079 やがて伝説となる物語
2015. 12. 27
拓海と明良が帰り、落ち着いたウィルバートは、今日中に終わらせなくてはならない執務を処理すると、真っ直ぐに再び図書室へと向かった。
「リズ。根の詰め過ぎは良くない」
日も落ち、明かりが灯された図書室の中。未だ理修は多くの本を机に広げ、研究に没頭していた。
「あ、もう夜?」
「そうだな。気付かなかったのか?」
「ええ。そういえば、お腹が空いたかも……」
「……理修……昼食は摂ったか?」
「う〜ん……今はもう夜なのよね?」
「……食べていないんだな……」
「夜になってしまったのなら、そうなるわね」
「……」
理修自身、集中していたので全く気にならなかったのだ。そういえば、喉も渇いたなと今になって自覚している。
ウィルバートの呆れ顔を見て、さすがに理修も気まずく思い、素直に謝る。
「……ごめんなさい……気を付けるわ……」
「あぁ、私も気付かなかったのが悪い。こうなると予想は出来た筈だからな」
「……」
理修が研究に没頭する傾向があるのは、ウィルバートも理解していたのだ。
「これから守護の魔女となるのだろう?無理は禁物だ」
「そうね……でも、あちらにばかり気を向けるつもりはないわ」
理修はこの国の王妃であり、夫であるウィルバートを支えるのが本当の役目だと自負している。
ウィルバートにもそれは充分すぎるほど分かっていた。
「勿論だ。私の隣に居てくれなくては困る」
「ふふっ、もう少しわがままになってくれると嬉しいんだけど?」
ウィルバートはあまり自分の為の願いや言葉を口にしない。それが、理修には少し心配だった。だから、少し冗談のように笑みを見せたのだ。
「そ、そうだな……っ」
動揺し、目を逸らす。頬を恥ずかしそうに赤らめた珍しい表情を見せるウィルバート。
出会った頃は表情が乏しく、声音さえ常に変わらなかった。だが、理修と出会い、しだいに優しさや苛立ちを見せるようになり、笑顔を見せるようになった。
それでも、まだまだ今浮かべている理修が嬉しくなるような表情は、他の人の前では見せない。
「ウィル」
「っ……」
早く言ってくれと、そう急かして名前を呼んだ。
「っ……わ、私の事もちゃんと想ってくれ……っ」
ウィルバートは気恥ずかしそうにそう言って、それでも最後は理修の顔を真っ直ぐに見た。
その瞳から、これが本心なのだと伝わる。
理修は嬉しくなって、ウィルバートの胸に飛び込んだ。
「勿論。ずっと、いつだって想ってるわ」
「リズ……っ、私もだ……」
この先、どんな事があっても、この想いは変わらないだろう。そして、何十年、何百年だって傍に居続ける。
これは確信だ。
世界を見て来た理修には、絶対などないと分かっている。
けれどこれだけは言えるのだ。それは決して盲目的なものではなく、確約された世界の決定事項。
未知数な可能性を秘めた未来ではない。
「傍にいるわ」
「あぁ。隣にいてくれ」
それは誓い。
これから長く、永く続くこの国の王と王妃の永遠に忘れる事のない誓約。
この先、国がどんな危機的状況に立たされたとしても、理修はウィルバートを支え、守り抜く事になる。
『伝説の魔術師の孫』
そう囁かれていたものはやがてこう変化していく。
『最強の魔女王』
最も強く、美しく、魔王を愛し、愛された最強の魔女。
その伝説は、いつしか祖父であったリュートリールと並び、多くの者達が知る物語となり、永遠に語り継がれていく事になるのだ。
◆◇おわり◇◆
読んでくださりありがとうございます◎
これにて本編を終了とさせていただきます。
お付き合いいただきありがとうございました。
まだまだ、それぞれのこの後をお見せできていないので、ラスト一回。
第80話でリポートする予定です。
ただし、投稿は再来週の1月10日頃を予定しております。
よろしければご覧ください。
それと、これも予定ですが、このトゥルーベルを舞台とした新たな物語を、いずれ書いていくつもりです。
リズちゃんもウィルバートも、ザサスさんも登場するこの時代から数百年後の物語を予定しております。
またその時が来ましたら、覗いてみてください。
では、読んでくださった皆様に心からの感謝を◎
ありがとうございました。
紫南




