閉話5 ジェームズとバルセロナの休日 後半
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次の日もジェームズはふらふらと街を歩いていた。もしかしたらジェミーに会えるかもと期待しながら、市場を歩いていた。
すると、どう見ても普通に見えない連中がジェームズを取り囲んできた。
「なんか用?」
「お前がジムか、まだガキじゃないか。まあいい、馬車に乗れ」と顔に入れ墨を彫った男が声をかけてきた。
ああ、昨日の連中の仲間か、まあろくな用事じゃないことは確かだ。このままとんずらするか、と思ったところで、待てよ、こいつらのお宝や文書は良いお土産になるかもしれないな、と考えた。
「別にいいよ、暇だし」
「ほう、ずいぶん余裕だな。まあ、その余裕がいつまで続くかな」その男はニヤリと笑って言った。
馬車は市場のはずれに止まっていた。
「おい、お前の剣をよこせ」
「やだよ」
「おい、なめてんじゃねえぞ!」
「そんな汚い顔舐められるかよ」
「てめえこの野郎!」といきなり殴りかかってきたので、首をはねた。
他の連中も戦闘態勢に入ったので、とりあえず土魔法で全員土の槍で串刺しにした。そのあと、次元袋に収納すると、僕はおもむろに御者のところに行き、震える御者に「死にたい?生きたい?」と尋ねた。
「生きたいです」
「じゃアジトまで案内して。別のところに連れて行ったら即殺すよ」
「わかりました。どうかお助けください」男は震えながら言った。
御者は馬車を走らせ、森の中に入っていった。逃げられないように頭にスリに使った魔道具をつけていた。
御者には、「逃げたらドカンだよ」と脅かしたら、「決して逆らいません。お許しください」と言ったので、「言うとおりにしたら外してあげる」と言った。
森の奥に大きな洞窟があった。出入り口には木の大きな扉がつけられ、見張りが立っていた。
「あそこがアジトです」御者が言ったので、「君先に行ってあの門番に話をしてきて。子供を連れてきたって」と言って、門番のところに行かした。
僕はこっそり洞窟の横手に回り、聞き耳を立てた。
「命令された通り、小僧を連れてきました」
「ああん、なんでお前が連れてきてんだよ!兄貴たちはどうした!」
「はい、兄貴は用事があるからお前が連れて行くようにと言われまして」
「ちっ、兄貴たち街に出たものだから酒と女を買いに行ったか。うまいことやりやがったな。おいガキはどうした」
「馬車に置いてあります」
「お前担いで親方のところへさっさと連れて行け」と言って門を開けた。
「ご苦労様」と僕は一言言って、後ろから二人の首を搔き切った。
御者に先導させて、洞窟の奥に入っていった。
しばらく進むと大きな広場に出た。
すると、御者は走って奥にいるでっぷりとした男のもとに行き、「こいつです。昨日仲間を殺したのは」と叫んだ。
周りには、沢山の人相の悪い男たちが僕を囲んでいた。
「御者の人、ご苦労様でした。もういいや、じゃね~」と言って、魔道具を暴発させた。
御者は頭の中から破裂して血と脳みそをまき散らしながら死んだ。
さて、次はこいつらです。
「呼ばれてきたのだけど、お茶の一つも出さないのかい?」
「おい、お前良い度胸してんな。ここがどこだか知っているのか」
「カストリ一家のアジトだろ」
「ほう、知っているのか。じゃ、もうここから生きて戻れないことはわかっているよな」とボスらしき男は嘲笑するように言った。
「ああ、お前たちがね」と言って、次の瞬間ボス以外の男たちを土魔法で土の槍で串刺しにしました。
「ほかにもいたら出ておいで。今のうちに僕を殺さないとこの洞窟全部焼くから、焼け死ぬことになるよ」とボスを縛りながら叫ぶと、矢が何本か飛んできた。
とりあえず矢の来た方向へ石の弾を何十発か打ち込んでおいた。
「さて、お宝や書類の在りか吐いてくれる?」
「誰がしゃべるか!」
「さすがボスだけあって威勢がいいね」と言って先ほどの魔道具を取り出した。
「それはさっきの」ボスの顔は引きつっていた。
「その通り。じゃ一つ目」その魔道具を頭に乗せた。
「やめろ、やめてくれ」
「次は右肩かな」
「ひい―」
「次は左肩」
「しゃべる、しゃべるから取ってくれ」
「あっそれ無理。一度食い込ませるともう一生取れないよ。じゃ次は……」
「お宝は奥の洞窟にある。他の物は右にある俺の個室の壁にかけている絵画の裏が隠し扉になっている。そこに重要に書類がある」
「じゃ、見てくるか。逃げてもいいけど、僕から離れるとちゅどんだよ」
そう言って、奥の部屋をのぞいてみた。
そこにはお宝がたくさんあったので、すべて次元袋に収納した。
他にないか土魔法で調べたが、特に何もなかった。
次に右側の部屋をのぞいた。こちらもお宝があり、更にいろいろに書類が置かれていた。とりあえず、ボスが吐いたところ以外も土魔法で確認したところ、机の下や宝物を入れた宝箱の下に隠し書庫があり、そこにも書類が入っていた。
さて、左側の部屋は何があるのかと覗いてみて、気分が悪くなった。
そこには裸に剝かれた女たちが鎖でつながれていた。半数以上は僕が入ってきても何も反応せず目を開けたまま寝ており、残りも壁の隅に寄って、僕のことをこわごわとみていた。
とりあえず、すべての鎖を切って、全員に体を隠せるぐらいの布を与えた。
死体とボス、女たちを回収すると、洞窟の入り口をふさいだ。女たちの足には死体から剥いだ靴を履かせた。
動けない者は馬車に乗せ、それ以外の者は歩いて、町に向かった。
とりあえず、魔道具で使節団に連絡して迎えに来てもらうよう手配した。これは遠距離通信に仕える魔道具で、鳥の形をした道具に手紙を入れて、送るようになっている物だった。最近、開発された魔道具で、余り遠距離には使えないがかなり便利な道具だった。
森に入ってゆっくり歩いていると、使節団の護衛達が迎えに来た。「いったい何をしているのですか!」筆頭護衛官が僕に詰めよってきたので、今までの事情を説明した。
「勝手に出歩かないでください。もしあなたに何かあったら、戦争ですよ」と言って、頭を抱えていた。
僕は素直に「ごめんなさい」と謝っておいた。
全員を馬車に乗せると使節団の屋敷に向かった。
とりあえず、女たちの状況を聞き取りした。彼女たちのうち、3分の2はさらった女たちで、残り3分の1が身売りされた奴隷扱いの女たちだった。
冒険者ギルドに確認すると、奴隷は他の財宝と同じく物扱いとなり、盗賊を潰して奪ったものは、奪った物の所有になるそうだ。つまり僕の所有物となる。
なお、不要ならば奴隷商人に売り出すことも可能だと言われた。
さらわれた女たちの家に確認したところ、8割の家は引き取りたい旨申し出があり、解放代を支払うと言ったが、2割は不要だから好きにしてくれと言われた。
いわゆる盗賊にさらわれていろいろされたので、家にとって商品価値がなくなった傷物には用がないとのことだ。
こちらも僕の所有物として認められ、奴隷となるとのことだ。
とりあえず不要と言われた彼女たちは僕の奴隷として登録した。
奴隷である彼女たちの身を清め、医師の診断を受けさせ、傷の治療や妊娠の有無を調べさせた。そして十分に栄養にある食事を与えた。
衣服も新調した。彼女たちはプルタークに連れて帰り、能力に応じて教育を与えて、自立できるよう助力するつもりだ。
甘いって?
僕は善人ではない。人を殺すことなど普通にするし、戦では味方も多く死なしている。
そんなことは貴族の家に生まれたら、仕方がないことだ。しかし、自分にかかわった人はできるレベルだが助けてもいいと思っている。まあ、その気になるときだけだが。
ちなみにカストリ一家のボスは冒険者ギルドが引き取っていった。かなりの報奨金が出た。一応受け取りをくれと言ったら、渋っていたが、こいつは僕を襲ってきたからわがプルタークで処分すると言ったら、領収書を書いてきた。
ギルドの連中は、宝物や書類について気にしていた。特に書類について、こちらに引き渡してほしいと強引に主張してきた。
しかし、こっちは外交特使だ。それはこちらで直接王政府とやり取りすることを言ったら、青い顔をして、言いつのってきたので、無礼だ、このことは王政府に伝えると言って拒否して追い出した。
その夜書類を調べると出てくる、出てくる。冒険者ギルトや奴隷商人との癒着、騎士団との癒着や貴族との関係、こりゃ女王にいい手土産になるなと思った。
その夜、何者かが襲ってきたが、こっちはすでに警戒済みで、護衛の騎士たちで数人を捕虜にしたほかは片付けてしまった。
翌朝謁見の日、僕は伯爵家嫡男としての服装と胸にはエリトリアからもらった勲章をつけて謁見場に向かった。
先に謁見の場に入り、女王を待った。
しばらくして、女王が入ってきた。
「私がこの国の女王、カロリーナ・アラゴンです。この度は我が国にようこそ」
「この度はいろいろの歓迎ありがとうございます。女王様には手土産がございます。ご覧いただければと思います」そう言って、昨日奪った重要書類の一部を渡した。
女王はこの汚い書類は何かといぶかっておられたが、目を通すと一瞬で顔が青ざめた。
何度も読み返すと、僕に向かって尋ねた。「この書類はどこで手に入れたのですか」
「この街を仕切っているカストリ一家と言いましたか。私を襲ってきたので返り討ちにしたところ、かなりの書類を手に入れることができました」
「あなたを襲ったって!そんな報告は上がっていませんが」
「ボスも捕まえて冒険者ギルドに渡したのですが」と言って領収書を渡した。
もう女王の顔は真っ青だった。
そりゃ外交使節団の団長を襲われたなんて、警備状況が疑われる。さらにこの書類には冒険者ギルドや騎士団、治安維持や統治に関する下級貴族たちと暴力組織の癒着がはっきり示されていた。とらえ方によっては、王国がわざとこいつらを使って襲わせたと考えても全然違和感のない状況だった。
「貴公はこれをどうするつもりだ」女王は震えながら聞いた。
「特に何も。これはすべて差し上げます。ただ、後始末をお願いしたい。実は昨晩夜襲を受けまして、そいつらの死体と生き残りも引き渡しましょう。あとは女王様にお願いできますか?」
「わかった。きっちりと処理しよう。貴公には感謝する」女王はほっとした顔で言った。
「さて、貴公の妻になる娘を紹介したい。デルフィナをこちらに」
一人の女の子が入ってきた。美しいドレスはふんだんに宝飾品で飾られており、髪は黒で容姿も整っている美しい女の子だった。
「初めまして。デルフィナと申します」その子は美しいカーテンシーで挨拶をしてきた。
「初めまして。私ジェームズ・プルタークと申します」と言って、貴族の礼を行った。
「ジェームズ?それにその声」
「ン?あれその声」二人は直接顔を合わせた。
「あ」僕は思わず指さした。
「あ」ジェミーも指さした。
「あ」僕は一歩近づいた。
「あ」ジェミーも一歩近づいた。
「あ」僕はさらに一歩近づいた。
「あ」ジェミーもさらに一歩近づいた。
「ジム?」
「ジェミー?」
「なんであんたがここにいるの?」
「僕、プルタークの嫡男。ジェミーこそ何でここにいるの?」
「私、女王の妹の娘」
二人は凍ったまま何も言えなかった。
「なんだ、貴公は姪と知り合いだったか」
「ええ、ちょっとしたことから」
「それは良い。明後日には仮の婚姻を結ぶこととなる。二人でお茶でもして親睦を深めるがよい」そう言って、女王は退出し、二人は王宮の中庭に導かれた。
そこにはメイドたちによりお茶とお菓子が用意されていた。
「びっくりしたわよ」
「僕もだよ」
「というか、プルターク伯爵嫡男といえば、エリトリアの戦いでも大活躍して、敵を皆殺しにした虐殺鬼の一人でしょ。それにプルタークと言ったら大の女好きの家系で、すでに正室がいるのに私を妻にするなんてと思っていたのだけど。そこから歴戦の傭兵のような大男でスケベな男だと思っていたの」
「確かにエリトリアで戦って勲章をもらったよ。でもお爺様やフィル、フィリップ・プリンディジだけど奴らに比べたら僕なんて全然凄くないよ」
ジェミーはため息をついて、「あのね、プルタークの恐ろしさ一番知っているのは私達アラゴンよ。何回もあなたたちと戦ってどれだけ被害を出したと思う?そして、その恐ろしいプルタークの中でも三鬼の一人と呼ばれているのがあなたなの。少しは自覚しなさい」
「うん、わかった。でも三鬼って言いすぎじゃない?本当に大したことないんだけどな」とぼやくと、ジェミーはあきれたように「まあいいわ。とりあえず私はあなたと結婚するから。仮の式を挙げて、あんたの国に行くわ」
「それなんだけど」ジェームズは言いにくそうに言った。
「もうすぐ戦争になる。パランクは内戦になるだろう。プルタークの土地も戦場になるかもしれない。君が単なるアラゴンの姫なら何の躊躇もなく連れて帰っただろう。しかし、ジェミー、君は別だ。死んでほしくない。できればこの国に残っていて欲しい。僕らが勝利した暁には必ず迎えに来る」
「……いや」
「……」
「嫌、絶対に嫌!」
「でも危険なんだ。今回はプルターク家の総力戦になる。お爺様もフィルも動員して、プルターク家の全戦力も動員される。母たちは我々が敗れた時には自決の覚悟を決めている。敵はリオン侯爵家とパランク王家、そしてアリア王国だ。勝てるかどうかわからない」
「あなたの正室はどうなるの?」
「彼女は僕と一緒に戦場へ行くことになる。元冒険者だしね」
ジェミーは黙ってしまった。
「私は弱いわ。あなたの足手まといになることはわかっているわ」そう言って抱き着いてきた。「わたし、アラゴンで待つわ。でも」そう言って僕にキスしてきた。僕もジェミーにキスをした。
「結婚したら抱いてもらうからね。一滴残らず私に注いでもらうから」と言ったあと、「お願い、生きて帰ってきて」
「わかった。僕は死なない」お互いの唇を合わせた。
明後日、結婚式は行われた。仮の式だが、僕とジェミーは幸せだった。
翌日、僕はプルターク領に戻った。船着き場にはジェミーことデルフィナが見送りに来ていた。
僕は姿が見えなくなるまで手を振った。
アラゴン王宮での会話
アラゴン王国女王、カロリーナ・アラゴンは椅子に寄りかかりながら、ため息をついていた。先ほどプルターク伯爵家嫡男であるジェームズ・プルタークと会ってかなり緊張を強いられていたからだ。
外見は子供なのだが、幾多もの戦場を駆け抜けて生き残った風格があり、その眼光は鋭く、気を抜けば殺されるのではないかという恐怖があった。
さすがはプルターク三鬼の一人であると内心恐れいていた。
「女王、大丈夫ですか?」側近の一人が心配そうに問いかけた。
「ああ、問題ない」
「しかしよかったのですか。プルタークに姪御様を嫁がせても」
「ああ、これが最善だ。なんせ我が国の現状は西をカスティーリャ王国、南をグラナダ王国に囲まれており、特にカスティーリャ王国は我が国との関係が悪化しているからな。北側の国境を安定せしめることはとても重要だ」
「しかし、プルタークは今まで何度も戦った相手、現に兄君も弟君もプルタークに殺されているではないですか」
「戦での殺し合いは当たり前であるし、打ち取られた兄上も弟も丁重に遺体を返却してきた。プルタークは騎士道をわきまえている傑物だ。しかし、おかげで私が父の跡を継ぐことになってしまったがな」
「心中お察しいたします」側近は悲しそうに言うと黙ってしまった。
側近たちは、カロリーナが王位を継ぐため、女が王位を継ぐことに反対の貴族を粛正し、外国からの干渉を排するため、後のすべての幸せを捨てた女王に対して、同情をしていた。
「まあ、姪もジェームズ・プルタークのことを気に入っているようだし、うまくいけばカスティーリャ王国との戦いの際、プルタークに助力を依頼できるかもしれないしな」
「しかし、姪御様はあのプルタークとどうやって知り合ったのでしょう?」
「私も分からない。デルフィナに尋ねたら、顔を赤らめて「運命です」と言っていたな」と苦笑しながら言った。
「まあよい。デルフィナを人質にプルタークに送るつもりだったが、後日迎えに来ると言って置いていったからな。あっちに何かあっても姪が死ぬことがなくなった。パランク内部もきな臭いし、しばらく様子を見よう」そう言って、女王は執務室へ向かった。
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