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53 プルメリアの花咲く丘で、もう一度あなたとキスをする。☆

 夕食のあとお風呂を済ませて、みんなはリビングでカードゲームに興じています。


 イワンは輪に交じらず、窓辺の椅子に座って読書しています。

 イワンが髪を解いているところを初めて見ました。

 肩甲骨につくほど長い紺の髪は、しっとり湿り気を帯びています。

 体格ががっしりしているわけではないけれど、それでもちゃんと男の人ってわかります。


「どうした?」

「イワン、みんなとカードしないんです?」

「ローレンツは自分が勝つまでやめないから嫌だ。徹夜で相手をやらされたこともあるんだぞ」

「幼馴染って大変なんですね」


 イワンは窓の外を指差して、視線だけ私に向けます。


「ここからプルメリアが咲いている丘まで歩いて行ける」

「ほんとですか!? 行きたいです!」


 ミーナ様に「散歩してきます」と、ひと声かけて、二人で外に出ました。

 

 イワンが光玉ウィルオウィスプを喚んで、明かりにします。ふわふわと浮いて追従してくるかわいい光です。


 手を引かれて夜道を歩くこと十五分。

 だんだん甘い香りが漂ってきて、低木が並ぶ花畑に到着しました。


「きれいですね」

「ああ」


 イワンは服が汚れるのも構わず、地面に座りました。とんとん、と横を手で叩くのでそこに腰を下ろします。


 しばらくの沈黙のあと、イワンが口を開きます。


「あの日、どうしてオレを助けようと思った? 好かれるようなことをした覚えがないんだが」

「たしかに意地悪しかされてませんでしたね。でも、どうしても助けないとって思ったんです。私のために危険を承知で来てくれたから」


 納得したのかしてないのか、イワンは横目で私を見ます。


「もう一つ。ずっと疑問だったんだが、口づけで魔力を渡すなんてどこで知った。学院で教えることじゃないのに」

「あ、それはセシリオ様が」


 言いかけて、しまったと思いました。

 肩を押されて、視界が一面空になる。同時にイワンが私の手を掴んで押さえ込みます。


挿絵(By みてみん)


「セシリオが、なんだ?」


 瞳は金色。普段隠している翼まで出ていて、すごく、怒っているのがわかります。


「お、怒らないでください。イワンと婚約する前の話です」


 これはちゃんと説明しないと、取り返しがつかなくなってしまいます。


「私が治癒魔法を使って倒れた日、覚えてますか? あの日の帰り際、セシリオ様が『二番目に効率がいい魔力回復方法を教えてあげよう』ってキスしてきて……。そ、その一回きりですよ!?」


 私だって、もしイワンが知らぬ間に他の女の子にキスされたら怒ります。

 イワンの怒りはもっともなんですが、怖いです。


「ふん、なるほど、間接的にセシリオに助けられたわけか。あのときは、手を介しても回復しないくらい消耗していたからな」


 わかってくれたのは良かったですが、私の体は地面に押さえつけられたままです。


「事情はわかったが、気に食わないのは確かだ」


 イワンが屈んで、私の耳に、首筋に舌を這わせる。あたたかな感触とプルメリアの甘い香りでクラクラします。


「そ、それを言うなら、イワンも私に従属魔法、かけようとしたことがあったでしょう? あれ、他の人にもやったことありますか?」

「ないな。大抵は魅了術で操れるから。アラセリスだけ魅了術が効かなかったから、上位互換の従属術を試したのに効かない。聖属性だからだってあとでわかった」


 こともなげに言われました。

 聖属性……治癒魔法を使える人はこれに属します。

 主に魔族が使う闇魔法に耐性があって、戦争のとき盾として重用されたと魔法史で習いました。


「じゃあキスの魔法を試そうとしたのは私が初ですか。それで私のファーストキスは奪われたわけですか」

「相手の魔力を奪い、同時に魔法をかけられる。夢魔にとって利点しかない魔法なんだって祖父さんが言ってたな」


 価値観の違いというのを感じます。道理でなんの躊躇いもなくしてきたわけです。


「ファーストキスだったのか」

「大丈夫。私が合意してないのでノーカウントです」


 息ができないくらいに、深く口づけられました。

 イワンはいたずらっ子の顔で舌なめずりする。


「これも、していいって言われてないならノーカウントなわけだな」

「うぅ……ずるいです」  


 恥ずかしくて、顔が燃えてしまいそうなほど熱いです。


「合意します。どんとこいです」


 イワンは笑って、瞳を閉じる。

 最初に降り立ったあの日とは、全く違う関係になった私たち。

 この場所で、私はもう一度あなたとキスをする。

挿絵は管澤捻様です。ありがとうございます。


明日も19:00ころ更新!

53話はムーンライト版だとR18シーンになっています。

大人な展開はムーンライト版でお楽しみくださいませ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「合意します。どんとこいです」 思わず笑ってしまいました! イワン様のヤンデレ気質も、セリスちゃんの懐の深さで包み込んであげられそう!(*'ω'*)
[一言] いや、もう……私もこんな恋愛譚書いてみたいって本気で思うくらい素敵すぎる( ´∀` )
[良い点] プルメリアの花に囲まれて‥‥ もう一度…。 素敵ですv イラストもすてきです(●´ω`●) 殿下の名前が出たとたん、悪魔化。 あとで間接的に助けられとはいえ、殿下、イワンたまにめちゃくち…
2022/08/04 20:11 退会済み
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