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閉話8 南スロベニアの崩壊

毎日18時に投稿しています。お読みいただければ幸いです。

 王は、立派な宮殿に住むことができてご満悦である。そして次は暮らしの充実に目を向け始めた。正室や側室たちがまだ捕らえられたままであったので、新たに妻を迎えることにした。

 また、生活も王らしい贅沢な生活を始めた。

 軍は新たに2個軍団の創設を要求した。


 2回目の賠償金を払ったら、財政はすぐに窮乏した。外務大臣は再びシケリアに行き、借款を求めた。

 シケリアの公王は驚いて言った。「昨年、20億ブッシュの借款をしたばかりで、3年の期限もまだ来ていないのにもう借りに来たのか。20億ブッシュが返せるのか?」

 「借金は返せません。それより、追加でお金を貸していただきたい」外務大臣は言った。

 「現在貴国が敷設している大街道及び中街道すべての管理権とそれらを警備する武装兵の駐屯権、首都近郊に租界を作る権利を20億ブッシュでどうか。期限は一年、金利は100%でなら借款契約を結ぼう」と公王は言った。

 すぐに外務大臣は本国に問い合わせて、了解の回答を得た。

 借款契約は結ばれた。

 20億ブッシュはすぐに、軍の整備や王宮の経費、特に側室たちの費用に充てられた。

 離宮の改修や王宮の諸行事に充てられ、一部は国家財政の補填に使用された。

  

 翌年1年の返済期限が切れると、シケリアが街道経営と租界の建設にやってきた。首都郊外の土地に勝手に囲いをし、町を作り始めた。また、街道の整備の名目で、職人たちを雇用し、また警備兵として雇用を始めた。

 慌てた役人たちはすぐに工事や人の雇用をやめさせようとした。

 シケリア人の代表はこの措置は借款契約に基づいたものであること、妨害行為を停止しないと借款契約に基づき排除する旨を主張し、一切やめようとしなかった。

 このことはすぐに王へ報告された。

 「借金など踏み倒せと言ったであろう。直ちに工事をやめさせろ」王は直ちに命令を下し、軍を派遣、シケリア人を捕らえた。

 すぐにシケリアから抗議の使者が来た。その使者も捕らえた。


 シケリアは軍を起こし、侵攻を開始した。また、エトルリアはシケリアの宗主国として北部から侵攻した。

 マキニアと南北ロマリアは借款契約を破ったことについて南スロベニアを非難、国境に軍を張り付けた。


 シケリア軍はスプリトから北上、エトルリア軍は左翼軍と右翼軍に分かれ、右翼軍は海岸沿いに南下、左翼軍は、国境からしばらく進んだ地点で、陣地を作り、敵を迎え撃つ戦略を取った。


 南スロベニア軍は南部と東部の各2個軍団は国境に張り付くマキニア軍と南北ロマリア軍に対応するため動かせず、首都防衛と予備として中央州にいる2個軍団も移動させることができなかった。

 王は、前回の敗北がこらえたのだろう、首都の防衛を固めるよう、命じたからだ。

 すると使えるのが、4個軍団で、うち2個軍団をエリトリア軍の左翼軍に攻撃に向かわせた。

 西部地区に駐屯していた2個軍団は1個軍団と領主軍がシケリア軍に対応、残り1個軍団がエリトリア軍に対応することとなった。


 シケリア軍は4個軍団を派遣、1個軍団はスプリトにとどまり、3個軍で南スロベニア軍と相対した。

軍団長ミハイル・プッチは強固な防衛陣地を作り、敵を迎え撃つつもりで、陣地構築を行っていた。

 「急げ、敵が来るまでに完成させるのだ」ミハイルは檄を飛ばした。

 何とか陣地が完成し、敵を迎え撃とうと陣地にこもっていると、敵は陣地から離れた場所をかなりのスピードで通過していった。


 「敵は我々を素通りしていきます」副官から報告を受けたミハイルは焦った。

 このまま陣地にこもっていれば、とりあえず安全だ。しかし、敵がそのまま北上すれば、もう一つの軍団が挟み撃ちに会い、兵力差から見ても全滅は間違いない。そうすれば、わしの失態として王から処分されるのは間違いない。

 逆に今から追いかければ、後方をつくことができる。うまくすれば勝てるかもしれない。

 そう思ったミハイルは陣地を捨て、陣地に設置した大砲や武器を放棄し、兵が持ち運べる武器を持たせて敵を追いかけた。軍団が先行し、領主軍が後に続いた。


 ミハイル率いる軍団の先頭が敵に追いついたとき、シケリア軍は布陣を終え、待ち構えていた。

 ミハイルがしまったと思った時には、敵の攻撃が始まっていた。陣形が崩れ、細長くなっていた南スロベニア軍は中央部分をあっさり突破され、包囲されて集中砲火を浴びた。

 軍はたちまち壊滅し、包囲網から外れていた軍、主に領主軍が多かったが、にシケリア軍が襲い掛かった。

 すでに組織的戦闘が難しくなっていた南スロベニア軍は逃走を図ったが、次々とせん滅させられ、そのほとんどが壊滅、戦力としての機能は喪失した。


 その後、シケリア軍は北上し、エリトリア軍と退治していた南スロベニア軍に襲い掛かった。

 挟み撃ちに会った南スロベニア軍はすぐに降伏した。

 合流したエリトリア軍とシケリア軍は左翼軍の救援に向かった。


 左翼軍は陣地を構えて敵と対峙していた。両軍とも2個軍団で、兵力は変わらなかったが、陣地にこもるエリトリア軍に南スロベニア軍は手を焼いていた。

 攻めれば固く、兵の損失が積み重なっていった。

 ならばと対峙して、敵の消耗を稼ごうとしたが、夜襲が度々行われ、兵や物資の犠牲がばかにならなかった。

 そのうち、左翼から敵の5個軍団が向かってきていることを知った。


 南スロベニア軍は、残余の兵力をまとめて撤退した。

 撤退中から兵の逃亡が相次ぎ、責任の追及を恐れた軍団長も逃走、軍は自然解体してしまった。

 このことを知った王は、顔面蒼白になり、軍務大臣と軍の総司令官を呼んだ。

 二人とも責任の追及を恐れ逃げ出していた。

 やむなく外務大臣が呼ばれた。王は外務大臣に事態の解決を要求した。

 「お前のせいだぞ。何とかしろ」王は怒鳴り散らした。

 「借款の時の契約を守らなかったのが問題だったのです。いまからこの状況を解決するのはかなり困難です」

 「お前の口車に乗ったらこうなったのだ。どうにかしろ。さもなければ死刑だ」

 「解決することはもしかしたら可能かもしれません。先ず東部州と中部州の一部をエリトリアとシケリアに譲渡すること、更に借款契約で結んだ条件すべての履行と、賠償金の支払い、この条件を認めてもらえるなら講和を結ぶ努力をしましょう」外務大臣は言った。

 「領土の割譲は認めん。賠償金もだ。借款契約の履行はやむを得ないが条件を削れ。例えばいくつかの鉱山の経営権のぐらいにしろ」

 「無理です。もういいです。処刑してください。どちらにしろ死ぬことになるのですから」

 「どういうことだ?」

 「おそらく敵は王都に攻めてくるでしょう。そうすれば、マキニアと南北ロマリアもすぐに侵攻してくるに違いありません。各国が攻め込んできたら、国境にいる軍だけではそんなに持ちません。すでに補給物資も底をついています。首都にこもっても、どれだけ持つか」外務大臣は達観したように言った。

 「全軍を王都に集中させれば、何とかなるのではないか?」王はうろたえながら言った。

 「もう物資がありません。国庫も空です。全軍集めても、この町で1か月籠城するのが精いっぱい、どこからも救援は来ません」

 「シケリアの人質たちは使えないか?」王は哀願するように言った。

 「エリトリアにいる我々の家族や虜囚になっている貴族たちが処刑されるだけでしょう」

 王はうなだれ、王座から滑り落ちた。

 「すべての条件をのむ。何とか頼む」王は外務大臣に頼み込むように泣きついた。

 「分かりました。全権をいただけるならば、王と王都は何とか守りましょう」そう言って、外務大臣は交渉に向かった。


 「講和の使者としてまいりました」エリトリア、シケリアの陣営に行き、アッピア侯爵とシケリア公王とあった。

 「今更講和か、もう王都は目前だぞ」アッピア侯爵は皮肉るように言った。

 「まあ、お爺様、話だけはしましょう」といって、講和の条件を提示してきた。

 中部州の北半分及び西部州、東部州の全部の割譲、賠償金として、未払い分と合わせて500億ブッシュの支払い、王国内を通る大街道、中街道の管理権の割譲、既存鉱山の経営権及び鉱山開発権の承認、マキニアと南北ロマリアに接する国境部分の3国への割譲、軍備の制限、エリトリアから南スロベニアに対し、政治軍事に関する顧問団の派遣を受け入れるこが条件に出された。

 外務大臣はこれをすべて飲んだ。

 条約の批准はエリトリアの王都フローリアにて行われた。

 

 南スロベニア王国はかろうじて形が残ることとなった。しかし、全ての主権は顧問団の指導の元行われるようになり、軍備は王都防衛と警備要員として、1万人に制限された。

 その中身も指揮官クラスはすべて、エトルリア人で占められていた。

 王の裁可権はすべて顧問団に握られていて、手紙一つ出すにも顧問団の許可がいた。

 さらにすべての貴族たちの家禄は没収され、労働に対する報酬のみ与えられることとなった。このため、役目のある貴族はよいが、失職した貴族、特に軍務系、更に無役の貴族派収入を失い困窮した。

 当然王室費を大幅削減され、年間で2500ブッシュに抑えられた。

 宮廷のメイドや執事も解雇され、執事が一人、メイドが一人、エリトリアから派遣されてきた。

 領地貴族の徴税も制限され、収穫の3割と決められた。他に賦役や税金をかけることは禁じられた。

 国税は1割とされ、領民が負担する税は4割に制限された。

 

 賠償金の支払いは、商人からの収益税と関税で賄われることとなった。多くの商人たちが、整備された関所のない街道を使って国内ばかりか外国まで商売の足を延ばした。

 街道の利用は通行料が必要だが、月額一定であり、安めに抑えられていた。そのため商売は盛んになり、街道には宿場が設けられ、小さな町があちこちにできた。

 関税も商品金額の5%に抑えられた。

 

 この国は、事実上エトルリアの領土となりながら民たちは潤い、民はエトルリアを支持するようになった。

 そのため、既得権益を奪われた貴族たちが反乱を起こそうとしたが、誰もそれに参加せず、かえって、情報をエリトリアに通報するものばかりで、たちまちのうちに反乱は鎮圧され、首謀者は処刑された。


 割譲された中部州の北部と西部州の北部及び東部州の北部はジョン・アッピアに与えられ、代わりにそれまで治めていた土地のうち北部州の西半分がエリトリア王家の土地となった。

 併せて、公爵の地位に就くことが認められ、公国の設置を許可された。

 南部東部州はエリトリア直轄地となり、国境地帯はマキニアと南北ロマリアに割譲された。また、シケリア公王が治めていたスプリトと今回割譲を受けた南部西部州はエリトリア直轄地となったが、その代わりにシケリアにはサルデーニャの支配権が与えられた。

 

王の生活

 南スロベニア王アレクサンダル三世は朝起きると、一人で井戸に洗面に向かった。洗面を済ませると食堂に足を運んだ。

 王は現在、昔中級の使用人が住んでいた王宮敷地内に建てられている家に住んでいた。

 王宮は行政組織が入ってその施設として使用されており、更に病院や養護施設など多様な用途に使用されていた。

 そのため、王宮から追い出された王は、とりあえず使用していない家を使用することとなり、そこで生活することとなった。


 食堂に行くとパン一つと水が用意されていた。

 王はそのパンをもそもそと食べて、水を飲んだ。

 その後、庭に出て菜園の世話を始めた。

 菜園は昔の庭園の一部が使われており、王はそこで野菜を育てていた。

 食事が少ないため、腹の足しにするために始めた物だったが、今では暇つぶしと実益を兼ねたものになっていた。

 実が生っていた野菜や果物を食べて、腹を膨らましたあと、家に戻り、水で体を拭いた。


 昼食はなしだ。その後は部屋で読書をする。本は図書館から借りてくる。

 もともと王室図書館として王宮にあったが、現在では一般に開放されており、王も貸し出しの手続きを踏んで本を借りていた。ちなみに王は図書館で本を読むことが禁止されていた。

 反乱分子との接触を防止するためだ。

 同様に来客も、手紙のやり取りさえ厳しい制限が掛けられていた。

 

 王の家族はどうしたかと言うと、まだエトルリアで生活していた。

 ほどほどの暮らしが保障されており、子供たちの教育という点でも正室は子供たちと一緒にエトルリアで暮らすことを選んだ。

 側室たちのうち、受け入れ先があるものは帰国していたが、王とは会おうとしなかった。金も権力もない男など見向きもされないということだろう。

 子供のいる側室のうち、子供をおいて帰国するものもいた。子供はエトルリア王国で育成されることとなった。


 夜は、野菜が少し入った塩スープとパンが1個出されていた。王はもそもそとそれを食べて、日が沈むとともに眠りについた。明かりがもったいないからだ。

 ベッドの中で思い出すのは、昔のことばかりだ。華やかなパーティ、おいしい食事に美しい女たち、自分に仕えてくれる多くの臣下、そんな過去の栄光に思いをはせながら眠りについた。


閉話その一です。南スロベニアの最後をダイジェストですが書きました。

あと、書き残しの部分を一つ書き上げて終わりです。

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