落ちちゃったんですね。」


「故障の原因は何だと思う?」


「……はい?」


聞き間違いだろうか。

この男は植物に対して機械のように発言をした。


「いや、なぜ葉っぱが落ちたのかな、と。」


「いやー…そりゃあ落ちることもあるんじゃないんですか?風とかで。」


「ふむ、病気だったらまずい。対策を考えよう。」


「えー……。」


いつになく真剣な師匠に、ツッコむこともできずに途方にくれる弟子。


男はまず、鉢を窓際へ移動させた。


「日当たりか……?」


「えっ、そこですか?」


「いや、可能性の一つだ。」


男は腕を組み、観葉植物をじっと見つめる。


「水は毎日やっている。肥料も与えた。鉢底にも異常はない。となると……」


「相棒、ちょっと待ってください。」


少女は食べかけのパンを机に置いた。


「毎日お水あげてるんですか?」


「そうだが。」


「土が乾いてなくても?」


「……乾いているかどうかは、あまり気にしていなかったな。」


「そこは気にしてくださいよぉ!」


少女は呆れながらも鉢の土を確認する。


「えーっと……アイビーって、土が乾いてからお水をあげるんじゃなかったでしたっけ。」


「なるほど。過剰な水分が原因の可能性もあるわけか。」


男はすぐさま小さな帳面を取り出し、何やら書き込み始めた。


「水やりの頻度を見直す。日当たりを調整する。葉の状態を観察する……。」


「なんでそんなに本格的なんですか!?」


「原因を特定するには、条件を一つずつ変えていく必要があるだろう。」


「いや、まあ、そうですけど……。」


妙に筋の通った説明に、少女はそれ以上何も言えなくなった。


それから数日。


工房の観葉植物は、以前よりもずっと丁寧に扱われるようになった。


朝、男は工房に着くと、まず鉢の様子を確認する。


土の乾き具合を確かめ、葉の色を見て、鉢の置き場所を少しだけ調整する。


水をやるのは、土が乾いているときだけ。


新しく落ちた葉があれば拾い、葉の裏までじっくりと観察した。


「……ふむ。」


「相棒、今日もですか?」


いつものように出勤してきた少女が、呆れ半分に声をかける。


「何がだ。」


「観葉植物ですよ。もう何日もずーっと見てるじゃないですか。」


「状態の変化を記録しているだけだ。」


「それ、もうお世話してるって言うんですよ。」


「必要な管理をしているだけだ。」


男はそう言って、また植物へ視線を戻した。


少女は小さく笑い、いつものように朝ごはんを広げ始めた。


そして、さらに数日が経ったある朝。


「……あ。」


工房に入ってきたルリが、窓際の鉢を見て声を上げた。


「相棒! 見てください!」


「なんだ。」


「新しい葉っぱ、出てますよ!」


男は作業の手を止め、鉢のそばへ歩み寄る。


つるの先に、小さな黄緑色の葉が開きかけていた。


男はしばらくそれを眺めていた。


「……お。本当だ。」


「よかったですねぇ!」


少女が嬉しそうに笑う。


男も、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「まあ、ひとまず安心だな。」


「ふふっ。相棒、最初は葉っぱ一枚で大騒ぎしてたのに。」


「大騒ぎはしていない。」


「故障の原因は何だと思う、って言ってましたよね?」


「……原因を確認しただけだ。」


「はいはい。」


少女はくすくすと笑いながら、自分の席へ戻っていった。


男も作業台へ戻り、いつものように工具を手に取る。


窓際では、朝の光を浴びた植物が、静かに葉を広げていた。


それからも男は、毎朝欠かさず植物の様子を確認するようになった。


もちろん、本人に言わせれば、それはあくまで必要な管理にすぎない。


ただ、工房へ来て最初に目を向ける場所が、いつの間にか一つ増えただけのことだった。


次回!

40話の前に特別編を更新予定です


企画参加のための読切短編でございます。

別アクセスになってしまいますかね?お手数おかけしますが、そちらもよろしくお願いします!

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