千都の変
きりのいいとこまで、と思うと少し短くなりました(o_o)
「あれって……」
頼りなさげに動く唇が言葉をつくる。眼前に広がる光景に、つい漏れたといった口調だ。
「昨日のやつ、なんだよな?」
そこに一心が割り込むように先を続けた。
さながらバベルの塔のように空へ向かって伸びるそれは二人にとって目新しいものではなく、故に驚きも周りの人間に比べると小さなものだったかもしれない。 無論一度や二度の体験で人間の根幹的部分に存在する恐怖を押さえつける事などできる訳がない。 あくまでも周囲の人に比べれば、の話である。
「あいつ……俺達を追って来たのか……?」
その可能性は大いにある。ALICEの習性の一つに視認した対象を追い続ける、というものがあるからだ。 しかし――――
「昨日は暗かったし、確かな事は言えないけど……あれは昨日の蛇じゃない……」
「は?」
一心の場違いに間抜けな返答に、いつもの誠であればなにかしら気の利いた答えが返せたのかもしれないが、今その余裕を求めるのは酷な話であろう。
「昨日見た蛇は、たぶん、アカマタっていう奄美群島や沖縄に生息していたとされる蛇だ」
本で見ただけだけど、と続けた言葉は人々の喧騒に飲まれ先細りするように消えていった。
「それがどうかしたのか?」
訝しむような瞳で、何が言いたいんだと告げる一心に誠は否定するように大きく首を振る。
「いいか、あそこにいるのは、これも実際に見た訳じゃないけど、おそらくガラガラヘビだ。 少なくとも模様や色がハッキリと違う」
なおもよくわからないといった風に誠を見つめる一心に嫌気がさし、誠は頭を乱暴にかきむしった。
「だから! 種類が違うALICEが一日と経たないうちに二匹も都市の近くにでてきてるんだよ!」
一心は事の重大さをようやく理解したらしく、真ん丸に目を広げ魚のように口を動かしている。
「で、でもさ、それなら軍のやつらは一体何してんだよ。 ALICEの侵入を防ぐのがあいつらの仕事だろ」
「お前本当に何もわかってないな。 いいか、軍の防衛網を突破できるようなALICEはそうそういない。 なにせ《あの人》が守ってるんだから。 つまりこのALICEは外から入って来たんじゃない、中で生まれたんだ」
一泊おいてしばし思いを巡らせると、続きを口に出す。
「つまりALICEを自在に操れる奴がこの街を狙っている」
驚きが一周まわってついに真顔になってしまった一心と誠、周囲の雑音を無視し立ちすくむ二人に声が降りかかる。
「君達何やってるんだ! 早く逃げなさい」
見知らぬ人の声が耳を打つ、それが誰のものであったのかは人ごみのせいで分からない。 そういえばここは危険地区に指定されているのだ、二人はすっかり忘れていたが周りの人々は慌てふためいて皆都市の中央に向かっている。
「とりあえず逃げるぞ、誠」
気を取り直したのか、やけに真面目くさく言う一心に誠はうなずく。
振り返ると蛇の姿は見えない。 はて、と思っていると一心が急かすように手を引いた。
「はやく!」
疑問を捨てとりあえず逃げる、しかし――――
「一心、いまから《魂の翼》の本拠に行く。 大道さんと話さないといけないから」
この騒動について自分が思った事や、駿美さんの事。 そういった事を胸にためておくだけではいけない。 そう思っているようであった。
「それなら俺も行くけど、問題ないよな? 昨日本を受け取った時点でおれも共犯者だし」
共犯者のところをやけに自慢げに言うと二カッと笑う。
「いや、どうだろう……何かの証明がないと厳しいんじゃないか? 例えば昨日貰った本とか」
そんなもの携帯しているわけがないと思い聞いたことであったが、一心はにやにやと笑いながら腰に巻く形で付けていた鞄をそっと誠に見せる。
そこには飾り下の無い白の文庫本の背表紙があった。
「お、おまえは馬鹿か! そんなもん誰かに見つかったらただじゃすまないぞ!」
罵倒に対して笑顔を向ける一心に蔑むような目を向けながら続ける。
「まぁいいけどさ、それがあったら大丈夫だろ。 一心はここまで何できた?」
「自転車、そっちに止めてある」
「ならいいか、商業区近くだからこっからちょっと遠いけどいいよな?」
一心が頷いた
「行こう」
「行こう」
そう言う事になった。
ノリのいい友人に満足げに誠も頷き、二人で自転車をとりに行く。
最後のところ、わかる方いらっしゃると嬉しいです^ ^
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