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  作者: 鳴誠
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モノワスレ

咳が止まらないんですよね最近

暖かい風が吹いた季節()()()()()()()

きっとそうだったと思います。

それを証明するものは無く、私の記憶も絶対とは言えません。

仕方が無いのです。私は忘れてしまいました。


居たであろう家族も、大切な人も。

友も、師も何もかも。

私は何も覚えていないのです。


大怪我をした訳でも、とても歳をとった訳でもないらしいです。

ただ、ある時から少しずつ記憶が消えていくのです。

最初は知り合い程度の方々から消えるそうです

良く行くお店の店員、散髪屋の店員。

そういった方々から消えていくらしいのです。

声が消え、顔が消え、して頂いた善行すら無くなっていくらしいです。


世界が忘れていく。世界を忘れていく。

私の世界から消えていく。その絶望も全て。

色も、想いも何もかも。


分かりますか。この絶望と恐怖が。

誰かが今日も私の前を訪れます。

笑っています。沢山の話をしてくれています。

それが心地良いのは分かっています。

しかし、思い出せないのです。

それが。それが!なんて苦しいのでしょう。


私は涙に濡れてしまう。

日記を書こうが、録音を残そうが。

事実は揺るがないけれど、それを思い出せない。

遊びに行って楽しかった。こういう本を読んだ、面白かった。こういう人に出会った。それが思い出せないのです。


真っ白なシーツ、明るい光が反射して今日も日差しが届く。

どこかで、誰かが泣いていたとしても。

どこかで絶望を味わっていようとも。

太陽と月だけは変わらずこの世界を観ている。

手を伸ばすことはない。

助ける事などしない。

それでも、変わらず光という手を差し伸べ続けている。


笑ってしまう。

馬鹿馬鹿しい、と。

私は毎日忌々しく思って空を眺めているというのに。

何も変わらない不動の輝きを放ち、鎮座するモノを恨んでしまう。


私は恐ろしい。この世界を忘れてしまうことが。

嫌なもの好きなもの、美味しいもの不味いもの。

何もかも私の記憶から抜け落ちて水のように流れてしまう。


何度も何度も繰り返される夜が私は恐ろしい。

眠っている間に私はまた何かを忘れている。

また次に目を覚ました時、私は何かを忘れて起き上がるのだ。

何を忘れたのか分からないからまだ忘れていないものを思い出さねばならない。

なんて辛いだろうか!


何故私はここまでされなければならないのか!

それすら分からないのだ。

なら何故、私は生きている?

生きている意味など無いようなものだろう?


思い出すこともできず、感傷に浸ることすら許されぬ。

ソレをなんと呼ぼう。

苦しいとは言い難い何かだけがソコに残るのだ。


きっと私はこの後いつの日か、記憶から少しずつ何かを忘れていくことすら覚えていられないのだろう。


あぁならば。

覚えているものがあるうちに私は。

海の泡と消えよう。

止まった刻を創り出してしまおう。


そうして私は空を飛んだ。

私に翼などなく、自由落下するだけなのだが。

その時、一度だけ思えたのだ。

この世界の景色をずっと覚えていたいな、と。


地面に触れた彼女の身体は簡単に砕けていく。

彼女が最後に何を思ったのかはもう分からないけれど

太陽はそれを了承したように。

あまり見たくなかったかのように。

暗雲の陰に隠れてしまった。








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