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夢からでる真実  作者: 天村真
希望の少年……千都事変
15/18

都庁襲撃 Ⅱ

次回から投稿時間を18:00とさせて頂きます

 車で行くこと十数分、都庁付近の手頃な建物の屋上に大道達はいる。

 ほかに車が無いのをいいことにかなりの速度で走っては来たが、それにしたところでたいした距離は来ていない。 しかしそこには如何とも形容しがたい光景が広がっていた。 


 7階建て程度の幅の広いビルに艶やかな黒いものが蔓のように巻きついている。 それも一つではない、都庁を囲むように五つのビルに様々な色合いのそれらが絡みついているのである。


 大道の記憶では都庁は殆ど全方位をビルに覆われていたはずだが今はその五つ以外に高い建物は見当たらない。 その代わりに瓦礫の山が点在している。


「これはまた派手にやってくれたものだ」


 大道は他人事のように言う。


「さっさと片を付けるぞ。 恵果」


 どこか冷めた声音で言う大道に恵果は頷いて返す。


 おもむろに大道が目を閉じる。

 身体の隅々まで意識を集中し、全身を一つの感覚器へと変動させる。 空気の流れを視認し、微量な土の香りを肌で感じる。

 空間を客観的視点から捉えると、自己を自己とは認識せずに、ただそこに『あるもの』として見据える。


 深い思考の海の底へと意識を沈めていく。

 息苦しさと心地よい静けさが膜の様に心を包み込む。


 しばらく行くと、どこまでも続くかのように思えた暗闇も、ついに端まできたのかそれ以上深く潜ることはできない。


 ふと、どこからか心の膜を揺さぶる音が聞こえる。 ゆりかごを揺する様に穏やかに呼びかけたかと思えば、嵐のように心に冷たい風を吹き込む。


 そんな中、確かに大道は自分を呼ぶ声を聞いた。 呼ばれて初めて自分という存在を意識したと言った方が正しいだろう。

 ともかく、その声に引きずられるように大道の意識は思考の海から浮上していく。


「大道さん、大道さん! シェイプシフトは完了しましたよ、早く戻ってきてください!」


 意識が自分の体へと戻ると、いまだ鋭敏になったままの聴覚を強く刺激する恵果の声が耳を打った。


 立ったまま意識を手放していた大道は、二,三度瞬きを繰り返すと恵果を振り返る。


「すまない、すこし深く潜りすぎた」


 平坦な声で告げる大道をみて、恵果はホッと息をつく。


「行ってくる」


 恵果から顔を背けるとそれだけ告げて大道は両脚に力を込め――――跳躍。


 手すりを飛び越え宙へと身を踊りこませる。


 一瞬の浮遊感、次いで凄まじいGが大道を襲い、地面へと引き摺り下ろそうとする。

 きらきらと無機質な輝きと共に飛翔した大道は引力に抗うことはせず、ただ地面へと吸い込まれるように落ちていった。


 日の光を反射し銀色の輝きを放ちながら落下するその姿は、まさに銃弾の如くコンクリートの地面を抉り、大地に大穴を開ける。


 とてつもない質量の物に打たれた道路は大量のコンクリート片を雨あられと降らせる。


 しかし、そのどれもが大道の体を打つたびに甲高い音を立て弾かれ、散って行く。


 その音に気づいたのか、あるいは圧倒的存在感に気づかされたのか、ヘビたちは揃いも揃って大道の方を振り返った。


 特に一番手前にいるヘビは反応が早く、ビルに巻きついたまま威嚇するように鎌首をもたげる。

 本の一瞬、ヘビの体が強張ると苦もなくビルが一つ崩れ去っていった。

 そのままするすると道とは言わず、崩れた残骸を踏み潰しながらこちらに向かってくるヘビに、大道は笑みを浮かべる。


 獰猛な笑みであった。

 闘争に酔ったような、そんな狂気的な笑みである。


 そうとは知らず、あまたの残骸をさらに細かくすり潰しながらヘビは距離を詰める。

 ざっと4、50メートルはあろう巨体は、頭からでは尾の先端が見えないほどであった。


 人の頭ほどはある瞳がまっすぐに大道を捉える。


 舌をチロチロと出し入れしながら体をS字に曲げ、何の脈略もなくバネのように飛びかかる。


 突っ込んでくる列車を彷彿とさせる大きさだが、大道はよけるそぶりは見せず、無機質に輝く右手を緩く握りこむとそれを腰溜めにして構えた。


 左手を突き出し照準を合わせるようにとびかかるヘビの鼻っ面に向ける。


 衝突する寸前、溜めていた右手を捻るように叩き出した。


 質量と質量のぶつかり合い。


 衝撃が再び大地に穴を開け、周囲の決して軽くはない瓦礫を吹き飛ばす。


 もうもうと立ち込める砂塵に、一寸先すらも見通せそうにもない。


 一陣の風が立ち込める砂埃を空にさらうとそこに残さていたのはヘビだけであった。


 しかし、そのヘビはピクリとも動かない。

 醜く潰れた鼻先は、飛び散った鱗の隙間からピンク色の肉片が覗いていた。

 やがてヘビの鼻の先に空いた穴がもぞりもぞりと動き出すと、そこから大道が絡みつくヘビの肉を払いながら出てきた。


 手で体を払うたびに金属同士のぶつかり合う耳障りな音が周囲に響く。


 潰れたヘビを一度だけ見やるとため息をつく。


「これを後4回、か。面倒だな」


 自分めがけて迫り来る巨大なヘビたちを見ながら、大道は鋼鉄とかした己の体を見て呟く。


「関節部も無しに動く金属、ターミネーター2の敵キャラじゃないか」


 場に似合わない呟きだけ残すと、大道はヘビたちめがけて走り出した。






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