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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第六章「命名!」
30/47

 

 かくしてわたしの趣味全開のコラム


「Ritaの情況開始!」


 は連載を始めた。

 第一回目は表紙の一部と、見開きと大々的に取り扱われた。

 編集の方はどうだか判らないが、自分としては戦々恐々な心境でその反応を待った。

 内容としては第一回目とあり、まずは私のマンションにある、あのいきすぎたコレクションの紹介から幕を開ける。

 もともと誰かに見せる為にあのような陳列にした訳では無く、なかにある貴重な模型を保護する為の陳列だったのだが、編集の方の評判は悪くなかった。

 ま、私の人となりを簡単に理解してもらうにはリビングの紹介はマストだろう。

 コラムと言っても、小難しい事を書き連ねる訳ではない。文字より、写真の割合が多いい構成となるので、今風に言えばブログ感覚というか、動かないVLOGといったところだろう。

 私自身、文章の作成など殆どしたことがないので、大変助かるし、それに軍事を扱うとなるとどうしてもその文面は固いものとなる。

 しかしそこは文章のプロが集まる雑誌編集部。

 私の固い文章。解りづらい専門用語などは、柔らかく、注釈などを加えて、軍事雑誌や模型雑誌のように技術書のような難解さや取っ付き難さは極力排除されていた。

 なんというか、写真さえなければ、本当にモデルの日常を切り取ったような感じだ。

 戦艦大和の模型でさえ、なにかファッションアイテムに見えてきてしまう。

 不思議なもんだ。

 とはいえ、このような誌面作りは従来の軍事マニアからの指示は受けづらいのが難点だ。

 私が危惧するのはその点で、これは実際に蓋を開けてみないことには解らない。

 そして遂に、その誌面は野へと放たれた。

 実際に市場に出てからというもの私が思うような、そちら方面(硬派な軍事マニア)からの反応というか反感は無いに等しい感じだった。

 個人的には意外な感じがした。まぁJ&Jの読者層であればその様なことは杞憂だったのかもしれない。

 むしろ、私のコレクションの扱いに称賛のお声を多数頂いた。大変ありがたいことだ。

 まぁ、ファッション雑誌にいきなり『超弩級戦艦』が出てくる訳だ。

 どうやってJ&Jの誌面に目を通したのは不問としても、世の男性方はビックリしたかもしれない。

 しかもそれを取り扱ってるのが、ファッションモデルときたもんだ。

 そのインパクトは絶大極まるものだったろう。

 私流に例えれば


 チャンネルダッシュ


 の様なもんだ。

 華麗にドーバー海峡をすり抜けたかどうかは解らないが、その滑り出しは好評と言って差し支えは無いだろう。

 ちなみにタイトルの「Ritaの情況開始!」は大城さんの弟さんによるアイデアである。

 自衛隊で使われる用語ではあるがそこの所は大目に見て頂きたい。


 

 某月某日・海外某所



「あんれ~。リタ先輩じゃないですか~」

 リナの声がしたので思わずそちらに顔を向けた。

 本日、というか多少強行なスケジュールではあるが海外ロケに来ている。

 場所は南方とだけは言っておこう。まだJ&Jの販売日前なので場所は秘匿事項だ。ご了承願う。

「コラムの連載おめでとうございま~す」

 相変わらずの語尾を嫌味たらっしく伸ばす口調は何かカンに触る。

 その言葉にのせて彼女は前屈みに。

 私は浜辺に座って、束の間の余暇を味わっていた。

 眼前に彼女の顔が…。


 と、いうか何と言う格好だ!!


 軽くアップにされた髪型。

 モデル特有のスッとした顔立ち。

 その下に続くダイナマイトな胸元。

 いやいやいやいや!破廉恥極まりない!

 ビキニとはどういうことだ!

 ビキニといえば「戦艦長門」しかない私の頭にリナの胸元にある二連装40センチ砲が眼にぶちこまれる。

 理性という装甲が歪むその官能的な誘惑。

 女性であることを一瞬忘れそうになる。


 超弩級の迫力


 ふ…。いいだろう。そちらがその気なら受けて立とうじゃないか。

 と、思ったが私の胸は精々、駆逐艦クラス。勝ってるのは身長位だ。

 つーか、なげーだけってタンカーかよ。

 いや、別にタンカーを蔑視している訳ではない。物資輸送は経済の要。国力は安定した輸送力に支えられている。

「はーぁ」

 ため息のような吐息のような、何だか人様の気持ちをモヤモヤさせる息を抜きながらリナは立ち上がる。

 私はそれを横目で追ったが、またしても破廉恥な下半身が目に入る。

 パレオを巻いているが、それは透けていてまるでその役目を果たしていない!

 く、くそっ。見てはいけない。

 しかし、そう思えば思うほど理性のバイタルパートは軋む。

 一瞬、一瞬なら。

 グフッ!

 だめだ、弾着イマ。目標捕捉。誤差修正。白針合致。諸元入力ヨシ。

 このままでは私は鼻から流血しかねない。

 被弾。火災発生。ダメコン不可。総員上甲板。

 もう、単語しか浮かばない。


「あの、リタ先輩…」


 彼女の口調が珍しく神妙だ。

 それで我に返る。

「戦争があったんですよね。ここで」

 その言葉を受け立ち上がる。

「そう」

 と、私は一言答えた。

 彼女の横顔は普段の我儘な表情とは違う。

 もの悲しげで、過去に起きた悲劇を憂いてる感じだ。

 夕陽がリナの顔を染め上げる。彼女の視線は海原の前の先にある水平線を見つめていた。

 私も視線を重ねる。

 ここではかつて血みどろの戦いが繰り広げられた。

 海に、山に、野に。

 幾多の犠牲の基に私達の今があるのだ。

 本能的に彼女はその事を悟ったのかもしれない…。


 以上


 本日は定例会の日だ。私は例の如く会合地点であるファミレスの前に立っていた。

 小川さんのメールの内容から私のコラムに関しての言及は無かった。

 これが嵐の前の静けさとならなければいいが、なにか変な緊張感の中に私はいた。

 三人は程なく集まり、特に言葉を交わす事なく、入店した。

 いつもの窓際の席、そこに通された。銘々がそれぞれの場所に座ると、小川さんが口を重そうに開いた。

「ところで隊長これ知ってる?」

 と、言って私にスマホの画面を見せてくれた。

 そこには、とあるモデルのSNSが炎上しているというネットニュースの記事だった。

 その見出しを見て、雑誌◯の入っていた茶封筒が私の手から滑り、テーブルの上に落ちた。


「人気モデルリナ、戦争賛美か!?SNS炎上!」


 私の脳裏に南方での彼女の、もの悲しげな横顔がフラッシュバックした。

「どうして…?この娘何言ったの?」

 私は慌てて自分のスマホを取り出し、彼女のSNSを確認した。

「どの記事よ」

 もどかしく画面をスクロールしていく、その中で異様な雰囲気を放つ投稿を発見した。

 そこには私達が撮影をした景色の画像があり、彼女の呟きが添えられていた。


「こんなに綺麗な所で戦争があったなんて信じられない」


 と、あり。それ自体の投稿は問題ないように思えた。しかし、コメントに。

「米軍に追い詰められた日本人はこの崖から飛び降りたんだよ」

 と、あった。

 それに関してリナは返事をしていた。

「なにそれ?わからない!」

 と。

「ちょ、こんな曖昧な書き方したらどうとでもとれるじゃない?!」

 私は崩れ落ちるようにシートに腰を落とした。確かに彼女の普段の態度。私に対しては褒められたものではない。

 が、しかしである。それにしてもこの様な受け答えを公然とするほど彼女も迂闊では無いはずだ。

「隊長、ロケはサイパンだったんだナ」

「そう」

 小川さんの問いかけ力なく答える。

「んぁ。バンザイクリフって知らないで写真撮ったんだな。まあ、自然と鎮静化するのを待つしかねぇな」

 既にシートに座っていたカネコさんはそう言って頬杖をついた。

「…。だといいけど、モデルは無垢なイメージが大事な世界だから…」

「んぁ。そうか、仕事に影響がでるかもって事か…」

「シビアな世界だナ」

「そうなのよ…」

 思いのほか重たい空気に包まれた私たちの座るテーブル。

 本来であればライバルの失態は好機となるのだが、私としては釈然としない。

 それはやはりあのサイパンの浜辺で見た彼女の横顔だ。

 その日の定例会は何か、リナの件もあってか?私は心あらずの状態で幕を閉じた。

 次の日の仕事は偶然にもJ&J編集部での打ち合わせだったが、打ち合わせもそこそこにリナの話題は当然の如く出てきた。

「まぁ、時間が経てば沈静化するとは思うけど、その後何も影響がなければいいのだけど…」

 久我山編集長の口調もこの事に関しては湿りがちになる。

「ですよね」

 私も力ない返答を返した。

「私も迂闊だったわ。あのロケ地はまさか戦争中にあのような事になってたなんて知らなくて…。リタちゃんはやっぱり知ってたの?」

「ハイ…。通称バンザイクリフって呼ばれている有名な岬ですから…。実は慰霊碑とかもあって」

「そう…」

「すみません」

「ううん」

 彼女は首を左右に振る。

「雑誌の方にはなにか影響はありませんでしたか?」

「こっちの方は幸い何も影響はないわ。発売後に彼女のSNSは炎上したから」

「そうですか」

 私はとりあえず胸を撫で下ろした。

「何とかならないかしらね」

 久我山編集長はため息交じりにつぶやいた。

「やっぱりほとぼりが冷めるの待つしか」

「それと一緒に彼女のモデルとしての熱も冷めてしまったら元も子もないわ。でもね」

 彼女は言葉を続けた。

「こういうとアレなんだけど、似たようなポジションのモデルが似たような事でなにかやらかして話題になれば彼女の話題は一気に廃れると思うの」

「あー。成程、大衆扇動ってやつですね」

「リタちゃん随分固い言葉知ってるのね」

「まぁ、根がミリタリーマニアなんで」

「そう。うふふ」

 久我山編集長に笑顔が戻るが、その表情はどうも上部だけの気がしてならない。

 

「ここが彼女の正念場かもな」

 

 マネージャーさんが帰りのエレベーターの中で呟いた。

 リナの事と思うが、その表情はどこか憂いを帯びていた。


 その日の仕事を終え私は日課の半身浴をしていた。

 時間潰しの為に手に取った本は大衆扇動をテーマとした本で、戦時中であればプロパガンダと呼ばれる。

「はぁ~~」

 しかしというか、やはりというか、ため息しか出ない。

 私如きが頭を捻ったところで妙案なんか出る訳ない。

 と、いうか私が何か言ったところでリナは受け入れるだろうか?そこのところが甚だ疑問ではある。

 溢れ出た汗を流す為にシャワーを頭から浴び、己の無力さを感じつつもそれが流れるのを少しボウっと見ていた。

 浴室には虚しくシャワーの音が響く。

 己の無力さを悟ったとき。将兵達はどの様にしたのだろう。

 航空機の先見性を見抜き、世界初の機動部隊だけによる作戦を実行した山本五十六は、ブーゲンビルの上空で何を思ったのだろう。

 南アフリカ戦線でひたすら敵を追い求めたエルヴィン・ロンメルは砂漠の中で、伸びきった補給線を前に何を思っただろう。

 いや、彼らは純粋に可能性を追い求めただけだ。

 自分の軍ならここまでできる。ここまでやれる!そういった熱意が戦地において勝利という誘惑に惑わされ、判断を鈍らせた。

 帝海の博徒も砂漠の狐も己を信じたゆえの結果なのだ。

 慢心、過信の謗りをうけるだろうが、それらは後世にどのような形で語り継がれるかによるだろう。

「ふうっ」

 風呂上りに水道ではあるがコップ一杯の水を煽って一息ついた。

 食道から胃に冷たい感触が残るがそれはやがて消えた。そして寝た。

 それから数日経ったであろうか?リナの炎上騒ぎをよそにファッション雑誌J&Jは普段よりも好調な売上を示したらしい。

 その、良いことか悪いことかは置いておき、彼女のSNSが発端となり、あの岬の事が気になり購入する読者が多いとの事。

 そして、リナの事を擁護する意見がチラホラと見え始めた。

 主に戦争とかに興味や関心が薄い読者かと思われるが、大多数の意見がやはり「あのような綺麗な景色の中で戦争があった事が信じられない」という旨だ。

 やはり、そう思うのが普通であろう。

 無論彼女はSNS上にて謝罪はしている。自分の無知から引き起こされた出来事として。

 それから更に時間は流れた。彼女のSNSはすっかり普段の落ち着きを取り戻していた。

 炎上の原因となった記事は削除されてはおらず、一連の流れはまだ、見る事はできる。

 特に何をした訳でもなく事は収束へとなった。

 国民性なのか?それが大衆心理なのか?過去に米軍が日本を分析したように、熱しやすく冷めやすい日本人の国民性に変化はないようで、この事は世間からの記憶から消えようとしていた。

 誰しも過ちを侵す事はある。それが自分自身の力で取り戻す事ができるのであれば、それに越したことではないが、時と場合。立場によってはその過ちはとんでもなく膨れ上がり、歯止めは効かなくなり、極端な場合は国家存亡の危機を招きかねない。

 しかしそんな途方のない過ちでも、先ずは認める事からはじめるのは言うまでもないだろう。

 まぁ、後日談だがこのような事があろうと、リナの高笑いが現場から消える事はなかった。

 

 流石。辻正信、転んでもただでは起きぬ。


  以上。


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