071 母子の時間
2015. 11. 1
兄弟が神殿と呼ぶ場所は、正確には城の地下にある祈りの間と呼ばれる場所だった。
そこには、一人の小柄な女性が、祭壇の上に輝くクリスタルへと一心に祈りを捧げていた。
足音が聞こえたのだろう。女性はゆっくりと頭を上げ、その祈りの姿勢を解くと、二人を振り返った。
「ユウキさん。久し振りですね」
「はい。母上。お変わりありませんか?」
「ええ。司さんは……」
「父上は、明後日にはこちらへ来られるかと思います」
「そうですかっ」
パッと花が咲くように笑みを浮かべ、仄暗い部屋の中でも分かりそうなほど頬を染めた母親に、二人は苦笑する。
そのまま、兄弟は母親を伴い、神殿を出ると、お茶でもしようという事になり、この城で最も心地の良いテラスへと向かった。
落ち着いた所で、ユウキが今回の用件を切り出す。
「今日は、母上の答えを聞きに参りました」
「ユカコお義母様のパーティでしたね。いつまでもこの世界に留まっていてもいけません……出席させていただきます」
「っはいっ」
ミリアは、長くこの国を護り、聖女として生きてきた。その為、何度か地球へと渡る話が来ても、国を空ける訳にはいかないと断っていたのだ。
「母上も融通がきかない。この国も今や安定しています。母上や私が留守にした所で、どうにかなるような事もありませんよ」
ミリアと民達で一から再興したこの国は、たった数十年で国としての姿を取り戻した。それは、冒険者達の力が大きいだろう。そして、何より、隣国である魔族の国の支援があってこそだった。
「そうですね……王となったあなたは、昔と変わらず冒険者をしているようですし」
「……っ、く、国の現状を見るのは、王として必要な事だと、リズ様やウィル様も仰っておられますっ」
「兄上はあの方々とは違うでしょう……まったく、落ち着きがない……」
母親と弟の二人に呆れられ、王である兄は目をそらした。
「そう言われても、あの方達が私の手本なのだ。国も、もっと盤石なものにしなくてはならん。そうでなくては、ウィル様達に申し訳が立たない」
この国の歴史を理解し、愚かであった頃の姿を見つめ直すのは、新たな世代として生まれた彼にとっては難しい。だが、幼い頃から世界を見る機会に恵まれた彼は、それを容易いものとしていた。
若き王として立った彼は、国を愛し、民を愛し、愚かであった過去のこの国さえも受け入れている。
「そうですね。確かに、兄上の仰る事も正しい。上に立つ者として、あの方々は素晴らしいお手本です」
特に、ウィルバートの人柄や、民達に慕われる姿を知っている兄弟には、同じ男としても憧れずにはいられなかった。
「ええ。あなたも、隣で支えてくれるステキなお相手が見つかると良いのですけれど」
「「えっ……そっちですか……」」
兄弟達の声が重なる。どうやら、ミリアにとっては、ウィルバートと理修の夫婦の姿の方が、憧れの対象のようだ。
「母上……私にはまだ少し早いかと思います。いずれ、考えさせていただきます……」
国の為にも必要だとは分かっているが、どうにも踏み出せない事だった。だが、ミリアも急いている訳ではない。
「構いませんよ。あなたが納得するお相手を見つけてください。血がどうのとこだわる必要もありません」
「母上……」
ミリアの表情には、慈愛が満ちていた。国としては、新しく生まれたばかりの存在だ。だからこそ、他の国がと、こだわる必要はないと考えている。
「凝り固まる事が、どれ程異常で、愚かな事か……私達は知っています。だから自由に。多くの民達が、自由な意思を示せるように、あなたがお手本にならなくては」
「……はい」
後に、冒険者の王が治める国として発展し、大きな国となっていく事になる。
『ディオリュート王国』
偉大な魔術師が見守る国。
その国の王の名はアルマ・ディオリュート。アルマとは古代語で『調和』の意。
彼は勇者であった司と、聖女ミリアの息子だった。
「明良さん達は、あの国へ着いたでしょうか」
ユウキがふと思い出したようにそう言ってサンドリュークの方へと目を向けた。
「どうかな。明良さんも拓海さんも、この世界が好きだから、今頃はまだのんびり散策しているかもな」
「ふふっ、良い天気ですものね」
「そうですね」
心地の良い陽気の中、母子は揃って雲一つない空を見上げ、彼の国へと向かった二人を思うのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
息子達は二人とも良い子達です。
兄が王。
では弟は……これはいずれまた。
次はリズちゃんの方を覗いてみたいと思います。
では次回、また来週(日曜日0時頃)です。
よろしくお願いします◎




