表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/80

071 母子の時間

2015. 11. 1

兄弟が神殿と呼ぶ場所は、正確には城の地下にある祈りの間と呼ばれる場所だった。


そこには、一人の小柄な女性が、祭壇の上に輝くクリスタルへと一心に祈りを捧げていた。


足音が聞こえたのだろう。女性はゆっくりと頭を上げ、その祈りの姿勢を解くと、二人を振り返った。


「ユウキさん。久し振りですね」

「はい。母上。お変わりありませんか?」

「ええ。司さんは……」

「父上は、明後日にはこちらへ来られるかと思います」

「そうですかっ」


パッと花が咲くように笑みを浮かべ、仄暗い部屋の中でも分かりそうなほど頬を染めた母親に、二人は苦笑する。


そのまま、兄弟は母親を伴い、神殿を出ると、お茶でもしようという事になり、この城で最も心地の良いテラスへと向かった。


落ち着いた所で、ユウキが今回の用件を切り出す。


「今日は、母上の答えを聞きに参りました」

「ユカコお義母様のパーティでしたね。いつまでもこの世界に留まっていてもいけません……出席させていただきます」

「っはいっ」


ミリアは、長くこの国を護り、聖女として生きてきた。その為、何度か地球へと渡る話が来ても、国を空ける訳にはいかないと断っていたのだ。


「母上も融通がきかない。この国も今や安定しています。母上や私が留守にした所で、どうにかなるような事もありませんよ」


ミリアと民達で一から再興したこの国は、たった数十年で国としての姿を取り戻した。それは、冒険者達の力が大きいだろう。そして、何より、隣国である魔族の国の支援があってこそだった。


「そうですね……王となったあなたは、昔と変わらず冒険者をしているようですし」

「……っ、く、国の現状を見るのは、王として必要な事だと、リズ様やウィル様も仰っておられますっ」

「兄上はあの方々とは違うでしょう……まったく、落ち着きがない……」


母親と弟の二人に呆れられ、王である兄は目をそらした。


「そう言われても、あの方達が私の手本なのだ。国も、もっと盤石なものにしなくてはならん。そうでなくては、ウィル様達に申し訳が立たない」


この国の歴史を理解し、愚かであった頃の姿を見つめ直すのは、新たな世代として生まれた彼にとっては難しい。だが、幼い頃から世界を見る機会に恵まれた彼は、それを容易いものとしていた。


若き王として立った彼は、国を愛し、民を愛し、愚かであった過去のこの国さえも受け入れている。


「そうですね。確かに、兄上の仰る事も正しい。上に立つ者として、あの方々は素晴らしいお手本です」


特に、ウィルバートの人柄や、民達に慕われる姿を知っている兄弟には、同じ男としても憧れずにはいられなかった。


「ええ。あなたも、隣で支えてくれるステキなお相手が見つかると良いのですけれど」

「「えっ……そっちですか……」」


兄弟達の声が重なる。どうやら、ミリアにとっては、ウィルバートと理修の夫婦の姿の方が、憧れの対象のようだ。


「母上……私にはまだ少し早いかと思います。いずれ、考えさせていただきます……」


国の為にも必要だとは分かっているが、どうにも踏み出せない事だった。だが、ミリアも急いている訳ではない。


「構いませんよ。あなたが納得するお相手を見つけてください。血がどうのとこだわる必要もありません」

「母上……」


ミリアの表情には、慈愛が満ちていた。国としては、新しく生まれたばかりの存在だ。だからこそ、他の国がと、こだわる必要はないと考えている。


「凝り固まる事が、どれ程異常で、愚かな事か……私達は知っています。だから自由に。多くの民達が、自由な意思を示せるように、あなたがお手本にならなくては」

「……はい」


後に、冒険者の王が治める国として発展し、大きな国となっていく事になる。


『ディオリュート王国』


偉大な魔術師が見守る国。


その国の王の名はアルマ・ディオリュート。アルマとは古代語で『調和』の意。


彼は勇者であった司と、聖女ミリアの息子だった。


「明良さん達は、あの国へ着いたでしょうか」


ユウキがふと思い出したようにそう言ってサンドリュークの方へと目を向けた。


「どうかな。明良さんも拓海さんも、この世界が好きだから、今頃はまだのんびり散策しているかもな」

「ふふっ、良い天気ですものね」

「そうですね」


心地の良い陽気の中、母子は揃って雲一つない空を見上げ、彼の国へと向かった二人を思うのだった。

読んでくださりありがとうございます◎



息子達は二人とも良い子達です。

兄が王。

では弟は……これはいずれまた。

次はリズちゃんの方を覗いてみたいと思います。



では次回、また来週(日曜日0時頃)です。

よろしくお願いします◎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ