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夢からでる真実  作者: 天村真
希望の少年……千都事変
12/18

名明かし

時間遅れて申し訳ございません!


 商業区は生産区を挟んで向かい側、二人の居た広場からは距離にすれば6キロメートルほどある。 そこまではエスケープロードが一直線で続いているため迷うことはない。 とはいえ仮にも避難令がでている今、エスケープロードは警備隊が遷都する際に事を円滑に進めるため、念を入れて交通整理を行っているはず。 そんな中予備都市側に行くのならばいざ知らず、次の都市から一番遠いところである商業区に子供が向かうというのは周囲の人間から一定の注目を集めてしまうだろう。 そういう理由で二人は今、多少遠回りになるのを覚悟で一般道を自転車で進んでいる。


 生産区もすでに半分以上きたというのに、ここに来るまで人影一つ見ることはなかった。


「人っこ一人いないな、俺はあんまりこっちに来ることないんだけど、いつもこんな感じなのか?」


 一心は辺りに広がる田園を見渡して不思議そうに問いかける。


「うん?あぁ、大体こんな感じだよ、上は特にな」


 上という言葉に首をかしげ、それをそのまま疑問にする。


「上って?」


 空を見上げて言う一心。 しかしそこには悠然と漂う雲が綿菓子のような白さを二人に主張しているだけだ。


「そういう意味じゃなくて……」


 そう言い、あれ、と誠が顎で示した先には青い田園には不釣り合いなコンクリートの長方体が鎮座していた。


「あの先は地下に続いてて、そこで家具とか服、そう言った雑貨を作ってるんだ」


「上は丸ごと田んぼや畑でその下ではものづくりか」


「別に隠されてたわけじゃないし、寧ろこの話はそこら中で聞かされるのに始めて知ったって反応なんだな……」


 ため息交じりにつぶやく誠。 日常的に耳に入る事でさえ一心は覚えていない。 あるいは最初から耳に入っていないのかもしれないが。


「でも不思議だよなぁ、地下なんて作ってる時間どこにあったんだろうな」


 前々回の遷都から前回の遷都、つまりはここへ移り変わる時、確か1ヶ月と少しの時間しかなかった。 街一つどころか広大な地下施設を建設する事すら不可能だ。


「確か政府の公式発表では街は予備がいくつか作られ、できるだけストックをためていっているらしいな」


 仮にそうだとしてもそれに要する膨大な資源に人手は一体どこから湧いて出たのか。 自分で言ったことに誠は困惑しさらに疑問の種を増やすこととなる。


 ふと誠の顔を見た一心は、そこに何かを見たのか話しかける事はしない。 背の高い建物がほとんど無いため商業区のビル群が見えてはいるが、それはまだ遠いところにある。 もう少し考える時間をあげてもいいだろうと思い、ペダルにかけている力を緩めた。





 その後言葉が交わされる事は無く、難しげな表情で悩んでいる誠とあたりを珍しそうに見渡す一心は、多くのビルが影を落とす商業区に足を踏み入れていた。 この先は邪魔になるだけと言う事で自転車は所定の置き場に置いてきた。


「いいか、ここでは俺達みたいな子供はタダでさえ目立つんだ。 絶対に余計な事はするなよ」


 眉間にしわを寄せ深刻に告げる誠にさすがの一心も真面目な顔で頷き返した。

 小声で付いて来いよとだけ告げると迷いのない足取りでビルとビルの間に空いた脇道に身を滑り込ませる。 何かを思い出しながら進むような、そんなたどたどしい足取りながらも交差する通路と通路の迷路を進んいく。 何度目かの曲がり角で赤茶色いレンガ造りの建物が目の前にあった。 TWILIGHTと書かれた木製のプレートを下げたドアを引くと鈴の軽やかな音が二人を出迎える。


 多くの人に踏まれ黒光りする木の床がつりさげられた照明の灯りを反射し、優しく店内を包んでいる。 床と同じ材質でできているらしいカウンターの前にゆったりとした造りの足の高いウッドチェアが並べられていた。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの向こう側、銀縁眼鏡の奥から優しげな瞳で二人を迎え入れた老人がおだやかな微笑みを浮かべながら言った。


「どうも、ご無沙汰してます」


「こんにちは」


 緩やかな笑みを浮かべ挨拶をする誠につられ一心も軽く頭を下げる。


「本日はどのようなご用件でしたでしょうか」


 コーヒーカップを棚から取り出しながら老人は言う。


「大道さんと連絡がとりたいのですがお願いできますか」


 老人は大道という言葉に眉をピクリと動かし一心を見る。


「彼は?」


 変わらず笑顔ではあるのだがその陰にどこか有無を言わせぬ迫力があった。


「こいつは俺の友人で小御門一心っていいます。 先日駿美さんから本を頂いてます」


 なるほどと呟くと途端に黒いもののとれた笑顔に一心は狐につままれたような顔をしている。


「あなたがお噂の一心さんですか。 すいませんねこんな確かめるようなことをして」


 申し訳なさそうに頭を下げるとお詫びですと二人にコーヒーの入ったカップを差し出す。 香ばしい香りが二人の鼻の奥をくすぐった。


「大道さんに連絡してきますから少々お待ちください」


 言うとカウンターの奥に姿を消す老人。


 二人がちょうどコーヒーを飲み終えた頃に老人は戻ってきた。


「今からこちらにいらっしゃるそうです。」


「じゃあ、ご迷惑でなければしばらくここで休ませて頂きます」


 年と共に刻まれたしわを更に深くさせながら笑みを浮かべる老人。


「迷惑なんてとんでもありませんよ。 見ての通り、暇な身ですからね」


 柔らかな光とコーヒーの香りが店を包む、時は穏やかに流れていった。







今まで書いたところでおかしなところの見直しをしています。

そのため若干内容が変わっていたりしますが、物語にかかわるほどの差はございませんのでご容赦くださいorz

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