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「ちょっと地味で気が付きませんでした~。スミマセ~ン~」
見下ろされるのと、瞳の奥から感じ取れる明らかに人を見下したその態度から、私に対する敵対心でムンムンだ。
揚げ足をとられぬよう注意せねば。
ここは今正に、大和型戦艦の士官室と化した。あの忌まわしい大和型戦艦の二つ名
大和ホテル
武蔵屋旅館
それを名付けたのは陸軍の将校であるのは余りにも有名な話し。
彼女は正に私にとっては招かれざる客なのだ。
「あー。編集長なら今ちょっと別件で編集部にいますよー。リナさん」
彼女の後ろから大城さんが話しかける。
「いやーん。居たなら言ってよ~大城っちぃ~」
男性を見るや否やの猫撫で声。この私が毛嫌いする女性の正体は別に陸軍の作戦参謀ではない。
彼女もれっきとしたファッションモデルなのだ。
あまり彼女を擁護する気はないのだが、彼女だって現場や仕事中はキチンとした言葉使いに、モデルらしい振る舞いはする。
しかし、仕事が終わると一変。まるで何かの呪縛から解き放たれるようにその容姿は変わり果てる。
前にも言ったが「J&J」は少し落ち着いた女性に好まれる様な紙面作りをしている。
彼女だって当然その方針には従う。しかし。モデルがしたい好きな個人的なファッションと仕事で行うビジネス上のファッションは全くの別物だ。
彼女が今している着こなしは明らかにJ&Jの意に沿うものではなく、趣味と好みを全開にしてごった煮にした感じだ。
しかし、仕事であるからには割り切る必要があるので彼女は仕方なくそれに従う。
更に加えて、私と芸名が似たりしているもんだから、世間の評価として比べられるのは当然であり、元来プライドの高い人種が多いアパレル業界において、自然とライバルというか、仮想敵というか、兎に角彼女にとって私という存在は目の上のタンコブになってしまう。
我々風に要約すると、陸軍からして見ると何もせずにプカプカと港に浮いている戦艦のような物。
私は彼女にとって「大和ホテル」のような存在なのだ。
事あるごとに私に突っかかってくるが、私自身は何も思ってはいない。
しかし、降りかかってくる火の粉は払わねばならない。
そういう事だ。
「先月号~、大城っちがしてくれたコーデェ~。SNSにアップしたらぁ~、イイネがいー…っぱい付いたよ~。えへへ~~」
「そうっすか。そりゃどうも」
ゴリゴリ押してくるリナに大城さんも少し困った表情を浮かべる。
私の中で少し遊んでそうなイメージのある大城さんですら彼女の行動は制し難いものなのか?
「ウウンッ」
私は咳払いをした。
それでイチャイチャとした雰囲気が萎えた感じになる。リナは私の方に首だけを向け、一瞬、憮然とした表情を露にするがすかさず表情を直し。
「先輩。風邪っすかー?」
と白々しく聞いてきた。
「この部屋乾燥してるからかな?喉がちょっとね」
私はワザとらしく喉の辺りをさする。
「無理しないで下さいね~。なんなら来月号のJ&J。私がリタさんの穴埋めますよ~」
と、彼女が言った時。大城さんが彼女を押し退け
「リタさんすんません、今加湿器用意します!」
そう言って一人の女性スタッフに目配せをした。
その合図を受けた彼女はスッ飛ぶように会議室から出ていった。カタパルトから射出される零式水偵か?と、いわんばかりに。
その様子にしばし呆然とするリナ。しかし気を取り直し。
「じゃ、じゃぁ私、次の仕事の打ち合わせあるから」
と、言いながら彼女は私達のいる会議室を後にした。
「ふぅッ」
大城さんが大きい溜息と一緒にパイプ椅子に腰かける。
「大丈夫ですか?」
私は少しうつむき加減の大城さんに話しかけた。
「大丈夫ッス」
と、彼は言うと片手をあげた。気のせいか?少しやつれた感じにも思える。
まぁ、年下とはいえモデルの扱いは慎重にならざるを負えない。
何かあったらそれは下手をすると雑誌の生命線に関わるからだ。
人気モデルの確保はそれだけ難しい。編集部としてはオファーを出してもそれを受け入れてもらわなければ意味はない。
そう、それはまるで戦地に送り込まれる最新の兵器の様に。
形勢を有利にし、戦線を維持する為にはそれが例え扱いにくくても何とかしなければならなのだ。
事に人的資源の確保は容易ならざるを得ないところがある。
我々モデルというのはそういう立ち位置でもあるのだ。
以上。




