16頁目 蒸気石職人
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差し込むお日様が温かい、昼前の工房。
男は作業机の周りを、小綺麗に整えていた。
「今日は珍しい客が来るからな。」
いつも散らかったままの場所が、今日は広く見える。
「どなたがいらっしゃるんですか。」
少女は聞いたが、男はもったいぶったまま教えてくれない。
リーン
「はーい、いらっしゃいませー。」
少女が出迎えると、そこには背の高い、見慣れない女性が立っていた。
スラっとした姿、だが、腰にはルーペや小さな工具を付け、大きな革のトランクを持っていた。
「預かってた石、加工し終わったわよ。」
「お、来たか、助かった。」
そう言うと、少女に気が付き、ふっと微笑んだ。
「あら、かわいいお嬢さんね。こんにちわ。」
少女はその女性の佇まいにたじろいでいた。
「こ、こんにちわ!い、いらっしゃいませ!」
「ルリ、コーヒー二つ頼む。」
「え?あ、はい!」
女性は部屋に入ると、コートを脱ぎながら作業台に進む。
お客さんというよりも、師匠の知り合いのようだった。
「えーと、どなたでしょうか。」
「蒸気石職人。」
女性は革のトランクから宝石箱のようなものを取り出すと、中には色とりどりの蒸気石が入っていた。
ルビーのように紅い、丸い形。
サファイヤのように碧い、四角い形。
どれも宝石のような輝きを放っている。
「うわぁ…キレイですね。」
「ふふ、ありがと。」
少女は目を輝かして石を覗き込んだ。
「そういえば、蒸気石って掘ったそのまんまじゃ使えないんですか?」
「使えなくはない。でも効率が悪い。」
男は石を一つ一つ確認しながら答える。
「そのままだと蒸気の流れが乱れる。だから職人が石に合わせて削って磨く。」
少女は感心しながら見とれている。
「それにね、石にも個性があるの。」
女性は蒸気石を一つ持ち上げると、続けて言った。
「結晶の出方がそれぞれ違うから、石に合わせて最高の状態になるようカットしていく。その見極めこそが職人の腕の見せ所ね。」
女性は布で石をひと撫でする。
「それに、見た目にも美しくないと。」
そう言うと、女性は少女に向けて、軽くウインクを飛ばした。
「そ、そうなんですね。勉強になります!」
納品された蒸気石を、男は一通りチェックすると、うーん、と背伸びをした。
「じゃあ、しまってくるからちょっと待っててくれ。」
男が席を外すと、女性は机の上のコーヒーカップを手に取った。
「あ、あのっ!」
「あら?」
「そのー…。」
少女は言葉を探すように口ごもる。
それを見た女性は、少し笑った。
「ヒスイ。」
「えっ?」
「私の名前。」
「あ、ヒスイ…さん。」
「なにかしら。」
少女が聞く。
「そのー…師匠とはどういうご関係で…。」
女性は一瞬きょとんとすると、すぐに口元を緩めた。
「ふふ。」
「どういう関係だと思う?」
「えっ。」
少女は言葉に詰まる。
「えっと、その……。」
「……。」
「…………。」
顔だけが少しずつ赤くなるのを見ると、女性はくすっと笑った。
「安心して。」
「ただの仕事仲間よ。」
女性は少しずつ続ける。
「蒸気石を磨くのは私。」
「機械に組み込むのはあの人。」
「専門が違うの。」
ルリはほっと胸を撫で下ろした。
「そ、そうですよね。」
「でも。」
女性はコーヒーを一口飲む。
「あの人、あなたの話はよくしてるわよ。」
「……え?」
ひとつずつ指折りしながら続けた。
「『弟子がまた変なもの作ってた』とか。」
一本指を折る。
「『でも色のセンスだけは敵わない』とか。」
もう一本。
「『勝手に仕事増やす』とか。」
「ちょっ……最後だけ悪口じゃないですか!」
女性は声を上げて笑う。
「俺の悪口か?」
男は戻ってくるなり口を挟んだ。
「ち、違いますよ!」
「そうよ、乙女の内緒話。」
「なんだそれ。」
男は少し困ったように頭をかくと、何も言わずコーヒーを飲んだ。
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