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夢からでる真実  作者: 天村真
希望の少年……千都事変
13/18

真想

予定投稿ミスしてました、本当にすいません





 二人が来た時と同じようにベルが心地よい音を立てドアが開く。 違う点は入ってきた人物が一歩踏み出すと床のきしむ音が響いたことだろう。 本人はそれに頓着する素振りも見せず狭い店内を大股で進んでくる。 


「やぁ誠くん。それと君が一心くんだね。初めまして、私は大道玄慈だ。 よろしく」


 たったの五歩ほどで二人の前にたどり着いた大道は、地面から響いてくるような太い声でそう告げた。


「急ぎの用と聞いて来たのだが、一体何なのかね? こう言っちゃあなんだが私もあまり時間に余裕のある身ではないのでね。 きつい言い方かもしれんが君たちのために割ける時間は少ない。 手早く要点だけ聞こうか」


 軽く頭を下げようとする誠達を手で制し、身体を内側から震わすような声音で言う大道は、どこか誠の記憶にある大道とは違って見えた。

 誠がどう言おうかと言葉に詰まっていると、一心が口を開き、小さく、震える声を発する。


「昨日、駿美さんは……僕たちを逃がすために、一人でヘビ型のALICEと森に残ったんです……」


 手探りに話すような、そんなたどたどしい口調ではあった。 しかし、一心の瞳はまっすぐに大道を捉える。 大道も一心から目を逸らそうとはしない。 


「そうか…… そうか……」


 大道は確かめるように二度、ゆっくりと頷く。 そこには何かを納得したような色があった。

 本の一瞬、沈黙が場を覆い、壁掛け時計の秒針が進む音が耳をうつ。


「一心くん、君はあいつから本を受け取っているかい?」


 大道からの突然の質問に、一心は慌て気味ながらも鞄から本を取り出す。


「あ、はい。 ここに」


 それを見て取ると大道は深くうなずく。


「それは言わばあいつの形見みたいなもんだ。 大切にしてくれると私もうれしい」


 微かに唇を吊り上げ笑う大道に一心も照れるように微笑む。

 ふと、思い出したように大道が誠の方を振り向いた。 何か考えていたらしい誠も顔を上げる。


「それで、昨日はなにがあってそんな事になったんだ? 詳しい話を聞かせてくれ」


「えぇ。 昨日はいつも通り本の借り出しを駿美さんにお願いしてたんですが、一心の紹介もあって森の(やしろ)の前で受け渡しになったんです。 それ自体は何事もなく進んだのですが、その直後ALICEにでくわしてしまって……」 


 大道は前日の出来事を思い出しながら語る誠に眉をひそめた。


「そいつはヘビのALICEだったんだよな。 それはニシキヘビみたいなやつか?」


 誠はいいえ、と首を横に振る。


「あれはたしかアカマタと呼ばれる種類のヘビに似てました。 でもなんでいきなりニシキヘビなんか?」


 大道は悩むそぶりをするだけで誠の問いに答える事は無い。


「二人とも今日の避難令がでるきっかけになったALICEは見たか?」


「ヘビです。 それもガラガラヘビ。 尾の先に脱皮殻がありましたし間違いないと思います」


 間髪入れずに誠の口から答えがでる。 まるで最初からそれが準備されていたかのように。

 大道と誠が再び何かを考えるように押し黙ると、一心がいまいち要領を得ない顔で二人を見る。

 それに気づいた大道が一心に質問を投げかけた。


「一心くん、君はALICEとはなんなのか、知っているかね?」


 一心はそれが少々的外れな質問に思えたのだろう。 少し首を傾げてから答える。


「ALICEは人間の想像したものが質量を持って具現化したものの総称、ですか?」


 逆に疑問で答える一心に大道は首を横に振ってこたえる。


「確かにその答えで合ってはいる。しかし、強いて言うならば説明不足だな」


 誠は大道の言葉に軽くうなずいた。


「確かに、ALICEとは具現化したものの総称だが、その発生原理はまた別の名で呼ばれているのだよ。 それは――――現覚(げんかく)


「幻覚?」


 訝しむように眉間にしわを寄せ聞く一心に、大道は言う。


「おそらく君の思い浮かべている漢字とは違うだろう。 現実の現に感覚の覚で現覚だ。 人々の思考から物質を生み出す現象の名前。 そしてそれこそがALICEの発生原理。」


 何とか理解したのか一心は必死に頷いている。


「しかし、この現象は人の手に負えるものではないのだよ。 まず、頭の中にある物を具現化するにはそれが現実にあると錯覚するほどの思い込みが必要なのだ。 たとえどれほどありえない事でも信じればそれは具現化する。 逆に言えばそれほどの思いがなければ現覚は発生しない」


 要領ギリギリで稼働している一心の脳は今にもパンクしそうだが、かろうじて大道の話を理解している様子であった。


「ただし、それは個人であった場合の話だ。 集団意識による現覚というものも存在する」


苦笑いを浮かべ話を聞く一心はこれ以上聞いても理解できそうに無いが大道は続けた。


「その場合必要なのは、どれだけ集団の思いを一つにするか、だ」


殆ど独白のようなものになりつつある大道の講義であるが、誠はそれを興味深げに見ていた。


「例えばですが、一箇所に数人の人間を集めて、それらに同様の恐怖体験をさせることによって同じようなトラウマを植え付ける。 ですかね」


すらすらと言いあげる誠に大道は落ち着きのある声で言い放つ。


「その可能性は多いにあるだろうな。 モデルは同一だが形容が違うというのはその辺りに起因するのかもしれーーーーん?」


その時、大道の胸ポケットから電子音が鳴り響き二人の論議を無理矢理中断させた。


誠にちらりと視線を向けると取り出した携帯を耳に当てる。


「もしもし、大道だ。 一体どうしたんだ?」


少し機嫌を損ねたように眉をしかめていた大道であったが、それは徐々に驚愕の色へと変化していく。


「それは本当なのか? あぁ、いや、分かった。 私もすぐそちらに向かう」


慌てた様子の大道は理由を説明することもなくその場を去ろうとする。


「ちょっと待ってくださいよ大道さん。 一体何があったんですか?」


「都庁に、ALICEが現れた、それも、五体同時に」






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