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穢祓師 ―穢れを祓い、絆を紡ぐ学園異能譚― Xblades  作者: 早谷 蒼葉
第三章 孤独な闘い

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第21話 STAND-ALONE

21.STAND-ALONE


 今朝は少しだけ朝が辛かった。昨日のこと——特事、百合さん、あのビル——が、頭の中で繰り返し、気付けば夜更かししていた。たった数日前まで、何も知らなかったのに。ここにきてからの日々は短いのに、やけに重かった。


 眠い目をこすって学校へ行くと、珍しく雪村くんが朝から登校していた。


「雪村くん、おはよう」

「よぉ、大祐。昨日は寝れたか?」

「まぁ……それなりに」


 雪村くんは少し笑い、周りを見渡した。教室内では、まばらに人が固まっている。彼女は今日、学校に来るだろうか。僕は僕で考えることがあるけど、それより今は百合さんの事が何故か気になる。一人ではないという安心感が、そうさせているのかも知れない。


——その時、教室のドアが開いた。


 百合さんが来た。まっすぐ雪村くんに向かって歩いてくる。いつもの明るさはないが、思いつめている様子もない。ただ……感情を仕舞い込んだみたいな顔をしていた。


「ゆっきー……」

「おー百合。おはよ」雪村くんは普段通りに答える。

「放課後に、ちょっと付き合って。……他の三人も」

「りょー」


 あくまでも雪村くんは普段通り。それで安心したのか、百合さんは少し微笑む。彼女の感情が溢れてきた。それが嬉しくて、僕も思わず微笑んだ。


「ゆっきー……やっぱ……あんたすごい奴だね」

「いい男の間違いだろ」

「……ばか」

「——さぁ、そろそろホームルームが始まるよ!百合さんも、自分のクラスへ戻って」


 何だかいい雰囲気の二人の間に、桜さんが割り込んだ。


「なんだ、桜ちゃん……いたの?」

「知ってたよね……」

「まぁね」


 二人のやりとりを見ていると、桜さんのおかげで、普段の百合さんが少し戻ってきたと思う。桜さんをからかって気が済んだのか、彼女は微笑みながら、クルリと回り、教室を出て行った。


 いつもは嵐だけど、今日は一陣の風くらいだ。


「よく来る彼女、少し様子がおかしくなかった?」


 狛人くんも違和感を感じてたらしい。あまり人に言いふらすことでもないので、曖昧に答えておいたが。


 穏やかな時間は過ぎるのが遅い。僕はソワソワしながら、その時を待つ。休み時間に隣のクラスへひなのさんを見に行ったりもしたが、見つけることは出来なかった。百合さんも朝以来やってこない。


 そして、ようやく放課後——


 僕たちは、百合さんに連れられて屋上に集まる。何とか昨日の顛末を、うまく聞き出したいところだ。何かに巻き込まれているなら、手を貸してあげたい。


 僕がそんなことを考えていると、百合さんが口を開く。


「昨日、私たちのこと……見てたでしょー」

「——!」

「かわいいね! あの小さいきつね」


 正直驚いた。まさか、気付いていたとは。でも、なぜ——


「ゆっきーたちには、前から何かあるって思ってたんだよねー」

「百合、お前見えていたんだな?」

 

 僕は激しく動揺しているのに、雪村くんは冷静だ。恭介くんも特に驚いた様子はない。桜さんは……驚いて口が開いていることに気付いていない。


——風の音だけが、屋上を通り抜けた。


「みえるよー昔っから。最近、強くなってきた感じだけど」

「なるほどね……そういうことか」

「どういうことか、わかんないけど、そゆことー」


 百合さんはフェンスにもたれて、片足をブラブラさせながら言う。言葉に抑揚がないので、感情が読めない。僕は百合さんが口を開くのを待つしかなかった。


「実はさー。みんなに、お願いがあって……」

「まぁ、とりあえず、言ってみな」

「うん……今回の件、みんな何も言わずに、黙って見守ってて欲しいんだ」


 もちろん、誰にも話さないし、話す気もない。ただ、百合さんの意図するところが分からない。


 すると、僕の疑問を察してくれたのか、桜さんが口を開く。


「百合さん、なぜなの?」

「ん―、ないしょ」

「私たちは力になりたいと思ってるよ」

「マジ?優しすぎるんですけどー」

「百合さんっ!」


 桜さんの声が震えている。いつも穏やかな桜さんが、こんなに感情的になるのは初めて見た。


「桜ちゃん……うちのために怒ってくれるんだね。ありがとう」

「そんなことより——」

「みんなには関係ないから」


 百合さんにハッキリと言われて、桜さんが言葉を止めた。そこにあったのは、彼女の揺るがない意志だ。誰にも変えられない強さを感じる。


 だが……それでも、雪村くんなら——


「……わかった。俺たちは手を出さない」

「雪村くん……それは……」

「いいんだよ、大祐。百合はそれを望んでいない」

「でもっ——」

「ありがと!だいすけ……くん、だっけ?」

「……うん」

「やっさしー……嬉しいよ。大ちゃんって呼ばせて」


 笑顔で話しているのに、なんでこんなにも悲壮感が漂っているのだろう。僕は彼女の決心を前に、涙が零れそうになった。何だか最近涙もろい気がする。


「これは、うちとあの子の問題だから、だから……」

「そうだな。おまえら二人のことに口を出す気はねえよ」

「ゆっきー……ありがと」

「だから……」

「だから」


 雪村くんは少し間をおいた。百合さんも続きを待っている。


「安心しろよ」と少年のような笑顔で雪村くんが言葉を閉じた。


 百合さんの顔が赤い。雪村くんの顔を見たまま、視線を外せないようだ。見惚れている、という表現がしっくりくる。そして、なぜか桜さんの顔も赤い。


「あ、安心も何も、最初から心配もしてないよ……」百合さんの言葉に力が入ってない。

「ならいい」


 桜さんが少し立ち直って言う。


「百合さん、危ないことはしないでね」

「危ないことはうちだって嫌だよーそれに、危険なんて無いっしょ」

「ほんと?」

「桜ちゃんは心配性だねーやさしっ!」


 少し沈黙の時間があり、百合さんが再び口を開く。


「じゃあ、うちは行くね。みんな付き合ってくれてありがと」

「今日は今からどちらへ?」


 ずっと沈黙していた恭介くんが、初めて声を出す。少し違和感のある声になっている。


「ひなのの、おうちー」——空気が、僕たちにしか分らない程度に震えた。

「また学校でねー……じゃ、バイバイ——」


 百合さんは助けを求めてない。いや、彼女の意志で求めない。彼女が一人で向かう先の孤独に、僕たちは何が出来るだろう。


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