38頁目 オルゴール
38頁目です!
よろしくお願いします
開けた窓から心地よい風が入ってくる。
今日の工房は、優しい音に包まれていた。
「うーん…直ってるはずなんだがな。」
珍しく頭を抱えて唸っている工房主。
手元には真鍮色の小さなオルゴール。
蓋を開けると音楽が流れて、上部の小さな人形が回る仕組みだった。
遠くから作業台を気にする少女は、音楽に耳を傾けながら、書類仕事に追われていた。
「うーん…どうしても計算が合わない…。途中までは合ってるはずなのに…。」
工房の簡単な経理は今や少女の仕事だった。しかし今月の収支の一部が何度計算しても合わないのだ。
「「うーん。」」
珍しく師匠と弟子、二人が悩み抜いている。
「あーもうダメだ。一回休憩だな。」
男は一旦諦めて立ち上がり、コーヒーを淹れに作業台を離れる。
「相棒…なーんか合わないんですよぉ。やっちゃってますかね?」
少女が助けを求めに声をかけた。
「ん?あぁ、帳簿か。合わないのか?珍しいな。」
工房主一人の時はザル勘定だったが、今は少女の仕事によりかなり明朗に管理されている。
「ちょっと貸してみろ。……ここ、6か0かどっちだ?」
「え?……あ!もしかして!」
少女は帳簿を受け取ると、計算をし直した。
すると、何度も合わなかった計算がぴったりと合うようになる。
「相棒ー…ここでした。ありがとうございますぅ…。」
少女はほっとしたのか、はぁーと深くため息をついた。
「良かったな。じゃあ次はこっちも見てもらえるか?」
修理に関してはあまり人に頼らない工房主も、さすがに煮詰まっているようだ。
「かわいいオルゴールですね。でも、音出てませんでした?」
男はオルゴールのネジを巻きながら答える。
「直ったはずなんだが、少し音が変なんだ。原因がどうしてもわからん。」
ネジを巻き終えて机の上に置くと、オルゴールは美しい音を鳴らし始めた。
カチリ。
蓋を開けると、澄んだ音色が工房に広がった。
チリン、チリン……。
高音と低音が柔らかく重なり、穏やかな旋律を奏でていく。小さな人形も、音楽に合わせてゆっくりと回り始めた。
軽やかな音が続き、やがて曲は終わりに近づく。
最後に、いくつかの音が重なった。
ポロン……。
それまでと変わらず、美しい響き。
けれど、どこか余韻を引きずるような、すっきりと終わらない音だった。
「……ここだ。ここの音がどうしても気になる。」
「……ちょっとよくわかりませんね。もう一回良いですか?」
男はオルゴールを持ち上げて、もう一度ネジを巻くと机に置いた。
今度は少女も注意深く聴き耳を立てる。
「……どうだ?」
「相棒、もしかして最後の部分のこと言ってます?」
曲の最後の重音の部分、そこに工房主は違和感を覚えていた。
「ああ、そこだ。もう一回バラしてみるか…。」
「相棒、これ、こういう曲です。」
「……は?」
男は思いもよらない言葉に呆気にとられた。
「ですから、こういう曲なんですよ。ちょっと不協和音で終わるというか。」
「そんなわけあるか。さすがに変だろ。」
「流行りの曲ですから間違いないですよ。ちゃんと直ってます。」
男は肩透かしを受けたように煮え切らない顔をして、そっとオルゴールを持ち上げた。
「……お前、たまには役に立つんだな。」
「たまには、ってなんですか!!」
オルゴールって良いですよね…
優しくて、でもどこか儚げで
次回もよろしくお願いします




