閉話9 マルコ・サロの話 前編
これがこの物語最後の投稿になります。お読みいただければ幸いです。
私はマルコ・サロ、サロ侯爵家の次男だ。私の苦難に満ちた話を聞いてくれ。
私はエリトリアの北にあるサロ侯爵家の次男として生まれた。ちゃんとした正室の子だ。
私は長男である兄のスペアとして、高い教育を受けてきた。
こういう場合、兄が侯爵位を継いだら、スペアの私は下級貴族の爵位をもらうか、どこぞの貴族の養子に行くかだが、私の実家サロ侯爵家はエリトリアでも2つしかない侯爵家の片方で、我が父の妹は王家に嫁ぎ、その子は王子として王位継承の可能性が高い存在だった。
もし、彼が王位を継いだら兄は中央で宰相としての地位につき、私はこの領地の統治を補佐する身分として伯爵の地位は間違いなく与えられたであろう。
そんなわけで、順風満帆な人生が私には待っているはずだった。あの時までは。
サロ侯爵領に南スロベニアが攻め込んできたのだ。
父は、兄と私、そして4男と5男の弟を連れて戦場に出向いた。
兄と私、4男の弟は正室の子で、5男は父の叔父の娘が母親で、立場上ないがしろにはできない存在だった。
3男?あれは側室、それも父が何の気の迷いか平民のメイドに手を出して産ませた我が一族にはとても数えることができない存在だ。父もそのことが分かっており、いずれはサロの街の官吏か、どこかの村長クラスにでも婿入りさせようかという話だった。当然栄えある戦場には連れてこなかった。
この戦は当初勝ち戦だと思われていた。敵は少数で我々が一当てするとすぐに逃げ出した。我々は、敵を追撃し、さらなる戦果を求めた。
ところが卑怯にもこれは罠だった。
いつの間にか、敵の大軍に包囲され、軍は壊滅的打撃を受けた。
私はたまたま父の命令で最前線に近いところにいた。父や兄や弟たちは後方の安全なところにおり、なぜ私だけ前線なんだと思い、戦いを放り出して途中で木陰を見つけて一休みしていた。
その時、敵は我々に逆襲を仕掛け、隠れていた敵が我々を包囲しようとしていた。
私は戦場から外れた木の陰にいたおかげでその包囲網から外れることができた。
私は一目散に逃げだした。うまく敵の目をくぐり、何とかサロの町までついた。
逃げている間考えた。サロの街にこもってもあれだけの敵の大軍の前では恐らく長くはもたないだろう。サロの街は落とされ、私は処刑されるだろう。そんなのごめんこうむる。
とりあえず、町でのんびりしているであろう3男に面倒ごとは押し付けて、私は持てるだけの金をもって、外国に逃げよう。
エリトリアが負ければ外国で暮らせばいいし、勝てば、王都に行って侯爵家を継げばいい。
なんといい考えだ、と自画自賛した。
私はサロに戻ると金目の物を持てるだけ持って、パランクに逃げ出した。
パランクの首都、パラスで貴重な宝石を王妃に献上し、私はエリトリア王国侯爵嫡男の地位を保障された。
王都に屋敷を与えられ、王妃様のパーティに呼ばれるようになった。
ある時、新聞を見るとエリトリアが戦争で大勝利をおさめ、広大な領土と賠償金を手にしたことが分かった。
では、エリトリアに戻って正式に候爵位を継ぐかと思って、新聞を読み進めた。
ひょっとすると私のことが書かれているかもしれないからな。
戦功により侯爵位だけでなく、勲章、報奨金、場合によっては王女との婚姻などが書かれているかもしれない、いやきっと書かれているに違いない、そう思い読み進めると、驚愕の事態が判明した。
サロ侯爵家は私のいとこである王子が継ぎ、旧南スロベニアの北部州に当たる新領土に移動させられることになったそうだ。これは明らかに懲罰人事だ。
次にあの劣った3男が伯爵になり、サロの街を中心に領土を与えられたそうだ。あいつサロの街を守り切ったらしい。報奨金も与えられたそうだ。
北部の貴族のうち、何もしなかったもの、逃げた者は爵位のはく奪や領土、財産の没収など過酷な懲罰を受けていた。
私はどうなる、王子という後ろ盾がなくなって、私が戻ったところで侯爵家は継げない。侯爵家は王子が継いでしまったからだ。
じゃ3男を追い出して伯爵家を奪うか。しかし王家が与えた爵位を直接行って奪った場合、王家の逆鱗に触れる可能性がある。ここは慎重に行かないと。そう思い、他のエリトリアから逃げてきた貴族たちと会って話をすることにした。
亡命貴族たちは、エリトリアにいては危ないと逃げてきたものだった。
北から南まで、多くの貴族が逃げてきていたが、その中でも私が最上位だった。
私の呼びかけに従い、多くの貴族が屋敷にやってきていた。
ほとんどの貴族が明るい顔をしていた。これで帰れると嬉しそうに話す者もいた。
「皆の者、この戦争にエリトリアが勝ったというニュースが入った。みなも帰国の準備をしているところだと思うが、どうも様子が違うようだ。何か情報を持っている者はいないか」私が訪ねると、一人の貴族がおずおずと手を挙げた。
「そなたは何という。どういう情報を持っている」
「私は南部に領地を持つ男爵でヴェルトーリ男爵です。南部の貴族たちはシケリアの侵攻で皆シケリアに降伏したのですが、アッピア伯爵の軍により解放された後、爵位・領土の保証の代わりに激戦地での戦いを強いられました。私のように拒否したものは、爵位剥奪、領地没収、財産没収の上、国外追放となりました。戻れば死刑だそうです。皆様方もエリトリアから逃げてこられました。とても王家が許すとは思えないのですが」とおずおずと言った。
「私は逃げたのではない!家名存続のため、やむなく戦略的撤退をしたのだ!」
「そうだ!そうだ!」
貴族たちは怒りに震えて、叫び始めた。
私は怒りに震えながらも、考えた。
この男爵をつるし上げて殺すのは簡単だ。しかし、冷静に考えれば万に一つぐらいの可能性で、王家が我々に対して冷たい態度をとる可能性もある。
特に私は王家の直接的な後ろ盾を失っているし、父もいない。頼れる縁戚はこの戦でほとんど失ってしまった。
帰ったところで、冷遇されて下級貴族か、最悪王子が継いだ侯爵家にて部屋住みの身になるかもしれない。
これは誰か送って情報を得た方がいいだろう。
そう思って、特に激昂している貴族に声をかけた。
「貴公が怒る気持ちはよくわかる。ただ、他の貴族たちも一抹の心配が出てしまった。すまないが先に帰ってこいつの言っていることが杞憂だと言うことを証明してはくれないか」
「ええいいですとも。こんな奴の言い分など聞くに値しないことを私が証明しましょう」そう言って、その貴族、なんとか子爵とか言ったか、の召使いの中に一人金で雇った冒険者を入れて、国に帰らした。
しばらくして、その冒険者が返ってきた。
「どうだった?」
「どうもこうもありませんぜ。港に着いた途端、家族諸共逮捕されて、翌日には反逆者の烙印を押されて絞首刑ですわ。帰国した貴族たちは軒並み処刑されているみたいですぜ」
「何故だ!」
「国家危急の時、逃げ出したものはすべて爵位はく奪、財産没収の上一家諸共処刑だそうですよ。これ冒険者ギルドからもらった手配書と賞金額です」
それを見ると、この国にいる貴族たちのほとんどが処刑対象になっていた。私なぞ、結構な額の賞金まで懸けられていた。
私は茫然とした。これではいつ襲われても不思議ではない。
これでは帰るどころの騒ぎではない。パランクにいるのも危ない。それならばどこへ逃げるか。アリア王国、プリッシュ王国、ベネルクス王国の三つが候補に挙げられる。
逃げやすいのはベネルクス王国だ。中立国だし、パランク王国のすぐ北にあり、逃げやすい。
プリッシュ王国は、大陸の騒動とは無関係だ。海を隔てているし、影響は少ない。ただ、かなり田舎の国だ。
アリア王国は軍事国家だ。行っても面白みの無い国だし、最悪利用され、前線送りにされるかもしれない。
とりあえず私はベネルクス王国へ行くことにした。まず交友関係のある貴族、商人から金を借りることにした。
借金の理由は、王命によりベネルクス王国の大使に任じられたのだが、手持ちの財産でしばらくはやっていかなくてはならないため、不足分を借りたい。経費が落ちたところで、倍にして返すと約束する、と言って金を借りた。
結構な金を借りられたところで、さてベネルクス王国へ向かおうとしたら、戦争が始まった。
私は借りた金と、手持ちの金目のものを集めて、ベネルクス王国へ向かった。
本当は家にある備品を持ち出したかったが、ぼやぼやしているとパランクに逮捕される可能性もあったので、急いで逃げ出した。
何とか国境を超え、ロッテルダムにたどり着いたが、そのうちパランクからも貴族が逃げてくるようになった。
金を借りた貴族たちが逃げてきたら取り立てに来るだろう。それは困る。私は、ロッテルダムからプリッシュ王国に逃げ出した。
ここまでくれば大丈夫だろう、私はそう思って首都のロンディニウムにたどり着くと、そこにも多くのパランク貴族たちが逃げてきていた。
ただ幸運なことに逃げてきたのは領地貴族の家族たちで、私の交友範囲は宮廷貴族たちだったので、素性がばれることはなかった。
私はロンディニウムの郊外に居を構えて、様子をうかがうことにした。
パランクの元貴族たちにとって私は敵国の貴族だった男だ。身分が知れたらどうなるか分からない。なので、元南スロベニアの貴族で、エリトリアに領土を奪われて逃げてきたという設定とした。さらにエリトリアに留学していて、そこで育った設定にした。
もともとエリトリアのフローリアは多くの外国から留学生がおり、不思議ではなかった。
さて、持ってきた金も有限だ。何かして稼がなくてはならない。
それで、貴金属、美術品の売買を行うことにした。父は美術品のコレクターでもあり、子供の時から美術品の良し悪しについて父から学んできた。ある意味私の特技と言ってもいい。
私はパランクから亡命してきた貴族たちが持ち込んできた美術品を買い集めた。
有難いことに、この国の美術商たちは人をだまして利益を得ることが当然と言う考え方の連中だった。持っている物を安く買いたたき、売る者は粗悪品を高く売りつけようと言う姿勢が一般的だったので、私がそれよりも数倍高く買い取り(それでもそのものの価値の半分程度だが)、良い品を適正な価格でプリッシュ王国の貴族たちに売りつけた。
おかげでパランクの元貴族たちには感謝され、プリッシュ王国の貴族たちには誠実な売り手という信用をつかんだ。
他の美術商たちの恨みを買い、何度か襲われたが、儲けた金でパランク軍上がりの腕のいい護衛を雇い、私を襲った連中を捕まえて犯人が誰か吐かせて、プリッシュ王国の貴族たちに手を貸してもらい私を襲った美術商の財産を没収したため、私の財産はどんどん増えて行った。当然プリッシュ王国の貴族たちには美術品を進呈するなど飴をあたえておいた。
そのうち、パランクの元貴族が困窮し始め、妻や娘を売り始めた。私はこれまでのコネを使って奴隷商を始めた。
美しい女たちは貴族の愛人に、そこまで行かない女は商人の愛人にした。
私も美人の姉妹を手元に置き、愛人にした。
美しい愛人と、有り余る金、高い信用、私は成功者だと自画自賛した。
今までお付き合い本当にありがとうございました。読者の皆様には感謝しかありません。
実はもう一つ転生物のアイディアがあって、少し書いたものがあるので、そちらも投稿したいと思います。
どちらを投稿するか迷ったのですが、こちらの方が力を入れていたので投稿したのですが、結果はいまいちでした。
あとがきで何回も言っていますが、ほんと好きなものを好きに書きたいという作者なので一位を取りたいとか出版されたいとかの野望はないのですが、読んでもらってブックマークをつけてもらったり、評価してもらうと狂喜します。本当です。
自虐になるのですが、作者みたいな文才も能力もないやつの書いた物語を読んでもらって、更に気に入ってもらえるなんて、うれしすぎて涙が出ます。
今後とも作品を投稿していきますので、お読みいただければ幸いです。




